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組織の空気を一変させる「フィードバック」

最近、めちゃくちゃ熱い人に出会いました。サッカークラブのコーチをしている人。Aさんとしておきましょう。結果が出ないチームを立て直すべく声をかけてもらったとのこと。彼の存在がチームに活気を伝えて「雰囲気が変わった」と周囲の驚く声が聞こえてきます。彼が加入した2試合で勝ち点は4。上々の結果だと思います。

勢い」しかない。彼がよく口にする言葉です。謙遜が十二分に入り混じった言葉だと思いますが、私はそれが彼の強みでもあり差別化要因でもあり、そのクラブが彼を招聘した理由だとも思っています。結果が出ていないクラブにありがちな空気。それを一変してチームに勝ち点をもたらしたという結果が、その強みを証明していると私は感じました。

集団で行動がどのように伝染するか?ということを調べた実験があります。大学生を4人ずつチームに分けて、それぞれに45分間でマネジメントに関する課題を完成させるように伝えました。足を引っ張るメンバーを1人加えたグループでは、他のグループと比べて成績が実に30〜40%も低くなりました。怠け者を演じるサクラを投入したグループでは、他のメンバーの課題への興味が著しく低下したことも併せて報告されています。

怠け者や悲観論者などがチームにいると全員のパフォーマンスが低下します。あくまでも前向きな意図を持ってという前提で、思っていることをはっきりと伝えること。相手を攻撃したり傷つけたりするためではなく、素直な気持ち、意見、フィードバックを伝えて、きちんと話し合う。相手と面と向かって言えることしか口にしない。同僚と違う意見があるとき、あるいは誰かに役立ちそうなフィードバックがあるときに何も口にしないことは「背信行為」

「フィードバック」に関する実験では、このような考察がなされていましたが、私たち人間の脳は、否定的フィードバックを受けると、身体的脅威を受けたときと同じ反応を示すことがわかっています。逃げるか、もしくは戦うか。ライオンが目の前に現れたら即座に逃げますし、人によっては戦いを挑む人もいるでしょう。血液中にホルモンが分泌されて、感情が高ぶります。

また、面と向かって批判を受けること以上に精神的ダメージが大きいのは、人前で否定的フィードバックを受けること。脳は生き残るための組織であり、多数派につくのは生存戦略として有効です。人前で怒られることによって、「集団から排除される」というシグナルが脳に発せられるのでしょう。

また「修正的フィードバック」が自分の能力を高めることに同意する人が72%に達したというデータもあります。否定的フィードバックであったとしても、適切な方法で伝えられればそれがパフォーマンス向上につながると考える人の割合が92%にものぼったという興味深い報告もあります。

自分のパフォーマンスが悪いと言われるのはストレスや不快感につながりますが、それを乗り越えてしまえばフィードバックは役に立つということが示唆された実験データだと思います。Aさんがチームにもたらしたもの。それは勢いだけではなく、この「フィードバック」の力が多分に影響しているのでは?と感じました。

ひとりひとりに声をかけたり、「良い悪い」をはっきりと伝え、その場その場で明確なフィードバックを提示しています。それをどうとらえるかは選手次第ですが、いたずらに「否定的」になるのではなくあくまでも「修正的」、つまり「何が悪かったのか」を即座に伝える能力がチーム全体の空気に活気を与えているというのが私の見立てです。

空気を読みすぎて、評価をあいまいにするのは日本人的なコミュニケーションかもしれませんし、それが全面的に悪いとは思いません。ですが組織が停滞し、結果が出にくい体質に陥っているのであれば、フィードバックの使い方を見直すのは効果的ではないかと、Aさんとの対話の中で感じました。

一度話し始めると1時間は覚悟しないといけないくらい熱く語ってくれるAさん。彼の何がすごいのか。結果だけを見るのではなく、「フィードバック力」に着目していろいろ調べてみると勉強になることが多かったです。

久保大輔




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