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第6話 『乗船』

このマリーナで
ボートにせよ
ヨットにせよ...
ほとんどがFRP(ガラス繊維入りのプラスチック)製の船の中
木造の船は2艇しかなかった…

1艇は
もちろん
”伝説の造船技師”氏のヨット
『麗しの天使』号

そして
もう1艇が
偶然にも、この時声をかけてくれた
この紳士の船だった

”出会いの紳士”は『温厚』を絵に描いたような風貌で、
それでいて、浅黒く、
『海の男』感満載の独特のしみがある顔が
海の厳しさを物語っていました

「まぁ、その靴のままでいいから、あがんなよ」

「あ、ありがとうございます」

艫(とも、船のお尻の方向)の舷側(げんそく、船の横部分)から
その木造ヨットに乗船した

昔乗ったことのある
2、3人乗り用の
釣り舟のようには揺れず
幾千と海を渡った
ヨット自体の揺らぎない自信のように
船は揺れなかった

「この船、ハーバーマスターに
マリーナの中を案内してもらったときに
きれいですねって話をしていた船なんです。
その木造船の船長さんだったんですね」

「はっはっはっ、ありがとうね
でも、これはね
木は外艤装(艤装=船のデザイン全般のこと)と内部だけで、
本体はFRPだよ」

たしかに床の一部から見える底のほうは
FRPでできていた

「ところでなんで
船に興味をもったんだい?」

その”出会いの紳士”に聞かれて、
馬鹿正直に
『俺の夢』を語り始めた

すると…
「あぁ~そう
夢はいいねぇ
そっか、でもやっぱり、
難しいよ、それは
そうだなぁ~…」

と言って、
”出会いの紳士”はおもむろに
船にある小さなテーブルにあった携帯を手にした。

「…あ、もしもし?
いま、どこですか?
僕の船まで来てもらえませんかねぇ?
ハーバーマスターに紹介された
ちょっと、面白い人がいるんですよ」

といって、
このヨット仲間の主”おやびん”に連絡を取った

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