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作品と相思相愛だからこそ生まれる名曲 〜対談 with 冨田明宏 #2 〜

THECOO 株式会社代表の平良 真人の対談シリーズ。

前回は、ファンが隠れてアニソンを聞いていた時代から、アニソンがヒットチャート上位を獲得するようになるまでの経緯や、アニソンの面白さについて伺いました。(#1 はこちら

今回も、音楽評論家・音楽プロデューサーとして活動されている冨田明宏さんと、アニソンの世界を深掘りしていきます。

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冨田明宏(とみたあきひろ)
音楽評論家・音楽プロデューサー
数々の人気アニメ主題歌やゲーム音楽、CM音楽、アーティスト・プロデュースを手がける。
音楽ライター時代は年間 120 本にも及ぶインタビューを経験し、アニソン評論家として『アニソンマガジン』や『リスアニ!』などアニメ音楽専門誌でメインライター、スーパーバイザーなどを担当。ラジオパーソナリティー、『マツコの知らない世界』や『関ジャム 完全燃SHOW』などメディアでも活躍中。

アニソンとは、エクストリームポップミュージックである

平良真人(以下、平良):
アニソンに関して疑問なのは、主体としてはアニメなはずなのに、同じくらいの熱狂度でアニソンが主役になるのは、なんでなのかな?と。

冨田明宏氏(冨田氏):
だいぶユーザー層的にも変わってきてはいるんですけど、僕の認識では、やっぱり今でもアニメからアニソンに入ることがほとんどだと思いますね。
なぜそうなるかというと、アニメをちゃんと見てからアニソンを聞いたほうが、圧倒的に気持ちが良いからです。アニメのオープニング 90 秒、あそこに物凄い情報量が詰め込まれている。このアニメはどういう作品で、これからどんな物語なのか、その中で主人公はどんな思いを持っているかまで歌詞やメロディー、アレンジに詰まっているんですね。

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ライブやフェス、アニソンのクラブイベントとかだと顕著なのですけど、アニメの映像とともにアニソンをかけることによって、お客さんの熱狂が倍加します。好きな作品に対する想い入れが、音楽と映像が合わさることで瞬間的に再燃するからだと思うんです。アニソンだけで盛り上がれるようになるのは、特定のアニソン・アーティストや声優アーティストの音楽が好きという、そこからもう一歩踏み込んだリスナーたちじゃないかなと。
2007 年からさまざまな媒体でアニソンを紹介する際、知らない人に分かりやすく伝えるために「 アニソンとはエクストリームポップミュージックだ 」と言っていました。90 秒の中に練りに練られたポップセンスが詰め込まれていて、しかもキャッチーでなければならない。併せて歌詞も紐解けばとてつもない情報量になる。つまりはポップソングとして非常にエクストリームにならざるを得ない。だから体感としても感動が濃くなります。たとえば 1 クールで 12 話見せて、その上で主題歌を聴くと「 ああ、この歌詞にはこういう意味があったんだ 」とか、「 あのシーンってここの歌詞とリンクしていたんだ 」とか、そういう発見がどんどん出てきて、ただ曲を聴いているより驚きや感動や熱狂が生まれるんですよね。

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「 ラブライブ 」の社会的な人気が一時期さまざまなメディアで取りざたされていましたが、あれも結局はアニメをちゃんと見ないと、そのムーブメントの意味を理解できるわけないんです。あのキャラクターたちを演じた声優たちがなぜステージで輝いて見えるのか。それは作品の中でキャラクターたちが生き生きと躍動していて、ときには苦悩したり絶望の淵に立つこともあったけど「 この曲で変わったんだよな 」とか「 この曲があったから救われたんだ 」という思い出と重なるから熱狂が生まれるし、どうしようもなく泣ける。一部分にフォーカスしてしまうとアニメを見ない方は理解ができないから「 よくわかんないけど今の声優さんって人気があるんだねぇ 」みたいな感想で終わってしまうのですが(苦笑)。人気があることは事実ですけど、彼女たちはまず役者として見られることからはじまっているし、その人気には大勢のアニメーターや多彩なクリエイターの努力があって成り立っています。僕がプロデューサーとして手掛けている音楽もそれを構成する一部で、すべてが絶妙な相互関係で成り立っているのがこの業界の面白さだとも思っています。
その相互関係の中で音楽が担う要素はかなり大きくなっているので、「 画や芝居に負けない音楽を作らなきゃ! 」という思いから良い音楽が生まれるのではないかと思います。

だから僕がこういうお話をさせていただく時に言うことは、「 ポップスとしては正しいかもしれないけど、アニソン的にNGなことはたくさんある 」ということなんですよ。
やっぱりアニソンを作るんだったら、物語や設定をしっかり読み砕いた上で音楽を作らないと、お客さんは良い反応を示さない。世界観がわかっていないと、マイナスプロモーションになることもあると思います。

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平良:
なるほど!確かに、「 東京ラブストーリー 」の曲を聞いたら、絶対場面を思い出しますもんね!

冨田氏:
そういうことですね。あのドラマが革命的だったのは、毎話、作中におけるクライマックスで主題歌の「 ラブ・ストーリーは突然に 」を流すんですよ。あれってそれまでのドラマには無かった手法で、あれ以降さまざまなドラマが真似したんですよね。「 101回目のプロポーズ 」の「 say yes 」もそうで。

平良:
そうなんですね。東京ラブストーリー以前はアニメも違ったんですか?

冨田氏:
いわゆる当時のトレンディドラマ的には新しい手法だったと思いますが、そもそもアニメは盛り上がるバトルシーンで主題歌を流す文化が古くからありますね。あれは特撮や、もっと遡れば時代劇などからきたものかも知れませんが。J-POP がアニメに入ってきた話しでいうと、「 シティーハンター 」ってやっぱり大事なんですよ。あの作品は、少年ジャンプ原作とはいえそもそも内容がそこまで子供向けじゃない。新宿という現実の都市が舞台で、スケベだけど決めるときは決めるハードボイルドな冴羽亮が主人公。そして恋愛的な要素も随所に出てきます。そんな作品に対して「 俺は冴羽亮だ! 」っていうアニソンはふさわしくないですよね。ということで、当時はまだ J-POP という言葉生まれたばかりでしたが、そのジャンルにおける旗手だった TM NETWORK などが起用されました。
そしてその時のプロデューサーが、アニメの B パートの後半からゆっくりとシームレスにエンディングテーマを流す手法を取り入れたんですよ。まだ冴羽亮が動いているタイミングで、イントロのピアノが流れてきて、アニメのシーンとともにエンディングへと流れていく。画期的なまでにアニメとアニソンが絶妙に融合したその曲は、旧来のアニソンではなくて J-POP だったというわけです。そのアニメ作品に相応しければ、アニソンシンガーが歌っていなくても、アニソンっぽくなくても受け入れられることを証明しました。一方で、そのマナーである「 親和性 」を忘れるとバッシングされることもあるのが、このアニソンシーンの面白くもあり、怖いところでもあります。

アニメと相思相愛でこそ生まれる名曲

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冨田氏:
僕が今年放送されたアニメの中で、これこそ今のアニソンだなって思った作品があって。手塚治虫さん原作の「 どろろ 」というアニメのリメイクを2019 年 1 月にやっていたんですけど、女王蜂の「 火炎 」がオープニングテーマで。この女王蜂の曲が完全に「 どろろ 」に寄り添って、自分達の音楽性の中に「 どろろ 」を注ぎ込む形で密着している。そこに女王蜂サイドのリスペクトをめちゃくちゃ感じました。さらに言うと、この曲のインパクトで「 ただのリメイクじゃねーぞ 」というアニメ制作サイドの意気込みすら感じます。そして、その曲につけられたオープニングムービーが本当に素晴らしくて、アニメーターさんたちの「 この主題歌に応えるぞ! 」という気概が感じられましたね。これぞ総合芸術、お互いにちゃんと愛し合っているのがわかりました。
女王蜂のボーカルのアヴちゃんが「 ひょっとしたら歌うのには難しく、アニソンとしては少し逸脱していたのかもしれません。それでもとても愛されているようにも思え、毎週が嬉しい日々でした 」みたいなことをツイッターでコメントしていて、すごく素敵なことを言うなと思って。女王蜂の例を見ても、今アーティストの表現の場としても、コラボレーションできる相手としても、アニメは面白いんじゃないかなって思っています。

我々音楽をプロデュースをする側もアニメ制作サイドの意向を可能な限り汲み取り一生懸命に作りますが、それでもリテイクをもらって何度も何度も修正をして納品することの方が多いんです。そうして生まれた曲に対して「 主題歌を聴いたらテンション上がりました! 絶対かっこいいオープニング作ります 」なんて言って頂けることがあって。放送日にオープニングムービーを見たら、確かにこちらの想像を超えるものになっていたりとか、そういうところにもやりがいがありますね。

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平良:
そう言えば、渋谷の TSUTAYA で RADWIMPS の「 前前前世 」が流れていて、これまでの彼らの音楽と違うなって思ったんです。それが、アニメに寄り添うということなんですかね?

冨田氏:
あの作品を作るために、音楽だけでも 1 年半くらいかけていますからね。新海誠さんの頭の中で描かれた理想を、RADWIMPS として表現しないといけないわけで。新海さんは「 音楽に救われた作品でした 」と言っているんですけど、お互いの意見を交わしながら 1 番いい正解を探した結果が「 前々前世 」だったんでしょうね。

平良:
声は同じなのに曲が全然違うなって、びっくりしたんですよね。

冨田氏:
「 君の名は。」の RADWIMPS は RADWIMPS だけど、今までの彼らとは違いますよね。作品のために作られた、ある意味必要不可欠なインテリアとしても存在するというか。もちろん主題歌的な意味でもパワーのある曲だと思います。

アニメが音楽シーンに与える影響は国境をも越える

冨田氏:
音楽から生まれる影響もどんどん大きくなっていて、例えば少し古い作品ですが、「 サムライチャンプルー 」( 2004 年 )という作品があったのですが、侍の作品なのに主題歌は Shing02 だし、BGM は ヌジャベス や シャカゾンビ の ツッチー が手掛けたアンビエント系のヒップホップやブレクビーツだし、そもそも侍がブレイクダンスで戦ったりする、かなりエッジィな作品で。この作品は日本より海外で話題になって、今活躍している ローファイ・ヒップホップ といわれるジャンルのトラックメーカー達のルーツになっている作品でもあるらしくて。そんな風に、海外の音楽シーンに影響を与えてしまうことがあります。

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これまで話してきたように、アニメにあっていれば OK 。これもアニソンっていう自由さです。僕も放送当時「 サムライチャンプルー 」にハマってサントラをめちゃくちゃ聴いていたんですが、改めて考えると Shing02 の主題歌が英語で RAP していて。音楽的にもそうですが、だから海外で受け入れられやすかったんだろうなと。

この作品の監督は渡辺信一郎さん。とにかく音楽にこだわる方で。今まさに放送中の「 キャロル&チューズデイ 」という作品があるんですけど、これはみなさんに是非、見ていただきたいです。
日本発の文化で海外にまでダイレクトに影響力が届いていたりするのも、アニメ文化の面白さだったりしますね。

文脈・人種・歴史に捉われないモノ作りの結果、オリジナルな文化として海外で人気になった。そうして生まれた作品に影響受けたサウンドクリエイターが生まれ、また日本のアニメに還元されることもある・・・これはほんの一例で、そんな幸せなエンターテインメントの連鎖がアニメにはあるんですよね。


アニソンはアニメとの結び付きが深い為、音楽から感じ取るメッセージ量が多く、その結果がファンの熱狂に繋がっている。だからこそ、音楽もアニメ作品に寄り添うことを求められ、映像もまたその音楽に色付けされる
。そんな風に、アニメと音楽が意思疎通を繰り返し影響を与え合うことで、素晴らしい作品が生まれている。

次回は、アニソンの今に迫っていきます。(つづく)

編集・構成 / 赤塚えり

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