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【インサイトは最強のアイデア発想法の一つ】 観光戦略(マイクロツーリズム)のインサイト まとめ

インサイトは日本語で「洞察(どうさつ)」。Insight=内部を深く観る、と語彙通りとっても誤解は生じないでしょう。
マーケティングでのインサイトは、正確に言うとコンシューマー・インサイト(Comsumer Insight : 消費者インサイト)で、よく生じる誤解は「消費者の本音」などの訳から、インサイトが消費者主体の言葉と思ってしまうことです。「洞察」の主体は、消費者側ではなく観察者側にあります

古今東西の発想法(系譜)

下図は、自分のためにメモしている古今東西の発想法。私がマーケティングの仕事で実践したことのある方法を歴史順に並べてあります。
人類の歴史で最も古い発想法は「問題発見と解決」、おふろのなかのアルキメデスの声が聞こえてきそうですね。

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いくつかは、あなたも実際にやったことがあるかもしれません。

ちなみに青い字は日本で生まれた発想法です。
有名な「KJ法」は、川喜多二郎氏の優れた発明。世界でも卓越した手法であるのにも関わらず、日本以外では普及しませんでした。
未来予兆情報分析」はあまり知られてはいませんが、現多摩大学名誉教授の星野克美氏の記号論マーケティングによる発想法。世の中にあふれる情報の中から有徴記号(兆し)を見つけ出し、消費者ニーズに置き換えて未来を予測するというもの。「予兆情報分析」はカードになっていて、「予兆→未来(社会構造変化)→消費者欲求→提供価値(アイデア)」がその主な構成です。そのアイデアカードを集めてKJ法分析にかけます。
潜在ニーズ」も日本で発見され、日本でのみ普及した概念で、「消費者インサイト」の考え方がイギリスで生まれるまで、マーケティング発想法を長らくリードして来ました。

後、知られてないのは系譜の下から4番目の「バックル発想法(フィードバック発想法、バックルはベルトの留め金)」。シンプルで最も完成度の高いフレームワークです。
これはフランスの人類学・社会学者、エドガール・モランの「バックル構造(フィードバック構造)」から生まれたもので、単純な3つの空欄から出来ています。

バックル構造は、彼の主著『方法』(全6巻)の特に後半を支えた考え方、例えば「過去」と「現在」は、どちらも影響をしあうバックル構造になっている。「現在」の視点で「過去」の姿は変わるし、「現在」は「過去」からの流れで成立している、という相互の関係を2つの空欄で表し、その2つをベルトの留め金のようにフィードバックする線で結んだものです。
バックル発想法は、その2つの空欄から生まれる第3の空欄をアイデアに置いたものです。「過去」⇔「現在」➡「未来」の3つの空欄をイメージするといいでしょう。

ちなみに「バックル発想法」でネット検索すると、下の画像のみが1点出てきました。(私の著書『1万人市場調査で読み解くツイッター社会進化論』朝日新聞出版社刊です。)
左と真ん中の2つの空欄が、フィードバックする構造です。左は「社会構造変化」や「時代潮流」、真ん中の「ツイッターのつぶやき」というバックル構造。先ほど「⇔」で説明した部分が、ちょうど腰に巻いたベルトを留めた形になっていますね。
そして、右の空欄は留め金から出たベルトの先、そこに「商品アイデア」と置くと発想法になります。

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発想法の系譜については紙面が足りませんのでここまで。それぞれの特長、やり方、有効性についてはいつか機会があればということにしましょう。

主題は、インサイトが発想法の一つということでした。
インサイトに近いのは潜在ニーズです。潜在ニーズは発見されるもの、インサイト(洞察)と同じく、その行為の主体は観察者です。
但し、インサイトの場合、顕在ニーズであっても今後さらに拡大するものは含まれます。最も大事なのは、インサイトが消費者の欲求をベースにしていることです。

アイデアを生み出すにはどんなアプローチ、手法をとってもいいし、そもそも手法にとらわれる必要も全くありません。
ただ、人は、消費者・生活者(ちなみに生活者という用語も日本で生まれました)の思いや欲求を理解することで、彼らに何が喜ばれるか、どんな感動を与えられるかと考え、脳のアイデア回路が動きやすくなるのです。消費者との対話によるアイデア発想法と言ってもいいでしょう。
1人の消費者像を仮想で描いて提供価値を考えるペルソナ手法が、「発想法の系譜」のなかででインサイトの一部に置かれているのはその理由です。

インサイトからのアイデア発想~マイクロツーリズム(近隣旅行)のインサイト全体から

さて。下の図が、これまで紹介してきたマイクロツーリズムのインサイトの全体、いわば消費者欲求の全体地図です。

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オレンジがキーインサイト、欲求の大きな島です。ブルーがインサイト候補、キーインサイトに連なる群島。

まず、キーインサイトからインサイトの総体を感じ取ってもいいかも知れません。一人の消費者が近隣の旅行についてこんな思いを持っています。あなたがもしも観光ビジネスの関係者だとするとどどのキーインサイトから刺激を受けますか?
4つのキーインサイトは、星野リゾートの戦略と比較しました。さすがに現場での多くの経験と知見をもつ星野リゾートと大枠は変わりませんでしたが、インサイトの方は消費者視点という一貫した視座があなたの発想力を助けたはずです。

キーインサイトとそれぞれのインサイト候補が刺激するアイデアについては、それぞれ
「地元観光力再発見の楽しみ」「密でないところでリラックス」
「近場ならではののんびり・贅沢」「美味しい食事が旅行気分にしてくれる」

で触れました。

あなたの仕事のポジションや課題によっては、もっと小さなインサイト候補に着目して、それをキーインサイトに昇格させることもできます。

私は、キーインサイト「近場ならではののんびり・贅沢」のところの、右端の3段目(一番下)の「自宅に帰らずホテルで出張気分」というインサイト候補が、不思議なインサイトだなと目を引きました。
これは、郊外の観光地だけでなく都心のホテルにもマイクロツーリズムのチャンスがあることを示しています

そうか、この人は「在宅テレワーク」を自宅ではなく、ホテルに求めたのかもしれない。そうしたら提供できるものは何だろう?「出張気分」を盛り上げるサービスって何だろう。
部屋ではサクサクと使えるwi‐fi、仕事に適するデスク、快適な椅子。部屋のテレビでできるオンライン会議、背景の仕事場らしい映り込み。
ロビーに、もっと仕事のしやすいスポットを用意してみたらどうだろう。
ホテルのまわりのお店の案内地図も、もう少し穴場感があってもいいかもしれない。キーインサイト「地元観光力再発見の楽しみ」にもつながる。

などなど、インサイトに依ることでさまざまなアイデアが出てきます。インサイトという発想法は、ブレーンストーミングでも参加者共通の発想基盤として役立つはずです。
(金)

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