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夢幻鉄道~閉じた世界の内側で(前編)~

【1】


夏休み最終日の翌日。

その日から小学四年生の娘が
不登校になった。

どうしても布団から出てこない。
学校に行きたくないのだという。

「休み前まで普通に行けてただろ。
どうして急にそうなったの?」

ネクタイを締めながら僕は妻に言う。

妻は言う。

「急じゃないよ。
ずっとそうなりそうな気がしてた。
前から言ってるじゃない。

カナは発達障害があるかもしれないって。
”普通”のクラスで過ごすのは
もしかしたら辛いのかもしれない」

”発達障害”

最近流行ってるよね。この言葉。

人の話が聞けないとか
空気が読めないとか
忘れ物が多いとか

”発達障害”が
あるからなんだってさ。

会社の仕事出来ない後輩が
そうなんじゃないかって
同僚が言ってたな。

…それって、自分のミスを隠したい
言い訳なんだろ?

仕事が出来ない自分への
言い訳なんだろ?

話が聞けないのは
聴く気が無いんだろ?

空気が読めないのは
読む気が無いんだろ?

忘れ物が多いのは
気を付けてないんだろ?

うちの娘はどう見たって
『普通』じゃないか。

妻は言う。

「一度病院に連れて行って
みようかと思うんだけど」


「馬鹿な事を言うな。
わざわざ自分の子を
障害者扱いするつもりか?

もし”あなたの子は障害者です”って
診断が下りたとしたら?
それ、本人に伝えるの?
本人が一番つらいだろ。

その後の人生もずっと
障害者扱いされて
差別されるんだよ。

そんなものはない方が
いいじゃないか」


「差別される”かもしれない”ことより
今のカナの…」


「いいかい?

僕たちも「障害者の親」って目で
見られるんだよ?

カナは『普通』に生きていられるんだから
わざわざ診てもらう必要なんてない。

診断名も要らない。

君がもっとちゃんと
娘の話を聞いてあげたら
いいんだよ。

パートタイムなんだから
カナと話をする時間ぐらい取れるだろ」


妻は、少し悲しげな顔をして
それ以上は何も言わなかった。


「学校に行きたくないなんて
ただの甘えだよ。

僕らが子どもの頃、そんなこと言って
休む奴なんていなかった。

僕がちょっとだけ話をしてくる。」


「…余計なことは言わないでね」


妻のその一言の意味が
僕にはわからなかった。

何が余計なことなんだ。
僕がカナを想って言う言葉に
余計なことなんてひとつもない。


【2】


「おい、カナ。起きろ。
今日から学校だろ。
夏休みはもう終わったんだ。
布団から出なさい」


カナは何も答えない。
長い休み、好きに過ごさせすぎたか。

僕はカナに近づいて身体をゆすった。
カナは薄目を開けてぽつりと一言呟いた。


「息が苦しいの」


「苦しい?調子が悪いのか?
じゃあお母さんと病院に行きなさい。」


「・・・そういうことじゃない」


「そういうことじゃないって何だ?」


「・・・ ・・・」


「どうせ休みすぎて嫌になったんだろ?
父さんたちが子どもの頃はなぁ、
そんなこと考えないで
あたりまえに学校行ってたぞ。

社会人になれば余計にそうだ。
めんどくさいから行きたくないとか
そんな理由じゃ休めないんだ。

いいか、カナ、学校っていうのは…」


「…お父さんはもう何も言わないで」


カナの目に涙が浮かんでいた。

僕は正しいことを言っているだけだ。
何でこの子は泣くんだ。


僕は怯んだ。
最近のカナはこうやってすぐ泣く。

「・・・学校、行けよ。
子どもは学校に
行かないといけないんだ。

義務教育は、義務だから
義務教育なんだぞ。

まだ習ってないか?

行きたくないから行かないなんて
甘えなんだからな」

僕は一言言うと部屋を出た。

「話にならない」

妻に吐き捨てるように言って
会社に向かって足を動かした。


【3】


家を出て腕時計を見る。

7時45分。
いつもは40分に家を出るのに。
僕の毎朝のルーティーンが少し崩れた。


8時に駅につかなければいけないのに。
時間のずれが気持ち悪い僕は
駆け足で駅へ向かう。

いつものように途中のコンビニで
缶コーヒーを買ってカバンに入れ
時間通りに駅に着くと

8時10分発列車が停車する8番線の
決まった場所から車両に入り

決まった場所に立ち、会社に向かう。

これが僕の朝ルーティーン。


【4】


19時。

会社から帰るとカナが居間にいた。


僕の姿を見た瞬間
見てはいけないようなものを見た顔をして
カナは即座に部屋に入ってしまった。


何だあの態度は。

「カナは学校行ったのか」

「結局、行けなかった。
ずっと泣いているのに
無理矢理行かせられないでしょ」


妻は目も合わせずに
僕に言う。


「毎朝泣いたらどうする?
ずっと行かせないつもりか?
そのまま不登校になったら
どうするんだ。

あそこの子は学校行ってないって
あちこちから言われるぞ。

勉強だってどんどん遅れるだろ。
友達からも変な目で見られるぞ。

お互いの実家にだって
どう伝えるんだ?」


「…もう、あなたは本当に
”余計なこと”しか言わない」


「…余計なこととはなんだ!
僕は当然のことを言ってるだけだ!」


思わず語気が荒くなって
僕はハッとした。

妻は無言で僕の前に
夕飯を並べると
カナの部屋に入っていった。


女の気持ちはわからない。


【5】


その日から随分長いこと
カナは僕の前に姿を見せなくなった。


もちろん、学校にも行っていないらしい。

学校の先生やクラスの子が
カナに会いに来たらしいが
会おうともしなかったそうだ。

娘を障害者にしたくてたまらない妻は
発達について詳しい病院に
検査の予約をしたそうだが

検査はひどく混みあっていて
数か月先にならないと受けられないとか。

検査を受けて
そんなにみんな
障害者になりたいのか。

”可哀想なやつ”になりたいのか。


カナはその間ずっと
学校に行かせないつもりだろうか。

その間遅れた勉強は?
友達との話題は?

長く休めば休むほど
その後学校に行くのが大変になる。
不登校のレッテルは重い。

妻もカナもそれをわかっているのだろうか。


僕がそんなことを言うたびに

「もっと、カナ自身を見てあげて。
カナの事を思ってあげて」

妻はそう返す。


僕は、カナのことを思っているから
言っているのに。
どうにもかみ合わない。


【6】


会社のボンクラ後輩が
今日もミスをした。


指示したはずの伝票を
作っていなくて
取引先と大騒ぎ。

あきれ返って僕は言った。

「ちゃんと早いうちから
作っておけっていっただろ?
君はいつもそうだなぁ。

入社してもう2年だろ。
いつまでも新入社員気分じゃ困る」


周りは冷やかすような口調で
「あいつ発達障害じゃないの」
そう言うけど

あいつはただ
何も努力していないだけだ。


もしカナに診断名がついたら
そういう大人になるのかな。

そんなんなら診断名は言い訳だよ。


診断がついたら
全てが許されるわけじゃない。

社会に出て困るのは自分だ。


【7】


カナが学校に行かなくなって
2か月がたった。


もう立派な”不登校児”だ。
僕は”不登校児の親”だ。


子どもの話題になるたびに
僕はいたたまれない気持ちになる。


お子さん元気ですか?って?


ああ、多分元気さ。
顔を見ていないから
わからないけどね。


元気だけど学校いってないんだ。
おかしな話だろ。


僕と娘はもうずっと
言葉を交わしていないよ。


言葉を交わしたいとも思えない。
もう、娘がまるで宇宙人みたいだ。


【8】


カナはよく眠るようになった。
朝僕が出勤する時間になっても
ずっと寝ているらしい。


昼過ぎになって起きてきて
少しだけ活動してまた眠る。


妻はパートをやめて
カナと過ごすようになった。


このままこの子は引きこもりになって
ニートになっていくのかな。


どうしてこうなったんだ。
僕たちは育て方を間違えたのか。

カナには小さな頃から
色んな習い事をやらせてきた。
小さなころから塾に通わせたから
勉強だってできた。

このままいけば
ちゃんとした大人になれる予定だった。


でも、もう全てが終わりだ。


勉強はどんどん置いて行かれ
学校に来ない子として
クラスメイトにも見放され

近所の人や親せきからは
可哀想な子として見られ


僕たちは育児に失敗した親になる。


カナは僕の収入で
ただ、飯を食らい
惰眠をむさぼるだけの
生き物になる。

僕は何のために
この子を育てているんだ。

僕が今までカナのために
やってきたことは、何だったんだ。

【9】


今日もいつものルーティーン。


7時45分に家を出て

コンビニに寄ってコーヒーを

・・・

あれっ。

いつも買っている銘柄の
コーヒーが、ない。


ああ、なんだか気持ち悪い。


コーヒーは飲みたいから
仕方ないので別な商品にした。


「毎朝買ってるんだから
欠品させないでくださいよ」

レジを打つ店員に
軽く苦情を入れたが

バイトの兄ちゃんにそれを言っても
仕方ないようで

「さーせん」と
軽く頭を下げられた。


いいよな、責任が無い立場のやつは。


【10】

ルーティーンが崩れた
気持ち悪さを抱えながら

僕は8番のホームへ向かった。


…?


いつもと電車が違う?

というか、駅の雰囲気も
どこかおかしくないか?

普段なら人であふれているホームが
がらんとしていて誰もいない。

バカな。

朝の出勤ラッシュ時間だぞ。

僕は腕時計をもう一度見た。

8時5分。

この電車は10分発。


間違いない。
休日に間違えて出勤したとか
そういうこともないようだ。


とりあえず電車には乗らないと
会社に行けないしな…

いつもの車両は
修理にでも出されているのか?


僕はいつもの場所から
電車に乗り込んだ。

【11】


中には人が沢山乗っていた。
座席の配置が普段と違う。


本当に気分が悪いな。


ホームから消えた人が
ここにはいた、と安心した半面


その、乗り込んでいる人々が
皆、背筋を伸ばして

殆ど動くこともなく
言葉を発することもなく
静かに乗っている様が
なんとも異様だった。


いつもは詰め込まれたように
乗っている人々も
間隔を空けて
静かに乗っているのだった。


気持ち悪さを感じながら
僕は列車の中の

”いつもの場所”に立った。

そして窓から
”いつもの景色”を見て
会社に向かうのだ。


【12】


乗って間もなく
僕は違和感を感じた。


”いつもの景色”が
”いつもの景色”じゃない!!


街並みの中を走るはずの列車は
山の中に向かう。


まだ山々が
紅葉し始めるぐらいの季節に

景色はまるで冬の入り口のような
寒々とした枯れ野原に変わっていく。


…どこだ、ここは。


慌てて僕は運転席の方へ向かう。
きっと乗る列車を間違えたのだ、
僕が間違えたはずはないが
そうとしか言いようがない。


早く降りて戻らないと遅刻してしまう。


車掌の姿が見えて
僕は声を掛けようとした。


そこで車内アナウンスが鳴る。


「次は終点。ヒナノス、ヒナノス」


・・・ヒナノス?
聞いたこともない地名だ。


スマホを出して調べようとしたら
まさかの圏外。


どんだけ田舎まで来たんだよ?
そんなに長く乗ってないぞ。


とりあえず降りて
反対方向の列車に乗らなくては。


僕はホームに降りた。


乗ってきた電車は乗客が下りたらさっさと
走り去ってしまった。


折り返しの時刻表を探したが見当たらない。


…どうするんだよ…。


僕は途方に暮れて
駅から外へ向かった。


【13】


駅の外に出るとそこは
真っ白なドームの中だった。


東京ドームみたいな
布のドームじゃない。


さながら、鳥の卵みたいな…
硬そうでつるっとしていて
光を少しだけ通すような
少し透き通った天井。


真っ白な天井はそのまま
床まで伸びていて

本当に僕は
巨大な卵の中にいるみたいだった。


…ヒナノス…


…雛の、巣?


…まさかな。

そんな町があるなんて
聞いたこともないよ。

【14】


町の中はなんとも言えない
おかしな雰囲気だった。


鉛筆のような形の木が立っていて


消しゴムのような小屋が並んでいる。


巨大なランドセルのようなオブジェ。


その中を歩いていくと
恐らくドームの中心の真下に
小さな泉が沸いていた。


何よりおかしいのは
人が誰もいないことだ。


さっき列車から沢山降りた
他の乗客はどこへ行ったんだ。


この静けさはなんだ。
この町は、いったいなんだ。


きょろきょろしながら
辺りの様子を探っていると

突然大きな音が
僕の耳をついた。


【15】


『きーーんこーんかーんこーん』


学校のチャイムのような音が
あたりに鳴り響いた。


なんて大きな音だ!
耳がおかしくなりそうだ。

音量設定が
おかしいんじゃないのか?

『…ざ、ザザ…


オハヨうゴザいマス!

ココロチャンネルヲ
聞いテくれテル

ラジオネーム
カナチャん!


さあ今日も色んな番組ヲ
流していクよ…


…ざざ…』

ココロチャンネル?

ラジオネーム『カナちゃん』?

何なんだここは。


どこにもスピーカーなんてない。
どこからこの放送は流されてる?


本当に何もない。
目に入ってくるのは
よくわからないオブジェと
白いドームだけ。


【16】


『ざ…
ザザ…


きょーつけ!
れい!

着席っ!


ガタガタ…
ざわざわ…』


ココロチャンネルとかいう放送は
何かの音を流しだした。

これは…学校の音のような。


『カツ、カツカツカツ…

「この問題の解き方は…」
「教科書25ページを開いて…」

カツ、カツカツ…

がたごと、がたごと

ざわざわ…』


黒板にチョークで字を書くような音。
先生が何かをしゃべる声。
椅子や机が鳴る音。
子どものこそこそした雑談。

教室に溢れる音が全て
まじりあってざわざわ流れてくる。

どの音も同じ大きさで
聞こえていて、
何がなんだかわからない。

実に不愉快だ。


『はいっ!
カナさん!!

この問題の答え、わかるかな?』

この大きな声が流れた瞬間
ざわざわしていた空気が
突然静寂に変わった。

「えっ…あ…
どの問題ですか…?」

『今、言っただろ!?
教科書25ページの上から3問目!
ちゃんと授業を聞きなさい』

「ごめんなさい…黒板の字を
ノートに写すことに集中していて…」


『あのなぁ…
ノートを書くのに集中して
授業を聞いてないんじゃ
意味がないだろ…

話を聞きながらノートをとるんだよ』


ハハハッハハハハ…


笑い声が響き渡る。


【17】

なんだこの嫌な空気は。
そんなことを思っていたら


真っ白な天井に
突然沢山の小さな光が現れた。


背筋がぞおっとしたのが
自分でもわかった。


…これは、子どもの目だ。
たくさんの。


ぎょろぎょろ

ぱちくり

ニヤニヤ

視線の先は全て僕に向いていた。


ハハハハハハハ・・・


ハハハハハハハハハハハハ…


渇いた笑い声が響き渡る世界で
沢山の子どもの目が僕を見ている。


…やめろ。


見るな。

何だその目は。


「見るなーーーーーーー!!」


僕が叫んだ瞬間
その目は一斉に消えた。


また、街の中は
静かな世界になった。


【18】


『ウンうン、これハ悲しかったネ!

では次ノリクエスト言ってみヨウ…』


ココロチャンネルが
またしゃべりだす。


『ざ…

ざザ…

「カナさん、また一人で
休み時間に本を読んでいるの?

クラスの子はみんな
外で遊んでいるよ。

みんなと一緒に遊びなさい。
不安なら先生が一緒に行ってあげる」


「いえ…私は…」


「本を読むのも大切だけど
本は家でも読めるでしょう?

せっかく学校に来ているのだから
お友達と遊んだほうが
楽しいじゃない!」


ざ・・・

ザザ…

「みんなー、カナちゃんを
一緒に入れてあげて」


ざ…
ザザザ…


白い天井にまた目が出てきた。


ぎょろぎょろ。


ニヤニヤ。


ぱちぱち。

「えーっ!

センセー、今、俺たち
長縄跳びの記録に
挑戦してんだよね。

カナいつも引っかかるから
カナが入ると記録のびねーの。
ちょっと違うとこ当たってくれる?」


じろじろじろ…

視線はいつまでもこちらを見ている。


【19】


「…カナさん、じゃああっちの
鬼ごっこしてる子たちの方に
行ってみようか」


ザザ…
ざざ…ザ…


「みんなー、カナさんも
一緒に遊びたいんだって」


また天井の目が増えた。


じろじろ。


ぱちぱち。


じーーーーっ。


「せんせぇ、カナちゃん、いっつも
ルール説明しても
なかなかわかってくれないんです~。

多分、一緒に鬼ごっこしても
面白くないと思いますけど」


「いっつも本読んでるし
そのほうが楽しいんじゃないですかぁ?」


目がどんどん増える。

全部が僕を見ているように思える。

それが全て冷めた視線に感じる。

…やめろ。


…見るな。

見るなって言ってるだろ!?


「見るなぁあああああーーー!!」


また僕は叫んだ。

世界がまた静寂に包まれた。

【20】


”ラジオネーム、カナちゃん”


放送の中で出てくる
”カナちゃん”の声は、多分

…カナの声…。


まさか…この
ココロチャンネルって…
カナの記憶なのか…?


どうして僕は
こんなところに来た?


『ざ・ ザザざ…

本当に悲しイよネ…
悲しイことばかりだネ…

次の…がが…
放送だヨ』


ココロチャンネルが
また放送を始めた。


もうやめてくれ。


…やめてくれよ。


【21】


『…ざ…

ざざ…

「おい、カナ。起きろ。
今日から学校だろ。
夏休みはもう終わったんだ。
布団から出なさい」


…この…声は…

僕の…声?


これは…夏休み明けのあの日
僕がカナにかけた言葉だ。


天井に大きな目が一つ
ぎょろっと出てきた。


鏡を通してみたことがある…。


…そうだ、あれは。

僕の目だ…。


僕は絶望的な気持ちになった。


見下すような
蔑むような
ねっとりとした視線。

僕はあんな目で
カナを見ていたのか…?


「どうせ休みすぎて嫌になったんだろ?
父さんたちが子どもの頃はなぁ、
そんなこと考えないで
あたりまえに学校行ってたぞ。

社会人になれば余計にそうだ。
めんどくさいから行きたくないとか
そんな理由じゃ休めないんだ。

いいか、カナ、学校っていうのは…」


ざ…

ザザ…


ザザザ…

「・・・学校、行けよ。
子どもは学校に
行かないといけないんだ。


義務教育は、義務だから
義務教育なんだぞ。


まだ習ってないか?

行きたくないから行かないなんて
甘えなんだからな」


ざザ…

ザザザ…


「甘えナんダからな」


ざざ…


「甘えナンダからナ…」


何度も何度も大音量で
歪んだ僕の言葉が世界に響く。


天井から見ている目は
ずっと目をそらすことはなかった。

この目は、相手を思っているような
そんな目ではなかった。


僕は…


僕は…カナに…
なんて言葉を…。


後編に続く


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