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【15冊目】フィッシュ・アンド・チップスの歴史 / パニコス・パナイー

1/4です。
本日から仕事始めという方もいらっしゃるのではないですかね。ただ、今年はお正月休みを長めに取る方も多いということで。ならば、と、いうことで、当店は今週いっぱいは14時オープンとしております。平日ですが14時から営業しておりますので、どうぞ平日昼飲みチャンスをご利用くださいませ。

しかしアレですね。新年も明けた4日目ということですから、そろそろお仕事モードもしっかりと入れていきたいものですね。寝正月という名のステイホームをやったあとで。新しい月が来たらまずやるべきこととは。そう。当店月初のお決まり、ウィグタウン読書部ですね。

さぁ、先月の課題図書は、今までとグッと趣向を変えて、パニコス・パナイーの『フィッシュ・アンド・チップスの歴史』。ご存知の通り、当店なんていうのは町で一番のフィッシュ&チップスを出すお店なわけじゃないですか。フライデーともなると、熱々のフィッシュ&チップスでビールをがぶがぶやるなんて英国紳士淑女で、店はみっつみつにされているわけじゃないですか。そんなお店ですから、やはりこの本なんていうのは必読書ですよね。やっていきましょう。

さて。
話は変わるようなんですが、都内は再び緊急事態宣言発出までのカウントダウンに入りましたね。これにより、飲食店は20時までの営業になるなんて言われているんですが、正確にはお酒の提供が認められるのは19時まで、となる気配が濃厚なんですね。となると、当店なんかは酒場なものですから。19時まで酒場として営業した後の時間はどのやうに過ごせばいいのだらう。フィッシュ&チップス売りにでも転身しようかな、など考えたわけなんですが、本書によると、なんでもフィッシュ&チップスの歴史はフライドフィッシュの行商からスタートしたなんてあるわけですね。フライドフィッシュの行商。なるほど。屋台かなんか引いて。井の頭パークかなんか行って。「安いよ安いよ。安くて美味しい、フィッシュ&チップスだよ」なんて声をあげるなんていうのもいいのかもしれない。さらに本書の言うところには、イギリスが経済発展を遂げるにあたって、フィッシュ&チップスは初めての出来合い、持ち帰りの料理として活躍したと。安価で温かく、調理の時間が節約でき、お腹いっぱいになってパワーも出る、万能フードとして、イギリスの発展を下支えしたとある。なるほど。そこへ行くと現在。「緊急事態宣言か」みたいな記事のヤフコメを眺めていたら「20時までになったら仕事終わりでどこでご飯食べればいいの?前回はコンビニの棚もガラガラだった」などのコメントを見かける。なるほど。忙しい産業革命期のイギリス人が自炊の時間さえ惜しんで働いたように。忙しい現代人ならば仕事終わりが8時を回ることもあるだろう。その時にあったのが熱々のフィッシュ&チップスだったのなら、それは彼らのパワーになるのではないか。これが私にできる社会貢献というやつなのではないか。時勢に合わせたニューノーマルと言うやつなのではないか。など考えついたんですね。まぁ。どうなるかは分かりませんが。

なかなか含蓄のある食文化史の書籍だったわけなんですが、私、これを読み進めるうちにあることに気が付きましてね。この本、フィッシュ&チップスの歴史を言っているにも関わらず、一度たりとも「タルタルソース」って単語が出てこないんですよ。いかがです?フィッシュ&チップスって言ったらタルタルソースって感じがするじゃないですか。しかし、フィッシュ&チップスの歴史にタルタルソースはいないんですよ。圧倒的にソルト&ビネガーなんですよ。これもすごく面白いですよね。いつ、フィッシュ&チップスとタルタルソースが結婚したのかって言うのも研究対象になりそうな気がしますね。しませんかね。タルタルソースは必須じゃないですかね。まぁ。そうですかね。

また、本書に於いては、訳者あとがきにいたく共感してしまったので紹介しようと思う。曰く「一時期イギリスで生活していたことがあると人に話すと、時折『食べ物が美味しくないと言いますから大変だったでしょう?』などと同情と揶揄が混じった質問を受けることがある。(中略)『そんなことはなかった』と答えると『それでも日本で食べた方が美味しいでしょう?』と聞かれる」など。これはダブリンで一時期生活していた私もまま受けることで、割りと辟易する質問でもある。挙句、カレーや中華は美味しい、などいう話になるのだが、そこには移民の料理はイギリス料理とはいえない、という考えがある。本書に於いてパナイーは、フライドフィッシュはユダヤ由来、拍子木型にカットされたフライドポテトはフランス由来、としており、イギリスで発展を遂げたカレーや中華がイギリス料理でないのなら、やはりフィッシュ&チップスもイギリス料理ではなくなるだろう(やや乱暴な言い方ではあることは認識しています)。日本でも天麩羅とかナポリタンとかありますしね。それこそラーメンはもはや日本食、とかいう人が、カレーをイギリス料理と言えない道理はないですね。このダイバーシティが重要視される社会で、ナショナルアイデンティティとローカリゼーションとの付き合い方を、フィッシュ&チップスという一皿に見た気がしますね。偉大な一皿ですね。

というわけで、先月はパニコス・パナイー『フィッシュ・アンド・チップスの歴史』でした。今月1月の課題図書は、織田作之助『夫婦善哉』です。やっていきましょう。

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