マーダーミステリーのすすめ

 ここ何年か友人から誘ってもらいマーダーミステリーというゲームを楽しんでいる。なかなか耳馴染みもなくまだまだ知名度も低いだろうが、これが存外に面白いのだ。
 かいつまんで言うとオンラインの音声だけで行われるロールプレイングゲームとして、任意の配役にになりきり証拠となるカードを集めながら殺人事件を解決していくゲームである。中国のパーティーゲームが発祥という話を聞いたことがあるが真実のほどはわからない。5年ほど前から密かなブームを迎えていたようであり、現在Boothなどで販売されているものだけでもおびただしい数がある。謎を解いていく過程のギミックだったり運要素の多寡だったりがゲームごとにそれぞれ違うし、ゲームの方向性にも大きく幅がある。演劇性の高い個々のロールプレイを重視した感情に訴えかけるものであったり、推理小説も裸足で逃げ出すような唸らされるシナリオ、推理過程を楽しむものもある。終了する最後の一瞬までどのような作品かわからない分、そのワクワク感を楽しみに一回一回を味わっている。
 マーダーミステリーは他のボードゲームなどと比較すると、時間も割合にかかる部類かもしれない。例えば先日やった比較的簡素な設えであった2人用マーダーミステリーでも、2時に始まり終わったのは5時前であった。それに感想戦とかシナリオを進めてくれるGM(ゲームマスター)の裏話などを聞くと1時間ほどその後に時間を重ねることになる。例えるなら昼食から夕食の間、夕食から寝るまでの間などが丸々費やされる目算になるわけだが、それを上回るだけのスリリングな展開、予測もつかない結末が約束されているので全く苦にならない。
 特性上一度ゲームをプレイヤーとして経験/観戦してしまうとネタバレになってしまい、もう二度と同じゲームを味わうことができない。まさしくマーダーミステリーは一期一会なのだ。同時にこれはネックでもある。おいそれと未体験のゲームについて感想を共有することができないし、知らない人に魅力を知ってもらうことすら容易ではない。「このゲームはめちゃくちゃ推理が大変だった!」すらネタバレになってしまうのだ(シナリオの方向性がある程度わかってしまう)。今一つ人気爆発!とならないのにはこうした理由もあるのだろうと邪推する。
 初めて私がこのゲームに出会ったのは1年半前のことだ。Among usという別ゲームを定期的にしている界隈から誘われたのが(後々知ったのだが)ロングセラーの「狂気山脈 陰謀の分水嶺」という作品だったのだ。これが三部作で、なおかつ詳細は伏せるもののとても魅力的な作品だったのだ。ゲームマスターとして「狂気山脈」のシナリオを差配したこともあるほど気に入っている。題材となったクトゥルフ神話についても色々読んでみるきっかけとなったし、気づけば多くのマーダーミステリー作品を経験してきている。このゲームを通じて知り合うことができた人もいるし、なかなか世界が広がった思いである。なお余談ではあるがそうした人たちに「狂気山脈」シリーズがマーダーミステリーの入口です!と言うと多くの場合特徴的な反応をされるのだが、それもまたご愛嬌である。

 初めての人にとって私がおすすめしたいのは「亡霊島殺人事件」だ。特に前提知識の多寡で面白さが変動するタイプの作品ではなく、人数も4人とコンパクトで時間もそこまで長くない。私もシナリオを持っていてゲームマスターをすることもできるので、プレイヤーとして興味がある友人はいつでも連絡待ってます。

 一般的に、マーダーミステリーにとっての醍醐味の一つがロールプレイである。どの様なシナリオであれ割り当てられた役になりきり「演じる」ことが求められるのだが、これが自分はあまり上手ではない。配役によってはどうしても自意識が出てきてしまいロールプレイの邪魔をしてしまうことがある。このゲームをする人が等しく抱えている悩みなのかもしれないが、私はこの種の自意識というものはマーダーミステリーをやってみるまで明確に意識したことがなかった。そもそも他人を演じるという機会が皆無だったため、新しい自分を知ったような不思議な感覚を味わったのだ。当然色々なゲームを重ねるにつれ苦手意識も漸減していっているが、それでもプレイ中に自意識が頭をもたげてしまい「やっちまった……」と思うときもある。くどいようだがマーダーミステリーは同じシナリオでのやり直しが不可能だ。感想戦で仲間に話して余韻に水を指すわけにもいかないので、その時は人知れず落ち込むのだ。
 先日YouTubeで声優の鈴村健一さんが偶然にも演技における自意識との向き合い方について動画を出していた。これを見たら自分にとって腑に落ちる点が多々あり、早速マーダーミステリーに生かしてみようと思っている。

 実は最近勢い余ってマーダーミステリーのシナリオを自分で作ってみた。当然デザイン、レイアウトなどは頼む人もおらず自分で手がける技術もなく、今は寝かせてある状態だ。けれども自分の友人達がどういうプレイをするのか、何より自分の頭をひねり出した結果どういった物ができるのか、それが面白いかそうでないかを一度実証してみたいという思いが強くある。何か機会があれば近いうちに形にできるかもしれない。
(手持ちの既発売マーダーミステリーのシナリオのプレイヤーは随時募集中です)


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