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24時間営業の強制は独禁法違反か

公正取引委員会は、令和2年9月2日、「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」を公表しました。

調査結果として示された取引実態の内容も興味深いものですが、ここでは本報告書で示された独禁法の評価(法解釈論)につき解きほぐしてみたいと思います。

本報告書では幾つかの取引実態について評価が示されていますが、「年中無休・24時間営業」を採り上げてみます。本報告書の第2部第13-2(3)ア(イ)(208頁以下)で記載されている内容です。

「独占禁止法上の評価」と「競争政策上の評価」

中身に入る前に留意すべきことは、本報告書に記載されている評価は、「独占禁止法上・競争政策上の評価」であるということです。独禁法の世界では、「独禁法違反とまではいえないが、競争政策上は好ましくない」という領域が存在します。「競争政策上の評価」というのは、この領域の行為を対象とするものです(なお、本報告書に書かれている他の評価部分のタイトルを注意深く見ると「独占禁止法上の評価」としか書いていない箇所もあります〔本報告書204頁〕)。法的議論をする際には、政策論(べき論)も重要ですが、両者を混同しないようにすることがもっと重要です。

契約内容となっている場合の基本的評価

年中無休・24時間営業に関し、公正取引委員会は、まず、次のとおり述べています(本報告書208頁)。

年中無休・24時間営業を行うことに顧客のニーズがある場合もあり、これを条件としてフランチャイズ契約を締結すること自体は、第三者に対するチェーンの統一したイメージを確保する等の目的で行われ、加盟者募集の段階で十分な説明がなされている場合には、直ちに独占禁止法上の問題となるものではない。

これは、24時間営業等を行うことが当事者間の契約内容となっているならば、原則として独禁法違反とはならないことを確認するものです。独禁法においても、取引自由の原則が基本的に尊重されます。

例外的に,当事者間の契約内容が独禁法違反となってしまうケースとして、2つ挙げることができます。ぎまん的顧客誘引に該当する場合と、優越的地位の濫用に該当する場合です。

ぎまん的顧客誘引

まず、加盟店募集の段階で、重要な事項につき十分な開示を行わず、または虚偽もしくは誇大な開示を行い、これらにより、実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良または有利であるとオーナーに誤認させ、自己と契約するように不当に誘引した場合には、ぎまん的顧客誘引に該当し、不公正な取引方法として独禁法違反となります(フランチャイズガイドライン2(3))。顧客に対して不当な情報を提供することは、顧客が正しい情報を受けて、正確・冷静に判断するという公正な競争過程を歪めるものであり、それによって顧客による合理的な選択を歪めるおそれがある場合には、そのような競争手段自体が不公正であると評価され、独禁法上問題とされます(実践知350頁以下)。

加盟店の営業時間に関し、加盟店募集に当たり本部は加盟店に対してどのような内容を開示しなければ、ぎまん的顧客誘引として独禁法違反となるでしょうか。

極端な話ですが、本部が加盟店募集に際して24時間営業等の義務を殊更に隠していたような場合には、ぎまん的顧客誘引として独禁法違反となりやすいでしょう。しかし、そのようなケースはあまり考えにくいように思われます。

この点につき、本報告書において、公正取引委員会は次のとおり指摘しました(本報告書209頁)。

現下のような人手不足の状況においては、本部は加盟店募集時の説明に当たって人手不足の実態等について十分かつ実態を踏まえた説明及び情報開示を行う必要がある。

この記述から、加盟店募集の際に人手不足の実態等について開示しなければ独禁法違反になると考えるのは早計です。冒頭に述べたように、ここでの記述には、独禁法上の評価だけでなく、競争政策上の評価も含まれています。あえてどちらともつかない微妙な表現をしたところにミソがあるのかもしれません。

いずれにせよ、これは、現下のような人手不足の状況において加盟店募集する際の評価であり、そのような状況になかった過去における加盟店募集に関してまで射程が及ぶものではありません。ぎまん的顧客誘引とは、あくまで、顧客(加盟者)を誘引する際の手段を問題とするものだからです。

優越的地位の濫用

次に、本部が優越的地位の利用してオーナー(加盟者)に対し24時間営業等の受入れを余儀なくさせた場合には、24時間営業等が著しく不利益なものである限り、優越的地位の濫用に該当し、不公正な取引方法として独禁法違反となります。

優越的地位の濫用が問題となりうる場面は、3つに分けて考えることができます。

契約時に24時間営業等を義務づけた場合

1つ目は、加盟店契約において24時間営業等が取引条件として定められている場合です。前記のようなぎまん的顧客誘引には該当しないとしても、24時間営業等という契約条件が著しく合理性を欠くものであり、本部が優越的地位を利用してオーナーにその受入れを余儀なくさせたといえるならば、優越的地位の濫用に該当します。

しかし、コンビニエンスストアにおける24時間営業等は、前記のとおり、一定の顧客のニーズを受けて、また、チェーンの統一イメージを確保する等の目的で行われるものである限り、それが著しく合理性を欠く取引条件であるとすることは容易ではないように思われます(実践知366~367頁、375頁)。また、加盟店契約を締結する前の段階においては、オーナーとしては不合理な条件を提示するような本部とは契約をしないという選択肢を現実的に採りうるものである限り、本部が優越的地位にあるとも認められにくいでしょう。そのため、本部が加盟店に対して24時間営業等を契約に基づき強制したとしても、通常は優越的地位の濫用に該当するものではありません。

契約後に24時間営業等を押し付けた場合

2つ目は、加盟店契約締結後に、本部が加盟者に対して一方的に営業日や営業時間を変更するなどにより、年中無休・24時間営業を義務づける場合です。このように契約関係に入った後に、契約条件を変更する場合には、加盟者としては本部の要求を受け入れざるを得ないことが多いでしょうから、条件変更に至る経緯によっては、優越的地位の濫用に該当すると判断されることもありえます(本報告書208頁脚注111)(実践知368頁、382頁)。

時短営業を容認する方針を示しながら協議に応じない場合

3つ目は、24時間営業等の取引条件を含んだ加盟店契約締結後に、本部が時短営業を容認する方針を示しながら、加盟者からの協議の要請に応じないことにより、24時間営業等を加盟者に続けさせる場合です。この点につき、公正取引委員会は、次のとおり指摘しました(本報告書209頁)。

今回調査した8チェーンにおいては、本部と加盟者とで合意すれば時短営業への移行が認められているところ、そのような形になっているにもかかわらず、本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し、加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。

これは、単なる「競争政策上の評価」ではなく、「独占禁止法上の評価」として重く受け止めなければならない記述です。このような類型に関する指摘は、これまであまり見受けられなかったものです。

加盟店契約において24時間営業等が定められている場合、その義務の緩和に応じるかどうかは、通常は本部に裁量があるものと考えられます。契約の拘束力が認められる限りは、それを解くことを認めるかどうかは、基本的には債権者の判断に委ねるべきだからです。しかし、本部が加盟店の時短営業を容認する姿勢の打ち出し方によっては、現行の契約を続ける限り24時間営業等を行うという長期固定的・不変的な取引条件が、状況に応じた変更を認めるものへと変容したとみられる余地が生じるかもしれません。そうだとすれば、加盟店において24時間営業等を維持することが困難であることを示す合理的理由を携えて時短営業を要請した場合、本部としては協議に真摯に応じなければならず、それを無下に拒絶することは「正常な商慣習に照らして不当」であるとの評価を受けるということなのかもしれません。

いずれにせよ、24時間営業等が加盟店にとって合理性のない不利益となるものであるかどうかや、それに至るプロセスが正常な商慣習に照らして不当なものであるかどうかは、当該事案に応じて、まさにケース・バイ・ケースで判断されるものであることを忘れてはならないでしょう。


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