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なぜJクラブは「短絡的思考」に陥るのか?


長期にわたって利益を生み出す
「資本」の増強、

という考え方について
昨日まとめてみました。

要は「先行投資

クラブの価値を最大化させるために、
長期的戦略を総合的に考え、

クラブ経営者の時間コスト
を先行投資(マネタイズのタイミングは後)して、

信用」という資本を増強する
という考え方です。


しかしながらこの考え方は、
事業だけではなく現場、

つまりチームを統括する強化部や監督
にとっても受け入れにくい

日本独特の土壌
があるように感じています。

以下、その要因について
分析してみたいと思います。


■短期志向に陥る歴史的要因

戦後、日本の企業は、

間接金融(銀行から資金を調達して
で経営を行っていました。

不況による株価低迷という背景
もあったはず。

社債、株式、公債を発行して、

必要な資金を証券市場を通じて
直接調達する「直接金融」の比率は、

欧米諸国に比べて低いと言われている
日本企業ですが、

最近では、

規制緩和の進展によって
金融システム全体が

直接金融にシフトしているようです。


前置きが長くなりましたが、

銀行からお金を借りるにせよ、
証券市場から調達するにせよ、

企業は貸し手に対して説明責任
を果たさなければなりません。

そして「直接金融」では、

企業の成長に伴う
株価の上昇や配当のリターンを軸に、

「間接金融」では

金利からのリターンを軸に
話が進められます。

つまり、

前者は長期的、持続的な
企業価値の成長、発展を志向する
のに対して、

後者は売上と利益が伸びるかどうか
が重要視されます。

換言すると後者は
PLさえ「見栄えよく」しておけば十分。

日本企業はながらくこの、
間接金融を前提とした視点で経営し

現在もそのなごりは
根強く残っているように見受けられます。


Jクラブに関して言うと、
主に(というかすべて?)

銀行や親会社からの借り入れで
資金を調達しますので、

単年度による業績をあげるために、
売上最大、経費最小を絶対視する傾向

が強くなるのは、
ある意味必然なのかもしれません。

しかしこれが、

経済活動の本質であると考えるのは
本末転倒。

PLをよくするために、
クラブの長期的発展は後回し、

という発想に陥る危険性が
多分に潜んでいます。


■売上の先食いではなく「先行投資」を

ファンに喜びを提供することは
サッカークラブの使命。

では、

ファンに喜びを与えるとはいったい、
どういうことか?

「何がファンにとっての喜びなのか」

を理解するコミュニケーション能力と
洞察力、観察力、そして

「クラブは何がしたいのか」

というビジョンに照らし合わせて、

ファン自身も気づかなかった、
思いもよらなかった潜在的な価値を

言語化し、喜びと定義し、
その喜びを最大化させること。

これがサッカークラブの使命であり、
使命を果たすクラブには

対価として売上という
喜びを可視化した数値に恵まれます。

より大きな喜びを提供できれば、
対価はより大きく。

そして、
ここからが重要なのですが、

喜び(価値)を提供し、
社会に貢献し、クラブも発展するという

長期的で、戦略的な思考は、

単年度のPLを重視する経営者
には育まれにくい

なぜなら、

持続的な対価の獲得(価値提供)は、
先行投資なくして成しえないからです。

すでに多くのファンベースがあって、
毎試合スタジアムが満員になるクラブは

すでに強固な地盤が形成されている
と言えますが、

そうではない(ほとんどの)クラブは、

一般的な企業が設備投資や人材採用
などに積極的な先行投資をするのと同様、

ファンベースの拡大(=ファンの信頼獲得)に投資
しなければなりません。

つまり、

PL上の数値は短期的には
ネガティブ
なものとなり、

業績悪化と評価(批判)されますが、
これに対する耐性があるかどうか。

クラブの状況を知るための目安に過ぎない

としてPLをとらえ
主体的、積極的に、

クラブ価値の向上に対して
達成期間を自ら設定し、中間目標を逆算し

「今何をすべきか」
を自発的にクラブ内外に主張できるかどうか

が問われます。


■ビジョンと仕組みと考え方の整備

長期的成長への投資より、
目先の業績を優先させると、

将来のクラブの価値が毀損されるのは明白。

いつまでたっても
ファンベースが拡大しなければ、

現金化する手段が常に
自転車操業的
になるからです。

付け焼き刃な施策をうって
ファンの不満を買い、ファン離れを助長し、

「将来の利益を先食い」するのではなく、

先行投資を
健全な出血と考えて、

安定的な収益の最大化に貢献する
ファンベースづくりに挑戦しなければなりません。


社員の評価指標もおそらくは、

単年度のPLや経費削減に視点
が集まっているはず。

でも、

チケット部門、グッズ部門、
マーケティング部門、

それぞれの成長フェーズが異なるのに、
一律にPLを評価軸にするのは無理があります。

初期投資なのか、
コストダウンなのか、

事業規模によって評価する指標は
異なってしかるべき。

社員の意思決定が
即物的にならないような

人事評価システムの整備
もおろそかにはできません。


また、

長期的発展や戦略的投資は
えてして「理想論」と揶揄されがち。

つまり、理想と現実には
大きな乖離があり、

データや合理性を担保に説得されれば、

とりいそぎPLを「きれいにつくって」
お茶を濁しているほうが楽。

できる方法を考えるより、
できない理由をあげるときの方が

人間のクリエイティビティは格段に
活性化するといいますが、

だからこそ経営者には、

何があっても揺らぐことのない
確固たる「志」
がなければならないのです。

ビジョンなき行動は凶器、
行動なきビジョンは無価値です。

PLという悪魔の誘惑にかられることなく、
頭のいい社員の「できない理由」を抑えるために

不断の努力を欠かさず、

経営者自身が価値を生み出すという志をもって、
積極的な態度で

クラブをよりよくするために
リーダーシップをとらなければなりません。


■リーダーの姿勢が現場に一貫性をもたらす

現場では、とにかく成績重視。

昇格やタイトル獲得が
至上命題になる傾向が強いのは、

既述の通り、
単年度評価システムが、

分かりやすい評価基準として
定着しているからでしょう。

欧米に比べて歴史が浅い
Jリーグ各クラブには、

独自のサッカー哲学やスタイルがあるようでない、
と感じなくもありません。

専門家ではありませんので
誤解があるかもしれませんが、

クラブ内部には存在するであろう
一定の不文律も、

クラブを応援するファンにとっては
想像の域を出ることはありません。

暗黙知を形式知に転換するには、
それなりの専門性を要するので、

コストがかけにく状況下で
実施に本腰をいれるクラブは少ないでしょう。

というかそもそも、

クラブには本当に、
哲学の不文律が存在するのか、

やや懐疑的にならざるを得ません。

招聘する監督(が志向するサッカースタイル)
に一貫性がなく、

監督が交替するたびに激変し、
まるで別のクラブを見るかのような錯覚

に陥ることも少なくありません。

そのたびに鬱積する、
ファン(強化部)のクラブに対する不信感は

決してゼロではないでしょう。

信頼という資本をもってマネタイズする
という長期戦略を現場にも適用する経営者なら、

「なんとしても昇格、絶対にタイトルを」

という指示を現場に下ろさないはず。

成績が契約更改に影響するような、
オフの恒例行事にヤキモキすることも、

なくなるでしょう。

まずはクラブの「サッカースタイル構築」
最低でも5年ぐらいの期間を与えて

じっくり、腰を据えて
土台作りをするプロセスにおいては

出血も覚悟しなければなりません。

しかしながらクラブの価値を最大化し、
長期志向、未来志向でサッカーをとらえるなら

チャレンジすべきだと思います。

一年でタイトルや昇格を狙いに行く
という「無謀なチャレンジ」をして

いまだに「何がしたいのかわからない
クラブが多々あると感じるのは

私だけではないと思っています。


■長期的志向センス

高度経済成長の時代においては、
毎年「成長」することが前提でした。

いかに効率化を図って、
市場を取りに行くかが発想の起点。

顧客価値(喜び)より、
自分たちの目標を達成することが、

資金調達の面でも重要でした。

ところが今は、
「不確実性の時代」

昨日の常識は明日の非常識
になる時代です。

業績にとらわれすぎず、
イレギュラーに道を踏み外す挑戦が欠かせません。

昨年対比という
直線的な成長を志向する価値がなくなった今

クラブの価値を最大化するために、
戦略を総合的にデザインする

「長期的志向センス」が

クラブ経営者のみならず、
事業、現場スタッフ全員に求められています。


短期、他律的、管理的、調整的ではなく
長期、自発的、戦略的、逆算型で

クラブの価値は最大化されていくのです。


※本稿は以下文献を参考にしました。
ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論(朝倉祐介)



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