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映画「Judas And The Black Messiah」感想  傑作!60年代黒人運動”裏のカリスマ”にまつわるアメリカのダーク・サイド

どうも。

いや〜、ブラジル、変異株が爆発しまして、土曜からまたロックダウンですよ。なんとなくの勘で、今回はサンパウロ州が言ってる「2週間」という線でいく、あるいは伸びてももう2週間かな、とは思ってはいるんですけどね。やっぱ、「今年はカーニバルはやらない」と決まってたのに、「カーニバルはないけど、3連休は残す」という、意味不明なことやった結果、秘密のパーティが全国でいくつも行われた結果です。ブラジルらしいでしょ(苦笑)?

でも、そのロックダウン前に、この映画が見れて本当によかった。これです!

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この「Judas And The Black Messiah」。これのレヴュー、いきましょう。この映画はオスカーの候補になっているくらい事前の評判が良く、しかも興行的にもボックスオフィスの2位まであがるヒットになっています。はたして、どんな映画なのでしょうか。

早速あらすじから見てみましょう。


ときは1969年。アメリカでは「ブラック・パワー」と呼ばれる黒人の意識高揚の運動がすごく高まっていました。すでにマルコムXやキング牧師は暗殺されて世を去っていましたが、「黒人による共産主義」を進めようとしていたブラックパンサー党が影響力を持っていました。

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シカゴ地区ではフレッド・ハンプトン(ダニエル・カルーヤ)がリーダーでした。彼は、少々過激な演説で党員を煽っていましたが、地域の黒人たちの教育にも熱心で、地元のギャング団の争いも平和におさめようとするなどの努力もし、とりわけ、党員たちに愛されていました。ブラック・パンサーは「共産主義」を唱え、「人種に関係なく経済の元に平等」も唱えていたので党員には白人もいたりしました。

ただ、そんな主張がわかるほど、シカゴ、ならびにアメリカの警察組織は柔軟ではありませんでした。

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同じ頃、ウィリアム・”ビル”・オニール(ラキース・スタンスフィールド)は、ビリヤード・バーに強盗に入ったところを逮捕されます。その際、取り調べを行った白人警官ロイ・ミッチェル(ジェシー・プレモンズ)に「キング牧師が死んで苛立っているんだろう」などと詰め寄られ「べ、べつに・・・」とポカンとしてたら、「フレッド・ハンプトンへのおとり捜査に協力しろ。そうすれば、おまえの犯罪、帳消しにしてやる」と持ちかけられ

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言われるがままに、ブラックパンサーの党員になりすまし、シカゴ本部に入ります。

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ビルはフレッドの運転手をつとめるなどして、党の中でも存在感をあげていきますが

一方で、警官たちによるブラックパンサーの本部を狙う警察の捜査も激化。銃撃戦での死者も出るほどでした。

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フレッドも一時的に逮捕などされたりもしますが、釈放もされ、なおもブラックパンサーを指揮しました。

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ブラックパンサー・シカゴ支部の捜査の背後には、悪名高いFBI長官、エドワード・フーヴァー(マイケル・シーン)がいました。彼はおそろしく人種差別的な発言を行い、それがミッチェルにも強いプレッシャーになっていました。

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ある日、ミッチェルはビルに対して、究極の命令を出します。ただでさえ、自分のせいで黒人たちが痛い目にあっていることに良心の呵責を感じていたビルにそれは受け入れがたいものでしたが・・。

・・と、ここまでにしておきましょう。

これはですね

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実在したブラック・パンサー党シカゴ支部指導者、フレッド・ハンプトンに実際に起こったことをもとにしています。ハンプトンは、黒人運動の、裏のカリスマ的存在でして、彼のことは音楽ファンのあいだでも一部知られておりまして

ディアンジェロが2015年に発表したこの曲でも、彼の演説がサンプリングで使われています。この曲が入ったアルバムの名前が「ブラック・メサイア(黒いメシア)」。この映画とも強くつながっているわけです。

そして

そしてビル・オニールも実在の人物で、ここで描かれていることも事実です。彼は、インフォーマー(警察への情報提供屋)としてブラックパンサーにスパイとして入り込み、シカゴ警察に情報を流し込んでいた事実を、約20年経って認め、それはCNNへの独占インタビュー、HBOだったかな、ドキュメンタリーにもなっているほどです。

いやあ〜、これは

60年代のアメリカの暗部をえぐる、ものすごい事件ですね・・・。

 今もほら、暴動事件が人種問題を発端に起こったりしたら、それを「BLMのせいだ」「アンティファのせいだ」という人、アメリカに実際いるじゃないですか。1月6日に起こった連邦議事堂襲撃だって、あれだけQアノン信者やトランプ支持者で有名な人が逮捕されているのにもかかわらず、アンティファのせいにして。それの50年前のヴァージョンがこれですよ!このとき、黒人の平等と自由を求めて戦った人たちが、どれだけ人種差別者によって悪者に仕立て上げられていたことか。それがこれを見ると非常によくわかります。

とりわけ

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このフーヴァーね。過去に幾度となく映画やドラマ、ドキュメンタリーなどの題材にされ続けた悪名高いFBI長官ですけど、もう、彼がここでやったこと、命じたこと、立派に犯罪です。「悪を取り締まる」なんて側にこういう男が存在したというのがなあ・・・。

これ、「黒人によるアメリカ」を描いた映画かもしれませんが、別の意味で「(腹)黒いアメリカ」ということも立派に言えますよ、これは。


この「イージー・ライダー」のラストに通じるようなね。

こうした衝撃の物語を

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ダニエル・カルーヤとラキース・スタンスフィールドの2人が絶妙に園児きていますね。

彼らといえば

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「ゲット・アウト」のコンビでもあるんですよね。このときはカルーヤが主人公で、ラキースが白人の老人の脳を入れられた黒人男性の役でね。このときもカルーヤの熱演、ラキースの怖さが絶妙だったものですが、今回はそれを上回ってますね。

実際、これでカルーヤはオスカーの助演男優賞の最右翼で、先日のゴールデン・グローブも受賞。ラキースは今回、主演エントリーで、現状苦戦してますが、僕はノミネートはされてほしいと強く願っています。彼、本当に今回熱演してますからね。

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あと、これを監督、脚本を手がけたシャカ・キングという人にも注目ですね。これまでそんなに大きな実績があった人ではないんですけど、これで一気に株を上げましたね。いやあ、これ、本当に傑作ですよ。僕の中では、「それでも夜は明ける」「ムーンライト」といったオスカー作品賞受賞作に並ぶ、近年の黒人映画の大傑作ですね!

本音いうと、これにオスカーの作品賞をとってほしいくらいです。

いやあ、今年は本当にオスカーの黒人映画、半端なくすごい年ですね。だって

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これの他にも「マー・レイニーのブラック・ボトム」「あの夜マイアミで」「ダ5ブラッズ」と、黒人映画の傑作がこんなに公開されたんですよ!しかも、いずれもオスカーの作品賞ノミネートが有力視されているほどで。

もっといえば、アニメ部門だって最有力「ソウルフル・ワールド」ですよ。あれだって立派な黒人映画じゃないですか。BLMの年度にここまで黒人の強い主張を感じさせる映画が豊作だったことは後年も語られることではないでしょうか。これはスパイク・リー、ジョン・シングルトンが活躍した90年代前半以来でしょうね。

さらにいえば

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今年のオスカーでもうひとつ作品賞ノミネートが有力な「シカゴ7裁判」、こちらにはブラックパンサー・シカゴ支部のもうひとりの大物指導者ボビー・シールが描かれています。これも1968年の話ですから、もろに直結してます。

その意味で今年のオスカー、すごく歴史的に意義深いんですよね。

あと

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これは、このサントラもすごくいいです。最近のR&B/ヒップホップの精鋭たちがシリアスなテーマを持ち寄って歌とラップをやってますよ。

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