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ワークショップの「なぜ?」を言語化する:ファシリテータースクール リフレクション

正解のない問いをめぐって、さまざまな人が安心して対話・創作に参加できる場をつくる技術「ファシリテーション」。「THEATRE for ALL ファシリテータースクール」では、その方法論について思考を巡らし、さまざまな人が参加する対話型ワークショップを企画・運営するための心構えや知見を身につける。

2021年3月中旬から約1ヶ月間、ファシリテータースクールでは、様々な対話型ワークショップのあり方をインプットするためのリサーチ期間が設けられた。

期間中に開催されたのは、アートをめぐる、ありあわせの問いを持ち寄るパーティーポットラッククエスチョンに始まり、女装パフォーマー ブルボンヌ氏と共に「十人十色の物語〜今年90歳になる館長と9人のドラァグクイーン〜」を題材に行った、「アーダコーダと語り合う哲学対話」 (2021年5月よりてつがくタイム ~ モヤモヤを楽しむ対話の場~として実施中)。映像作品 異言語Lab. 「没入型映像 イマージュ をもとに「聴者の環世界」「全盲者の環世界」「ろう者の環世界」について考える「異言語Lab. のレクチャー」。 視覚をテーマとした鑑賞ワークショップ「映像を7人くらいで言葉にうつす」
THEATRE for ALL 配信作品僕がうまれた日の福祉施設・たんぽぽの家アートセンターHANAの 佐藤拓道さんと藏元徹平さんを招いたトークセッション「THEATRE for ALL パートナーに学ぶファシリテーション with たんぽぽの家」。特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク TA-net 理事長 廣川麻子さんを招いた特別レクチャー。
各々のゲストが提起した課題をもとに、受講者同士が対話を重ね「ワークショップのあり方・可能性」を考察していった。

そして受講生たちはリサーチ期間に得た経験をもとに、個人レポートを作成。自身がどういったアクティビティのテーマに興味を持っているかを言語化し、整理する機会が設けられた。ここでは提出されたレポートの一部を紹介する。

■レポート①|4つのワークショップから「参加者の心地よさ」を分析する(久保田由香)

「ポットラック・クエスチョン」「アーダコーダと語り合う哲学対話」「異言語Lab. のレクチャー」「映像を7人くらいで言葉にうつす」という4つのワークショップに参加した久保田さん。彼女はこれらの「作品を鑑賞して複数人と対話することで鑑賞を深める」ワークショップを通し、新しい発見や、自分自身が抱いた問いを考える時間になったという。一方で「どうしてこんなにも“参加したときの心地”が違う」のか、が疑問として残った。そこで、4つのワークショップそれぞれの対話の時間を整理し、何に心地よく感じ、何に緊張を感じたのかを分析した。

TEATRE for ALL ファシリテータースクールレポート

まず、久保田さんはワークショップの参加者は2つの時間(①自分の考えを伝える②他の人の考えを聞く)を持っていると定義。その上で、参加者の“心地よさ”も「主体的」「受動的」の2種類あると仮定した。

TEATRE for ALL ファシリテータースクールレポート (1)

そして4つのワークショップを「問いと時間」「役割と人数」「芸風と距離感」「発言方法と温度感」という4つの軸から「主体的な心地よさ」「受動的な心地よさ」を生み出す要素を抽出していった。

久保田さんは「対話の前に一人で考える時間があること」や「発言の自由さがあること」、「話の方向性を見失わないようにファシリテートしていくこと」が重要だと分析。また、自分がワークショップに参加したことで「日常の中で『あれはこうだったのかも』とワークショップ中に感じられなかった“心地よさ”を感じる瞬間もありました。日常の中でワークショップを思い起こすことこそ“心地よさ”なのかもしれません」と締めくくった。


■レポート②|参加者の「座り方」がグルーヴ感を握る鍵だった(翔子)

また、ワークショップにおける参加者とファシリテーターの関係性を図式化して考察した受講生もいた。翔子さんは「映像を7人くらいで言葉にうつす」「ポットラッククエスチョン」「哲学対話」のレクチャーに参加。いずれもオンライン上でのワークショップではあったが、実際にオフラインで行なった場合はどういったスタイル・レイアウトで対話が行われるのかを、イラストで整理した。

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まず「哲学対話」のワークショップは、ファシリテーター・ゲスト・参加者が同じ場を囲んで対話する「円座スタイル」である、と整理。「対話が深まること」「フラットに同じ場を囲んで対話する」ことをメリットとして挙げる一方、ファシリテーターであったハタ坊さんが言っていた「当日のファシリテーションは20点くらい」がなぜ起きたかを分析。人数が多くボールが回りづらかったことを指摘した。

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「ポットラッククエスチョン」は全体ファシリテーションと個別のグループワークがある「テーブルワークスタイル」と定義。「全体感がある」一方で、違うグループとの参加者との対話はあまりなかったことを指摘した。

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「映像を7人くらいで言葉にうつす」ワークショップは、話しているグループを他のグループが観察する「フィッシュボール」と定義。このワークショップで佐藤さんは「話者と観客がまじり グルーヴ感が強くあらわれた」と感じたという。その要因として、グループ別の対話が全体で共有される仕組みがある、と分析した。


■レポート③|「知る活動」であるリサーチ期間の構造を分解する(増田卓哉)

「アーダコーダと語り合う哲学対話」「映像を7人くらいで言葉にうつす」と比較検討を交えながら「異言語Lab.のレクチャー」のワークショップを観察したのは増田卓哉さん。

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増田さんはまず「異言語Lab.レクチャー」を当日のプログラムから用意された宿題、当日URLの連絡から、挨拶、進行する際の問題提起に至るまで、あらゆる要素を細分化して分析。それぞれのタームで何が起き、ファシリテーターはどのように場の流れを生み出したかを客観的に整理した。

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その上で、それぞれの要素がワークショップでどういった役割を担っているかを言語化してまとめた。増田さんは自身の考察を経て「客観的な目線も意識したが、むしろ私の目線(主観)をより認識させられた。そのことで、私ならこうしたい!というアイデアの種のようなものが生まれつつある」と、これからのワークショップ実践編に対する期待を語った。

■チーム結成|アクセシビリティへの興味関心からWSチームを編成

上記にあげたレポートの他にも、受講者からは「折よく先日、自分がファシリテーションをしている録画を分析する機会があったが、自分は「感想」による対話の場づくりはできているものの、「追求」が不足していると感じた。今回、具体的な追求例を知ることができたので、意識して使っていきたい 」(中尾菜穂) という自身の姿を振り返る声などが上がった。

また「他の方のレポートを見て、居心地悪く感じていた方が多かったと知りびっくり。私は、一番居心地が良かったがそれはなぜか?」(蒔田あゆみ)と自分の感想が周りと異なることに対し分析を行う受講者もいた。

彼女・彼らが自分自身の意見をベースに、ワークショップのあり方について深く考察を重ねていることが印象的だった。

後日、MIMIGURIの臼井とTHEATRE for ALLの山川・星が、実際にワークショップを企画するためのチーム分けを行った。

受講生の各々が興味をもつアクセシビリティのテーマをもとに、キーワードを抽出。「視覚」「老い」「言語」「非同期」「弱さ」という5つのチームごとに、それぞれのテーマに基づいたワークショップを組み立ていった。

リサーチ期間におけるインプットとアウトプットを通し、受講者の目的や課題は徐々に研ぎ澄まされていき、今現在もチームごとに対話を繰り返しながら、リアルタイムで企画が形となっていくところだ。

2021年6月8日(火)より、各チームが生み出した5つのワークショップを実践する期間も設けられている。「アクセシビリティ」をテーマに、多様な人々が安心して対話・創作に参加できる方法論について試行錯誤を重ね、従来のように決まった時間・場所に集合しなくても参加できるものから内容も様々なワークショップとなっている。

彼女・彼らがファシリテータースクールを経てどのように成長したのか、これからのアウトプットに期待したい。


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