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【食のあしあと】素朴さって実は豊かさ。爽やかな香りと口溶けが恋しい盛岡銘菓

食べ物は、その土地の個性や風土をよく表しています。
「食のあしあと」は、昔から食べられている食材や郷土料理、
長く人々に愛されている名物を探し出し、主観でご紹介していく
イラストエッセイです。岩手はおいしいもんがい〜っぱい。
                   illustration by ENGAWA


 ちょっとだけ甘いものが欲しくなるときってないだろうか。それもケーキや菓子パンみたいなヘビィ級ではなく、“スイーツ”と称するほどもったいぶらず、ポンと口に放り込めるような気軽さの。

 そんなときに重宝しているのが、盛岡の関口屋菓子舗の「白はっか糖」。砂糖のストレートな甘みのあとに来る、はっかのピリッとした風味。口のなかが一瞬でスカーッとするし、白くて硬い風貌も水面に張った氷のようでじつに涼しげで、夏でも食べてしまう。

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目にも涼しい白はっか糖。
このほか、黒砂糖を使った「黒はっか糖」、
冬限定の「生姜糖」とはっか三兄弟が揃う。

 なにより小気味いいのはその口溶け。舌にのせてしばらくするとホロリと崩れ、はっかの刺激だけを残して跡形なく消えていくのだ。ほかにもはっか糖を食べてみたが、ここまで滑らかなものには今のところ出会えていない。

砂糖を煮溶かして型に流して固まらせるという、作りかただけ追えばシンプルな菓子だけれど「はっかは北海道北見産のものだけ、煮詰めたら一晩かけて炭火で乾燥させるんです」と、4代目女将の関口真由美さんは大事にしてきたことを教えてくれる。ここに代々の職人が守ってきた「カン」や「こつ」が加わり、あの口溶けが生まれるのだと思う。

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味噌パンは、駄菓子の4番バッター的存在。
サクサク系もあるが、関口屋さんのはしっとりみっしりとしている。
この独特な食感の良さがわかる年齢になりました…。

 このはっか糖をはじめ、「たんきり」や「味噌パン」など昔から食べられてきた素朴な郷土菓子たちを、仲間と協力して「盛岡駄菓子」という名で世に送り出したのが関口屋菓子舗の三代目。そもそもは保存食であるためとんでもなく硬かったという当時の駄菓子を、万人に食べやすく改良したのだと女将さんはふりかえる。無口で頑固な職人気質ないっぽうで絵にも造詣が深かったといい、今も店頭に並ぶ駄菓子のパッケージのデザインも三代目が手がけたのだそうだ。

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あんこ玉を乾燥させて砂糖衣をかけた「石ごろも」。
ほろほろと崩れるこしあんの滑らかさがいい。

 現在、盛岡駄菓子は四代目のご主人が作っている。大豆、ゴマ、あんこ、砂糖、もち米といった材料は昔から変わらないが、今では材料が手に入らなくなり消えていった駄菓子もあるそうだ。いっぽう店のショーケースには五代目が作っているチーズケーキや大福なども並んでいて、こちらがお目当の人も多そうだ。

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「たんきり」3種。左から、きな粉、青豆きな粉、
そして黒ごま。これと糯米や砂糖などを混ぜ合わせてねじった駄菓子。
素朴な甘さと程よい噛みごたえ。体に悪いものが入っていない、
安心安全なお菓子。ちなみに「たんきり飴」とは別物。

なにより、店頭で今時の子どもたちが、駄菓子を「うまっ」と食べている姿にオバサンはえらく安堵するのだ。こういう味の記憶こそが郷土愛に繋がっていくと、私はかなり本気で信じている。

【白はっか糖メモ】
お店は昔ながらの商家のたたずまい。中に入ると平台に、駄菓子がずらっと並んでいる。実はまんじゅうやくるみようかん、お茶もちなどの団子類も評判で、特にお茶もちは午前中で売り切れてしまうらしい。ということで未だ出会えず…。

関口屋菓子舗
盛岡市神明町2丁目3番地
019-622-4509


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