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世界が終わる七日前

「十日後に地球は滅亡します」
 そんな与太話を信じる者など居ないだろう。実際、十一日前までは居なかった。
 だが、ヒーローが世界を救うのはフィクションの中だけで、私達に配給されたのは「安息の眠り」という尊厳死用の睡眠薬だけだった。
 初日こそ無理心中や無差別殺人、はてはYouTuberの自殺配信など混乱はあったものの、流石に三日目にもなると世間も落ち着いている。
 電気ガス水道といったインフラ関係はオートメーション化が進み、かつ最後まで仕事をしていたいというワーカーホリックたちのおかげだろう。
 私はその恩恵を受けながら自室に籠もり、今まで見損ねていた映画を見続けていた。

 そんな三日目の朝、自室のチャイムが鳴る。無視して朝食を用意。
 熱したフライパンに厚切りのベーコンを乗せれば燻製された脂身が焼けるいい匂いが漂う。
 鉄製のドアをガンガン蹴る音が聞こえてくるが、相手にする義理はない。
 軽くトーストした食パンに厚切りベーコンと卵は二つ。
 甲高い金属音が聞こえ、電動ドリルドライバーで蝶番を外した男が鉄製のドアを蹴破って姿をみせた。骸骨もかくやという痩せこけた額に汗をうかべ、肩で息をしながらまくしたてる。
「俺は死神だ!」
「はぁ…」
 自分でも思った以上に平坦な声が出てしまった。
「反応が薄い!殺さないでくださいと叫べ!」
「いや、そういうの面倒くさいんで」
「何故だ!?今まで部屋に籠もって生き延びようとしていたんだろう!?」
「いえ、誰にも邪魔されずに溜まった映画が見たかっただけなんで」
 そう、パリピな友人からは「一人じゃ寂しいだろう?皆で飲んで騒いで一緒に死のうぜ!」と誘われたが「死ぬまでにやりたいことがある」と丁重にお断りしたのも見損ねた映画をみるためだった。
 だが、流石に三日三晩ぶっ通しで見ていると「もう良いかな」という気分になってくる。
 だからこそ、今日は気分を変えて朝飯など作っていたのだ。

【続く】

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