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沢田太陽の2020年間ベストアルバム 20-11位

どうも。

では、残り20枚となった2020年間ベスト、トップ20にいきましょう。

こんな感じです!

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はい。これらもとてもすばらしいアルバムですが、早速20位からいきましょう。

20.After Hours/The Weeknd

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20位はザ・ウィーケンド。これは本当に今年、大ヒットでしたよね。彼がヒットチャートの常連になって5年くらい。その間、やれ「インディでの3部作の方がよかった」のなんだ言われ続けてきましたが、これが好評だったので、ようやくその声が収まるのではないかと思ってます。前作もいいアルバムだったんですけど、僕もこれは納得で好きなアルバムですね。本作はこのジャケ写の色鮮やかな肩パッド・スーツにも象徴される通り、もう、コッテコテの80s後半モード。全編にわたって「マイアミ・バイス」みたいなシンセが鳴り響く彼流R&Bが展開されますけど、さすがだなあと思うのは、「エイティーズでも86年以降はシンセの音がダサすぎてリバイバルはないだろう」と、リアルタイマーの僕でさえ思っていたところをアリにさせちゃうんですからね。ヴェイパー・ウェイヴやシティ・ポップのリバイバルをうまいこと生かした感じですね。ただ、「Blinding Lights」1曲だけがやけに一人歩きして、他にもいい曲たくさんあったのに、あの曲だけが1年中ビルボードでヒットしてしまって、ちょっと食傷気味になってしまったのは、これ、彼としても誤算だったのではないかな。あと、スーパーボウル出演が原因と言われる、グラミーでの不当無視も悲しいことでしたね。

19.How I'm Feeling Now/Charli XCX

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19位はチャーリーXCX。彼女はもう、毎年のようにアルバムが出てるほど多作家ですけど、このアルバムはコロナ禍を受けて、急遽作り上げた作品としてもすごく話題になりましたね。チャーリーとしては、去年のアルバムの方が、レーベルとしても「満を持して」の感じで売る気満々だったのに、そっちの方は売れ方も評判もそこそこだったのに、売り出す準備もできないくらい唐突な本作は売れ方もいつもとさほど変わらず、評判は最高傑作との呼び声も多い。チャーリーの場合、これまでの最高傑作も2017年の暮れにひっそり出したミックステープ「Pop 2」だったので、創造力がムクムクと沸く瞬間にポンと出す方が結果が良いのかもしれません。そんな、このアルバムなんですが、僕にはなんかすごく「エレクトロ界のジーザス&メリー・チェイン」みたいな、彼女らしい感覚が詰まってて、そこが好きなんですよね。表面とリズムはエレクトロのグリッチ・ノイズみたいのがこれでもかと鳴り響いてるのでに、その背後に出てくるメロディの、これがこれが甘美でかわいらしいこと。この両極ができる人、現状で彼女しかいないし、これが彼女の専売特許である限り、チャーリーはずっと強いと思います。望むらくは「カルトな支持」から抜け出ては欲しいんですけどね。

18.狂(KLUE)/GEZAN

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そして18位に、邦楽アーティストとしては今年2組め、日本人アーティストとして3組目、今年の邦楽ナンバーワンの登場です。GEZANの「狂(KLUE)」。いやあ、このアルバムは衝撃でしたね。これを聴いて驚いたことが「日本のロック、もう一回聴いてみよう」と、10数年ぶりに僕の心を突き動かす契機にもなりましたからね。日本のバンドとしてはあらゆる意味で破格ですね。ハードコア的なグラウル(デス声)をサイケデリックにループできるアンダーグラウンドな感性がありながら、U2のジ・エッジほぼ直系なギター・リフで曲を組み立て、曲そのものがすごくメロディック。過去作も聴くにフィッシュマンズやナンバーガールの持ってた何かを受け継いでる感じもするし、さらにこのアルバムで言えば2010sっぽいネオ・ソウルからの影響も感じさせたりもして。この音楽性だけでも十分オリジナリティあってすごいんですけど、本作の特筆すべきは、日本人アーティストがこれまでうまく作れずにいた「コンセプト・アルバム」を最高の形で構築していること。トランプや安倍晋三の世に顕著だった社会的弱者に対して攻撃的な冷笑的な世の中に対する違和感を激しい怒りと共に表現しながらも、最終的には人間の根底にある両親と愛を信じポジティヴに締めくくる。ここ数年のポリティカルな作品の中でも世界的に見てもここまでうまくまとめあげた作品はそうはありません。世界規模で耳を傾かれてほしいです。

17.A Hero's Death/Fontaines D.C.

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17位はフォンテーンズD.C.のセカンド・アルバム。もう、このバンドは去年デビューした時から、「次世代のロックシーンを担う逸材」として高い期待をかけられてましたよね。僕も昨年の年間ベストではトップ10に選んでいます。このアイルランドはダブリンが生んだこのバンド、何がいいって、まずは楽器一つ一つの抜群の音の鳴りのセンスですね。とにかく高音質で、一つ一つに一切の無駄がなく最高にシャープなんですよね。こだわりまくった末に出している強い意志を感じるというか。そういうバンドを聴いたのはそれこそストロークス以来だと思います。そして基本はポストパンクにありながらもアイリッシュ・フォークもしっかりバックボーンにある歌心。ここにも惹かれました。そして、そうした路線はセカンドでも受け継がれつつも、メロディには哀愁と緊迫感、叙情性が強まり、静寂なサイドを表現する際の間と歌心が深まりましたね。「音楽性の進化」ということでは、しっかりその期待に応えたアルバムだと思います。ただ、ここまでほめながらも何故にトップ10圏外になったのか。それは、こうした期待値の高いバンドのセカンドにしてはちょっと「暗すぎる」気がするから。冒頭で「僕はどこにも属さない」と彼らは歌うんですけど、別に一般の人が気づいているようなロックシーンがあるわけでもないのに「泡沫の喧騒には巻き込まれないぞ」みたいな意思表示にとらえられかねないこと歌っても、残酷なことを言うなら「へえ、それで?」で返されそうなのが今の世の中です。その意味では、ちょっと現状認識を変えて、ロックがもう少し盛り上がるような方向性に持っていってくれた方が僕自身はうれしいです。

16.Saint Cloud/Waxhatchee 

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16位にはワクサハッチー。アメリカのインディ・ロック界隈では、エンジェル・オルソンなどと並んで、2010年代の前半から、地味ながらもゆっくりと才女としてリスペクトされてきたケイティ・クラッチフィールドによるひとりバンドです。これまで発表してきた4枚のアルバムは、ベーシックなところでは、ちょっとロウファイ気味の王道インディ・ギター・ロックですね。そこにところどころフォーキーなテイストが入ったりもして、たとえていうなら90sのレモンヘッズあたりに近い印象を抱いていたのですが、5枚目にあたる今作で彼女は大変身を遂げました。ここで聴かれるのは、カントリーやフォークを強いバックボーンにした、いわゆるアメリカーナのスタイル。それも、ひとつひとつの音の隙間に、ギターやドラムに効果的にリヴァーヴを効かせたナチュラルかつモダンなアレンジですね。「オルタナ・カントリー」のすごく理想的な形ですが、南部アラバマ出身の彼女は、そうした玄人なチャレンジに初挑戦にして見事ものにしてますね。癖の強い節回なんて昔からカントリー歌ってきた人みたいな貫禄もありますしね。このアルバムが大絶賛されたことで、彼女はこれまでのカルト評価から脱して、ついにビルボード・アルバムチャートの140位にランクイン。彼女、テイラー・スウィフトと同じ年だったりもするんですが、「裏インディ・フォークの好盤」といったところかもしれません。 

15.Every Bad/Porridge Radio

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15位はポリッジ・レディオ。イギリスは、最近ではアイドルズもここ出身ですね。南部のボヘミアンな街、ブライトン出身のバンドですね。これまでこまごま、自主制作的なものは出していたようなんですけど、本格的に注目されたのはこのアルバムからです。このバンドは、フロント・ウーマン、ダナ・マゴリン率いる女性3男1のバンドなんですが、もう坊主頭のユニセクシャルなダナの強烈な個性あってのバンドです。サウンド的には「グランジ」と評する人もいるんですが、広義で「エモ」なんじゃないかな。すごく簡潔な言葉を使って、孤独とか自身への劣等感を誰かに泣き付きそうな勢いでおどろおどろしく歌います。スローな曲だと、若い時のパティ・スミスを彷彿させるような、サイケデリックなダークネスなども感じさせたりもして、彼女のシンガーとしてのカリスマ性に持っていかれますね。それでいて曲も適度にわかりやすく、「Circling」っていうワルツ調のかなりの好チューンもあったりしますしね。このアルバム、商業的には成功してないんですけど、マーキュリー・プライズ受賞してたら注目度絶対あがってたと思うんだけどなあ。でも、ピッチフォークをはじめアメリカのメディアも注目し始めているので、カリスマ化は時間の問題とも思うんですけどね。

14.The New Abnormal/The Strokes

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そして14位はザ・ストロークスですけど、「おかえりなさい!」と言いたいですね。それは、このアルバムが彼らにとって7年ぶりの作品、ということもあるんですけど、それ以上に、こういう年間ベストみたいな場で、彼らのアルバムが戻ってきたのは、僕にとっては2006年の「First Impressions On Earth」以来。なので、およそ14年ぶりのことです。本音言っちゃうと、もう彼ら、戻ってこないんじゃないかと思っていたので本当にうれしいです。そして、このアルバムなんですけど、改めて、彼らがタダモノではなかったことを証明した作品だと思います。彼らの場合、バンド・サウンドとして決定的な型のあるバンドなので「目新しさ」というのがわかりにくいタイプで、それゆえ、このアルバムも「いつもと何が」と思われる人も少なくなかったと思うんですけど、これ、特に回数あげて聴いてもらうとわかるんですけど、こういう音鳴らしてるバンド、他にないんですよ。ギターのシャカシャカ言う感じがトレードマークだったんですけど、今回、どうやって出してるのか、全編ギター・シンセみたいな未来的に歪んだ音なんですよね。ファブリシオのドラムもこれまでのパスパスとは違う。完全に「20年代仕様」に進化してるというか。あと曲も、従来通りの路線にプラスして、これまでだったらだせなかった成熟した落ち着きや内省的な側面まで見せてね。これは新章のはじまりですよ。媒体の年間ベストでも、リリース当初よりも評価がよく、局部的にかなりウケが良かったりもしてるんですが、それは多分、僕が指摘している新鮮さに気がついてる人たちだと思います。次で決定打出してほしいので、次、さっさと出さないかな。

13.Sex, Death & The Infinite Void/Creeper

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続いて13位はクリーパー。このバンドはまだ知らない人も少なくないと思うんですけど、僕、想像以上にツボにハマったバンドです。イギリスはサウザンプトン出身の6人組のパンクバンドなんですが、スタイルとしてはホラー・パンクで、そもそもはマイ・ケミカル・ロマンスあたりの影響を受けてそうなタイプです。僕がそういうタイプのバンドを好きになるのは珍しがられるかもしれないんですけど、2017年のデビューのときから「ちょっと変な存在感のバンドだな」という印象があって意識して見てたんですけど、2枚目の当たる今回のアルバムで、彼ら、見事に化けました。曲はポップ・パンク的ではあるんですけど、全編通して70s前半のグラム期のデヴィッド・ボウイと90sのスエードの影響を強く受けた正統派グラム・スタイルに成長してます。ストリングス・アレンジなんかは中期のスエード色が濃厚なんですけど、時折、典型的なボウイ印のドゥワップ・コーラスなんかも見せたりして、すごくマニアックに研究もされていて。フロントマンの、美形なんだけどなんか笑えちゃうウィル・グールドの声も、クルーナーな渋い低音とサビでのハイトーン張り上げをうまくまとめてたりとか、あと、シアトリカルなアルバム全体のまとめ方もいい。このアルバムでいきなり全英5位まで上がってきたんですけど、もっと売れてほしいです。

12.Good News/Megan Thee Stallion

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12位はメガン・ザ・スタリオン。今年のヒップホップ界の中では文句なしに高い実力を備え持った大物スターの登場を感じさせた逸材でしたね。彼女のことは去年出したEPのときから「かっこいいな」と思ってみてたんですけど、今年に入って「Savage」「Girls In The Hood」で強く自己アピールを行った後にカーディBとの、ヒップホップ史上に残るセクシャル・ナンバー「WAP」が特大ヒット。その裏では、トリー・ラネスから足に発砲される事件の被害にもあったりと、話題にはつきませんでした。そんな彼女が11月についにアルバムをドロップしたんですけど、もう、このスター性に申し分ない内容でしたね。最大の特徴は、やっぱりライムフローですよね。彼女の場合、すごくワード、ワードをはっきり読み上げる昔ながらの正統派スタイルですね。このアルバムでも、男性ゲストがむしろここ数年人気のエモ、トラップに顕著なマンブル系のラップを聴かせるんですけど、メガンはそんなの全然おかまいないというか。僕自身も、ちょっとランブル系のゴニョゴニョした、本来変化球のはずだったフロウが溢れかえりすぎてシーンの質を下げかねないと不安に思ってたところがあるんですけど、その潮流をストップさせる本格派が今の時代、フィーメール・ラッパーというのは、本当に時代、変わりましたよね。あらゆる意味で痛快な力強さを持つ彼女から事が変わっていかないものかと期待してしまいますね。

11.Folklore/Taylor Swift


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そしてそして、事前の先行発表でも紹介したように、テイラーの「フォークロア」が11位です。もちろん、彼女がこの方向性に踏み切ったことにはすごく大きな意味がありますよ。それは「1989」「Reputation」で、マックス・マーティン系の対マスの「ザ芸能界」的な超商業ポップスの方向性から足を洗い、自身のルーツであるフォーク、カントリーへの回帰をザ・ナショナルやボニー・ヴェアといったインディ・ロックの精鋭達とともに作り上げた、初の「アート系の本格派」としての作品に踏み切ったこと。そして、それが、コロナ禍によるステイ・ホームで世間の大勢がいやがうえでも内省的な方向に走らざるを得ない状況を象徴するかのようにして出てきたこと。その意味において、これはやっぱりどうしても時代を象徴しますよね。もう、そのことは認めざるをえません。でも、テイラーのくやしいとこって、こういう行動に出た場合、あたかも彼女だけが今の世の中、すごいことをやっているかのような感じにマス向けのメディアが持って行こうとしがちなところ。そこにどうしても違和感を覚えてしまうから、わかっていてもどうしてもトップ10からは外してしまう自分もいてしまうんですけど(苦笑)、それだけに、今回ランキング作成に間に合わなかった「Evermore」はさらなる衝撃だったんですよね。あっちなら、もうぶっちゃけ、僕のこの年間でもトップ争いに加われる力を持ったアルバムだったので。来年の年間ベストの上位に入れさせていただきますよ。


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