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【13冊目】華氏451度 / レイ・ブラッドベリ

月曜日です。しかしながら休前日です。
人によっては今日も休みにしちゃって「4連休だぜー!ふぅーぃ!」って方もいらっしゃるんじゃないかと思うんですがね。そんなあなたにも平等に訪れる月初のお決まりといえば。そう。ウィグタウン読書部ですね。

さて。
今回の課題図書は、レイ・ブラッドベリ『華氏451度』。6月の課題図書であった『1984年』と並んで「読んでないのになんとなく内容だけは知っている」という枠を代表するディストピア小説ですね。何よりもまずタイトルがカッコいい。普段、摂氏で生活している我々には、華氏451度と言われてもどのくらいの温度かピンとこないあたりもイケてる気がする(ちなみに摂氏だと233度)。そしてこの温度が何を意味するかというと、なんでもそれは「紙が燃え始める温度」だということで、かっこいいですね。これを知って以降、私は何かを燃やす際には必ず451という数字を使うことにしている。電話のベルは7、パイロットの数は21、そしてものを燃やす時は451ですね。読んでいきましょう。

さて。
例によってここからは【ネタバレ注意】になるわけですがね。本が禁制品となった世界の話ですがね。本を燃やす "昇火士" としてして勤める主人公モンターグがひょんなことから本を手に入れてしまう。この "昇火士" って翻訳はうまいですよね。消火士、英語ならファイアマンであるところをうまいこと音はそのままに意味も変えてきている。関心ですね。それはさておき。

私が今作で好きなシーンの一つとして、モンターグを同僚のベイティーが詰問するシーンがあるんですがね。この時ベイティーは、哲学、宗教、詩、戯曲、文学論、批評論など数多くの作品に表れる文句を引用しながらモンターグを説き伏せようとするんですね。その様なんかは完全にフリースタイルバトルですよね。言葉自体が武器になる、と言うのはもはやヒプマイの世界観ですよね。ラップして、爆発。みたいな。言葉で相手を言い負かして、勝利。みたいな。まぁそれもさておき。

本が禁制品となるに至った理由として、やはりそこには全体主義的思想がある。一つの大きなグループを統べる為には、個は愚かな方が都合がいい。ポル・ポトが、愚民思想には高い教養や姿勢は邪魔になると考え「メガネをかけている」人を、ただそれだけの理由で虐殺したようなやりかたですね。本は愚かで、その代わり人が娯楽を何に求めているかというと、壁にはめ込まれた "家族" とのやりとりだ。これは本よりもテレビやスマホのインスタントな情報が人々に愛されている現代の風刺としても機能しているだろう。我々はインスタントな情報を得ることが容易になったおかげで、情報の本質を捉える能力というのを失ってきてはしないだろうか?作中でモンターグは妻に対して言う。「古典は十五分のラジオプロに縮められ、次にはカットされて二分間の紹介コラムにおさまり、最後は十行かそこらの梗概となって辞書にのる」。まとめサイトや140文字の感想文だけ読んで、その本を知った気になることも多い私には、なんとも耳が痛いことである。この短縮の行き着く先こそ、以前の課題図書で扱った『1984年』における "ニュースピーク" となるのだろう。モンターグはこう続ける。「人生は挫折の集合体になったんだ(中略)。バン、ボコッ、ワーオ!なにもかもがこのとおりさ」。泣いたり笑ったり怒ったり苦しんだり、果ては愛したり慈しんだりといった感情でさえも簡単に起こさせるものに現代を生きる我々は日々触れている。果たしてそれは本当の愛だろうか?愛を感じた気になって、感動した気になって、引用の引用を引用し続けて、愛を誰かにコピペしているだけではないだろうか。そんな気にもなってきますね。プロパガンダやマーケティングだけを見て、行ってもいない場所に星5つをつけるようなレビューサイトみたいなやり口ですね。

物語の後半、モンターグは同志を見つけて、本の伝道者となる。このコミュニティには多くの人がおり、そして彼らはそれぞれが本なのだという。本の形態は失われているが、本に書かれていることは、それぞれの頭の中で生き続けているのだと。そうして各人が一つの書籍としてのポジションを得ているにも関わらず、コミュニティの代表はこう説く。「われわれは決して重要人物などではない。知識をひけらかしてはならない。他人より優れているなどと思ってはならない」と。この辺のスタンスは、反戦といったテーマとも絡んできますね。愚かな行為を2度と繰り返すまいという意思が本には宿っていると言えそうですね。

文章の力は弱い。ツイッター4枚の画像に収まる漫画イラストより、インスタの一枚の写真より弱い。しかし、文章から得た知見は、われわれの人生に大きな生命力を与えてくれるはずだ。インスタントな感動よりも本質的な虚無を。面白さよりも興味深さを。会話よりも意味のある沈黙を。我々は時に手にするべきなのかもしれませんね。

さて。
そういうわけで先月の課題図書はレイ・ブラッドベリ『華氏451度』でした。今月の課題図書は飛浩隆『自生の夢』です。現代SFの、想像力の究極点という短編SF集。秋の夜長に想像力の翼を広げるには、良い選書ですね。やっていきましょう。

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