見出し画像

心を動かすボードゲームデザイン論|ルール編

※このnoteでは、ユーザーを夢中にさせる、ボードゲームのルールデザインについてお話します。

前回のコンポーネント編に続いて、今回はルールのデザインについて紹介します。

・パッケージ編
・コンポーネント編
・ルール編(本note)


ゲームを通じて、ユーザー何を提供したいのかを明確にする

ボードゲームに限らず、全てのサービスはユーザーに何らかのメリットを提供するものです。

ではボードゲームで言えば、相手に打ち勝つ快感や、疑似的なギャンブル体験によるスリルなどはイメージしやすいと思います。
知育目的のボードゲームなら、論理的思考力を養うことだったり、変わり種だと、日本酒の知識を獲得できるゲームもあります。

ここに正解不正解はありません。自分が心の底からやりたいと思うものを設定しましょう。

僕のデザインしたゲーム『シトラスポット』では、「ゲームを通じて、相手との心の距離を縮めること」を目的に設定しました。

目的を設定したら、いよいよルール作りです。
ユーザーを夢中にさせるルールをデザインする上で、大切なポイントは以下の通りです。

疲れと飽きを計算に入れ、気持ちをリフレッシュするポイントを作る

どんなに面白いゲームでも、プレイしていると必ず疲れと飽きを感じます。コンポーネント編で述べた通り、ボードゲームはユーザーに精神的な負荷をかけるものです。

また、最初はドキドキワクワクする体験でも、脳は同じ刺激が何度も繰り返されると反応が徐々に弱まるように出来ています。(心的飽和や馴化と呼ばれています)

なので、ゲーム全体の流れを俯瞰して、要所要所で異なる刺激を用意する必要があります。交渉フェーズや競りフェーズなど、やることを区切っているゲームは、刺激の種類を変えてユーザーの疲れや飽きを感じさせないようにしているわけです。

画像2

『シトラスポット』は、1回でなく3回勝ったプレイヤーが勝者となる、3勝ルールを採用しています。これには、長くても10分程度で勝敗を判定し、気持ちをリフレッシュさせる狙いがあります。

同時に、これには、それぞれのフェーズで理解しなければいけないことを最小限にする狙いもあります。詳しく説明すると、3戦のうち、1戦目はルールを理解し、2戦目は「どうすれば有利になるのか」「どんな戦術が存在するのか」を理解してもらいます。そして3戦目で相手の心理を読ませるようにしています。

また、テンポを作ることも重要です。
ずっと空気が弛緩していたら楽しくないですが、ずっと緊張状態でいるのも、体験をしんどくさせてしまいます。ゲームの中でテンポに緩急をつけましょう。
シトラスポットが3勝ルールなのも、合間合間の感想戦が弛緩タイミングとして機能するように計算されてのことです。

ユーザーに物語を紡がせることで、人に話したくなるようにする

ポケットモンスターシリーズをプレイした人は、自分が最初にどのポケモンを選んだのか、人に話したくなりませんか?
ドラゴンクエスト5で、結婚相手としてビアンカ/フローラ/デボラの誰を選んだのか、いまだにゲーマーの中では酒の肴になるテーマです。

ゲームに限らず、人は自分の性格が出る選択をした時、それを他人に話したくなります。なぜなら、そこにはユーザー自身が作る物語性があるからです。

ボードゲームの体験に物語性を入れるためには、二律背反のアンビバレントな選択をさせるようにルールをデザインします。「愛する人ひとりを助けるか、見ず知らずの100人の子供を助けるか」というアレです。流行り言葉で言うところの「ナラティブなデザイン」というやつをルールに入れ込みましょう。

画像2

『シトラスポット』でその役割を果たすものが、レモンの存在です。
レモンを使うと、プレイヤーはそのターンは負けにつながるかもしれないチェックを回避できます。しかし、レモンは3回までしか使えません。

このルールにより、プレイヤーは「レモンを使えばこのターンは安全に終えられる。しかし、もしこの袋の中身がただのオレンジであれば、次のターンから苦しくなるし、何より対戦相手を追い詰める手段が少なくなる」という状況に追い込まれます。

選択と裁量をユーザーに与え、「自分がこのゲームの結末を選んでいる」という物語性を与える。これが人がゲームに夢中になる仕組みです。

また、この選択がうまくいったかどうかを学習させる仕掛けも必要です。あれこれ試行錯誤した末にうまくいくことで、人間の脳は喜びを覚えます。
なので、ゲーム中の試行錯誤がうまくいったかどうかのフィードバックをユーザーに与え、もっとうまくプレイするにはどうしたらいいか、常にトライアンドエラーできる環境を提供しましょう。

まとめ

ユーザーを夢中にさせるルールデザインで大切なポイントは以下の3点です

・ゲームを通じてユーザー何を体験させたいかを明確にする
・疲れと飽きをリフレッシュするポイントを作り、テンポを生む
・ユーザーに物語を紡がせるデザインにする

ルールは、ボードゲームの根幹を担うもので、作り方にこれという答えはありません。最終的には、自分が心の底から楽しいと思えるものを作ろうとしてください。その方が最後まで走り抜けられます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本noteが皆様のボードゲームデザインの参考になれば幸いです。

本シリーズの他noteはこちらから→


最後までお読みいただき、ありがとうございます!投稿のお知らせや日頃の気づきを呟いているTwitter( https://twitter.com/thin_valley )も、よろしければご覧ください。