「やさしい日本語」と津波避難掲示板

 最近、耳にすることが多くなったバズワード「やさしい日本語」、2020年10月の日本語教育能力検定試験の400字記述問題のテーマがまさにこれだった。オンライン開催となったので覗いてみた2020年日本語教育学会秋季大会でも多く取り上げられていた。昨今では、自治体がセミナーを開催して職員が「やさしい日本語」で外国人の住民に対応できるようにする等、国を挙げて普及を進める方向にあるようだ。確かに役所で言われる案内や書類の表記は、転居時に一回だけ目にする書類だったりして馴染みが無いこともあり、普通に日本語を母語として話す者にとっても難解で分かりにくい。日本語が完ぺきではない外国人の住人は生活上困ることも多いだろう。やさしい日本語での表記や対応は、日本語がある程度できる人にはありがたいサービスだと思う。
 が、しかし。やさしい日本語ってそもそも何が「やさしい」のか。文法や語彙を簡単にすればいいのか。漢字の使用を避ければよいのか。係の人が個別対応して説明を加えることを指すのか。だいたい「やさしい日本語」にすると、本当にわかりやすくなるのだろうか? 

 役所に限らず、難解な日本語の表記はそもそもだらだらと悪文で不要な言葉がちりばめられているケースが多いのではないだろうか。文法や語彙の書き換えの前に不必要な情報を排除するだけで、誤解されずに伝わりやすい文章になると思うのだが、、、。あと、文章だけで理解させようとするのも問題。チャート式や図表で示せば一目瞭然のことをわざわざ、「この場合は○○ですが次の場合は△△で、、ただし、、」といった書き方があまりにも世の中あふれている。これってあらゆるケースを想定しておく、という日本人のありがた迷惑なおもてなしメンタリティーによるものなのだろうか。だらだらと続く文章は、自分のケースに該当する箇所だけをぱっと探し当てるのが至難である。例えるなら、だらだらと何を言いたいのかわからない日本語のスピーチを完璧に通訳や翻訳できても、論理が破綻していて理解してもらえないのと同様、もともとの悪文は「やさしい日本語」に完璧に翻訳されたとしても、わかりにくいことには変わりないのでは。
たぶん、「やさしい日本語」を普及させる前に、オリジナルでの「悪文」を排除させるのが先ではないかなぁ。

 そこで思い出したのが、こちらの↓掲示板です。アメリカ在住していた時に旅行で訪れた西部オレゴン州のビーチリゾートの津波避難経路案内だ。ここは地震が多く津波の危険がある地域なので、これがほぼワンブロックごとに立っており、この掲示板の他にも矢印だけの案内板がそこら中にあった。

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 初めて来た場所で何の予備知識が無くても、英語が全く読めなくても、現在地がどこで何色のエリアに入っているか。緑の安全地域に避難するにはどのルートを行けばよいかが即座にわかる。思わず感動して写真に収めました。これが街のそこら中にあるので、のんびり観光しながらもこれを見るたびに「あ、地震が来たら危険な場所に今いるんだ、逃げる方向はあっちだ。」と無意識に頭の片隅に記憶が残る。シンプルな色分けと、しつこいくらいに道の角ごとに立っていることが効果を上げています。

そして、本文に書いてあるのは3行だけ。
地震が起きたら
・しゃがむ、頭を覆う、動かないこと。
・急いで内陸、高台に向かうこと。
・公式の警報が出るのを待たないこと。

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 地図の色は橙→黄緑→緑となっており、どこにいても緑の高台安全エリアの「A」のどれかを目指せばよいことが一目瞭然。AはAssembly Area という英語もArea Reunionというスペイン語も「集合場所・避難所」という日本語も分からなくても、どういう物(場所)を示しているかは万人に伝わる。これぞユニバーサルデザインのお手本ではないでしょうか。

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 やさしい日本語でも、前後のコンテクストから当然意味が分かるような大事な言葉は、あえて説明しなくてもいいでしょうし、絵文字にするとか、何なら省いてもいいくらいじゃない? 削ぎ落せば削ぎ落すほど、わかりやすい日本語になると思うのですが、勝手な思い付きですが、どうでしょうか? それよりも、まずは不特定多数の人に向けた日本語文章から悪文を無くすこと!ですね。

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