【新刊『ワトソン力』にて注目!】大山誠一郎作品の魅力とは
大山誠一郎の作品に特徴があるかと問われると、はっきり述べるのは難しい。
しかし、それは彼の作品がつまらないとか、評価に値しないとかマイナスの意味を込めているわけじゃありません。
むしろ彼の作品は興味をそそられる事件、背景を邪推したくなる登場人物、一切の無駄のないストーリーテリング、そしてあっと驚かされるトリック。ミステリに必要な要素全てにおいて彼の作品は高得点をたたき出しています。
こうした要因により、逆に彼の作品に特徴を見出すことが難しいのです。
例えるならば彼は広島東洋カープの鈴木誠也のような、いや、ロサンゼルス・エンゼルスのマイク・トラウトのような作家なのです。
そうだ、一つ特徴を挙げるとするならば彼の作品には上質な短編が多いというのが挙げられます。
これは連続ドラマの原作にしやすいというメリットがあります。実際、「赤い博物館」や「アリバイ崩し承ります」はドラマ化されており、最新作の「ワトソン力」もドラマ化にぴったりの作品。田口トモロヲあたりで実写化したらウケるんじゃないでしょうか。
さて、大山誠一郎に興味を持ってくれた方がいたときのためにいくつかおすすめを紹介しましょう。おすすめの一冊というより、おすすめの短編を。彼の良さは短編に詰まっているから。
1、「Yの誘拐」(『アルファベット・パズラーズ』より)
まずはデビュー作より、本書の最終章を担う短編です。
都内のアパートの最上階には、アパートの大家さんを中心に推理マニアの同好会が定期的に集まっており、登場人物が遭遇した不思議な事件について推理を披露しあいます。
この話でも、とある一人が推理マニアの仲間に未解決の誘拐事件の犯人を推理しようと持ち掛けます。調査を始めると思わぬ推理の糸口が随所に見つかり……。
短編集の最後を飾るにふさわしいどんでん返しが見物の一編です。何なら一番好きかも。
2、「死に至る問い」(『赤い博物館』より)
多摩川河川敷で殺人事件が発生。通常通りの捜査を始めようとするが26年前に全く同じ場所で全く同じ手口の殺人事件が発生していたという事実が判明し……。
過去の事件の証拠品を管理するための施設である警視庁犯罪資料館、通称「赤い博物館」の館長が不可解な過去の事件に取り組むシリーズです。この話はドラマ化もされているので映像を先に見るのもありかもしれませんね。
3、「少年と少女の密室」(『密室蒐集家』より)
1957年東京郊外のお屋敷で少年と少女が殺害されているのが発見。しかし、その屋敷は犯行当時警察の衆人監視下に置かれていたのだった……。
第12回本格ミステリ大賞を受賞した書籍から一点。密室蒐集家と名乗る不思議な紳士が時代を超えて不可解な密室を鮮やかに解き放っていくという物語です。とっかかりやすいという点ではこの作品から読んでみるのもいいかも。
大山誠一郎の作品はどれも短いです。しかし、とてもフェアに作られている。つまり作品の中に含まれているヒントを上手につまみ出し、熟考すれば自力で犯人にたどり着くことができるということ。
無駄な引っ掛けなどがないので、ミステリで頭を働かせることが目的ならいい脳トレになると思います。
ミステリを久々に読んでみようかなという方や、ミステリってどうやって作るんだろうという作家志望の方にもおすすめの作家です。
気になった方はぜひ手に取ってみてください!
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