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犯罪に手を染めていた少年を救った、生き方としてのラスタファリアニズム #10. Jahwit(プエルトリコ)

#その時自分史が動いた は、私たち夫婦が世界一周をしながら現地の人々に突撃取材をし、彼ら彼女らの語る人生ストーリーと私たちの視点を織り交ぜながらお伝えしていくシリーズです。(背景はこちら

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「昔、かなり悪いガキだったんだ。ちょっとしたいたずらとかっていう次元じゃなくて、かなりダメなやつ。犯罪に手を出してしまってたわけ。それで俺も、アメリカの中でも「トップクラス」の悪ガキたちが集まる学校に通ってた。もうとにかく、ルールも政府も社会も、全部くそくらえ、と思ってたね。」

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Jahwitという愛称で呼ばれるこのなかなかファンキーな本日の主役。本名は分からないが、「Jah Witness」が短くなってこうなったそう。プエルトリコからフェリーで数時間のところに位置するビエケス島という場所で「レゲエハウス」という宿を経営しながら、レゲエアーティストとしても活躍している方だ。
白人だけれど、何十年髪切ってないんだろう…という迫力のあるドレッドヘア。見るからに普通ではない人生を歩んできたであろうJahwitに、話を聞いてみることにした。
(そしたら早速冒頭の話をされたので度肝を抜かれた)。
アメリカ生まれの不良がなぜ今「ラスタマン」として生活しているのか。ラスタファリアニズムの「ラ」の字も知らない方にこそ、是非知ってもらいたい新しい世界だ。

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暗黒時代

当時、パンクロックにはまっていたんだ。
体中にタトゥーがあるのはその影響なんだけれど、ずっとバンドのやつらとつるんでいた。
そんなある日、黒人の仲間たちが、レゲエ音楽ってものを教えてくれたんだ。かなり昔の、オールドスクールのやつよ。ボブマーリーとかスティールパルスとか。彼らは皆髪をドレッドロックにしていて、ウィード(マリファナ)を吸っていて、なんかカッコいいなと思ってね。
そしたら、彼らがとっさに、聖書を取り出したんだ。そこで、レゲエ音楽の背景には深いスピリチュアルな意味が色々と込められていて、「ラスタファリアニズム」という考え方に基づいているんだということを教えてもらったわけ。

私たちもまったく知らなかったのだが、ラスタファリアニズムとは、1930年以降ジャマイカで発祥した思想で、当時エチオピアの王として君臨していたハイレ・セラシエが現代の神の救世主であるとする考え方らしい。
正直、「ラスタ」という言葉には、レゲエ、ボブマーリー、ドレッドヘア、マリファナのイメージしかなかったが、どうやら深い意味があるらしかったのだ…。

ラスタが僕を救った

当初は、レゲエの放つちょっと悪い感じというか、反骨精神みたいなものに惹かれたんだけれど、実はそれと同時に、善き人として正しい人生を送ろうという考え方も込められていてね。それが、俺にとっては衝撃的だった。つまり、社会をよりよくするために戦おうっていうことなんだ。
俺はそれまでは、せまい世界に住んでいた。でも、レゲエを知ってからは、正しく生きよう、どんな人にでも良い部分はあるんだ、という考え方に変わっていったんだ。

それから30年が経つ。
ジャマイカに住んでいたことも、ニューヨークで生活していたこともあるけれど、ここプエルトリコのビエケス島にたどり着いたという。

もちろん荒波だらけだったよ。
正直、記事には書いてほしくないことだらけだな。アメリカの警察がいかに汚職まみれかというのを目の当たりにもしているし。特に理由もなく、国から追い出されたんだからね。
でも、そんなときでも、ラスタファリアニズムがあったから何とか乗り越えられてきたんだ。社会システムに潰されるな、諦めるな、自分の権利のために常に戦え、という考え方のおかげ。どんな状況だって、歯を食いしばってでも何とかするしかないんだ、というのが、自分を奮い立たせてくれた。

例えば、ボブ・マーリーが銃で撃たれた時のことを知ってるか?
ボブと、奥さんのリタ・マーリーは、何者かに銃で撃たれた。でもその翌日には、「ここで休んでしまっては、自分たちが戦っている意味がない」と、チャリティーコンサートで歌いきったんだよ。
過去から学んで、未来に進むんだ。

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何かヤバいことが起きたとき。人間っていうのは、何かのせいにしたがる。対抗して、復讐したがる。でも、そんなときでも俺の心を常に正しい方向に向けてくれていたのは、ラスタの「全てのものへのリスペクト」という精神だった。
俺とおまえらだって、髪型も違うし、肌の色も言語も違う。でも、目が2つあって、鼻があって、口がある。違いよりも共通点のほうが圧倒的に多いんだ。今の社会は、違うところにだけ目を向かせたがるけれど、結局は、おんなじ空気を吸ってるしさ、歴史をたどればおんなじ祖先なわけよ。
だから、「他人」を批判する人になってはいけない。なぜなら、それは自分自身を批判していることになるから。

ジャマイカでは、「I」という言葉は「自分」という意味だけでなく「あなた」「彼」「彼女」も意味するんだ。それも一緒で、俺もおまえも結局は同じなんだ、ってこと。
"Respect to I". あなたと私をリスペクト。
"One love". 自分を愛するように、他人を愛する。

ラスタファリアニズムがそんなに深い意味を秘めているものだとは全く知らなかった…。

ラスタファリアニズムっていうのは、上っ面のものだけじゃないんだ。別にドレッドヘアにしなくったっていい。ウィードを吸わなくったっていい。ベジタリアンでなくてもいい。心が綺麗であり続けるということだけが、何よりも重要なんだ。

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今、この宿を経営しながら、レゲエアーティストとして生活をしているJahwitだが、どんな気持ちで日々を送っているのか。

俺らはミュージシャンだから、バーやイベントで演奏をすることがいわゆる「仕事」だろ。でも、そんな時にでも聞かれるのは "What are you guys working on?"(何の仕事をしてるのか)ではなく、"What are you guys playing?"(何をプレイしているのか)。つまり、ワークではなくプレイなんだよ。自分のやっていることをエンジョイできてさえいれば、良い人生なんだと思う

俺が一番嫌うのは、社会によって作り上げられている『隔たり』だ。
例えば、子供にクレヨンを渡したらさ、画用紙いっぱいに自由に塗りたがるだろ。なのに、親は、枠線からはみ出さないように注意するんだよ。社会も同じなんじゃないかと思うんだ。
でもだ。いっちばんクリエイティブな子供たちは、そんなの全然気にせずに、自分たちのルールで好きなようにお絵描きをしてるんだよ。そういうことだと思う。

もちろん、何をするにしたって、善い心を持ち続けていることは重要だけれどね。
One love。

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(Jahwitの家から歩いていけるビエケス島のビーチ)

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編集後記

これまでの記事とはちょっとテイストが違うインタビューだったかもしれない。キャリアとかを超えて、「ラスタファリアニズム」という思想が、いかに人の人生観を根本から覆したか、という話だった。

逆に、Jahwitにとっては、仕事もそれ以外も融合した一つの「生き方」なのだ。だから、「仕事はプレイ」だという発言は納得がいく。(※Life work balanceではなくwork in lifeという考え方。これについて詳しくはこちらを参照されたい。)
でもここから見えてきたのは、どんなに自分とは「違う人間」だと思っても、「結局人間」だということ。

日本だと、ドレッドヘアとかマリファナとかレゲエとかって、ちょっと怖かったり、理解できなかったり、悪いイメージを抱いている人が多い気がするのだが、本当は、「心の正しさ」と「自然との調和」をものすごく大切にしている「人生観」に基づいているものなのだ。
ドレッドヘアだって、「Dread=恐ろしい」という言葉が入ってしまっているけれど、元はといえば髪の毛であっても自らの身体に刃物を当てることを禁じた結果として生まれた髪型らしい。や、優しい・・・!

Jahwitも、最初見たときは、少し距離を置いてしまっている自分がいたが、「俺もおまえも同じ人間だ」と目を見つめながら言われた時には、そんなためらいはなくなっていた。

そんなJahwitをはじめとする「ラスタ」たちが大切にしている、One Loveという考え方。なかなか差別がなくならない世の中だけれど、だからこそ、その精神はもっと広がるべきだと思った。

そしてそのためには、「子供が自由にお絵描きできる世界」。つまり、大人たちの手によって故意につくられた「隔たり」を超えていこうとするクリエイティビティが必要なのだろう。

Jahwitは私たちに、そんなことをリマインドしてくれた気がする。
最後に、ラスタの象徴的存在であるボブ・マーリーの言葉を記したい。
Me only have one ambition, y'know. I only have one thing I really like to see happen. I like to see mankind live together - black, white, Chinese, everyone - that's all.
僕にはひとつのアンビッション(野望)しかない。自分の目でこれだけは見たいということは一つしかない。それは、人類が一緒に生きるということ:ブラックもホワイトもチャイニーズもみんな。それだけだ。

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