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大手に叩かれる中小企業の秘策

From 安永周平

価格を上げらずに苦しむ中小企業の社長にとって、とても参考になる話がある。特に大手から買い叩かれている会社にとっては、戦略自体を考え直すキッカケになるかしれない。これは社員40名ほどのある染工場の話だ。

単価が2年前より4割も落ちている…

長引く繊維不況によって工賃が下落し、このままでは倒産する…という状況まで追い込まれていた。社長の話では前期は5000万円の赤字、今季はそれを大幅に上回る赤字になりそうだと。2年前までは工賃は1メートルあたり110円だったのが、今期は4割近くも落ちて70円にまで下がっている。それにもかかわらず仕事はない。社長曰く「損益分岐点は工場の稼働率80%で90円」だと言う。これだけでもうヤバいのがわかる。

得意先は大企業や大手商社で、中小の染工場間で熾烈な受注競争が行われているためにこんな激安の価格になってしまったそうだ。どうにも打ち手がなく、社長はいつ回復するかわからない景気が戻るのを待つしかないと。つまり「不景気だから仕方ない」と言うのだ。そんな状況で、あるコンサルタントに相談したところ、こんなアドバイスが返ってきた。

「損益分岐点の90円以下では受注しなければいい」


当然だ。損益分岐点以下で、ましてやそれより20円も低い単価70円なら、受注すればするほど赤字が膨らむだけだ。ところが、それに噛み付いてきたのが営業担当の専務で「そんなことは言われなくとも分かっています。どうしてもそれができないんです」と言う。そこでコンサルタントが「それでは会社は潰れてしまいますね。それでいいのですか、社長」と答えると、専務も社長も黙ってしまった。

この状況、まずは社長が生き残るために目標を設定しなければいけない。「90円以下の受注をしない!」と決意を固め、死にもの狂いで努力するしかない。コンサルタントの男性に絞られて観念した社長は、聞かれた質問に答える中でいくつかわかってきたことがあった。たとえば「現状の単価が70円」というのは極端な例で、90円以上の受注も中には結構あることがわかった。90円どころか130円、150円以上のものさえ数は少ないがあったのだ。そして、それら高単価の受注には共通点があった。

高単価の受注は中堅企業からの案件


単価が高い案件は軒並み、大企業からの依頼ではなかったのだ。一方で、損益分岐点の90円を割っている案件は全て大企業からの受注だった。これは何もこの染工場だけではない。日本中の中小企業は、得意先の多くは大企業であることが多い。そして、その大部分は採算割れか採算スレスレで、まともな価格で受注できるものは極めて少ない。この状況を踏まえたうえで戦略を練ると、今までと違った活路が見えてくる。具体的には…

  1. 受注活動の中心を中堅企業に移す(不況とはいえ新規受注の可能性はある)

  2. 90円以下の引き合いは再交渉を行い、避けられない案件は社長決裁にする

  3. 社長は既存顧客への表敬訪問、新規開拓営業も中堅企業を優先して行う

といったことだ。これらの提案について、社長は承諾した。最初は専務にやらせたいと言っていたので、またもコンサルタントの男性は「会社が潰れるかどうかの瀬戸際の施策は社長自ら陣頭指揮を取れ。責任から逃げるな」と激詰めし、専務からは権限を取り上げて社長に実行させた。その結果、半年後にはハッキリと黒字転換の見込みが立つようになったのだ。

「価格戦略」における間違った認識


この中で社長も考えが変わり「もっと高値で取れる。うちの営業は弱気な営業をしていることがわかった」と強気である。しかし、これこそが社長の行動だと聞いていて思った。初めから安値で見積もりをしているから、損益分岐点を割ってしまう。大手が相手の時ほど、営業はそれを呑まざるを得ないこともある。だからこそ、社長は戦略を変える必要があった。得意先を中堅企業に切り換える努力がなくては、この成功はなかったはず。また今回の話で1つ学んだことがある。

価格戦略とは、売値を決めて守らせることではない。その本質は「生き残るための最低価格を設定し、そのための目標、方向づけ、活動指針などを決めて、社長が陣頭に立って指揮すること」なのだと痛感した。私は先の社長を笑う資格などない。なぜなら、正に今、私自身が大手との価格交渉を迫られているからだ。これは1つの案件の話ではない。会社の戦略の話だ。改めて自社の価格基準を明確にしようと決めた。もしあなたも社長をしているのであれば、ぜひこの機会に価格戦略について考えてみるのはどうだろうか?

追伸:
そもそも戦略を持っていない場合、このビジネス小説は戦略を考えるキッカケになると思う。読みやすいし、社長だけでなく営業やマーケを学びたい人にもオススメ

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