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あらためて「ひとりGoToトラベル」を振り返る〜福山➢今治➢鳥取篇

 政府がゴリ押しで進めようとしている「GoToトラベル」が、えらく評判が悪い。東京都の新型コロナの感染者数が200人台となり、いわゆる「第2波」が押し寄せている可能性が濃厚であるにもかかわらず、その開始日を連休前の7月22日に前倒し。結局、キャンペーンから東京都は除外されることとなったが、混乱は開始当日まで続きそうである。

 少なくとも私のタイムラインを見る限り、本件に関してはフットボールファンの評判も総じてよろしくないようだ。とりわけ私のサッカー関連フォロワーは、旅行を兼ねたアウェー観戦が大好きな人たちが多い(つまりOWL magazineの読者層とかなり被っている)。そういう人たちでも、かなりの割合で疑念を呈しているのが「GoToトラベル」なのである。

 とはいえ「旅とフットボール」をテーゼとしているOWL magazineが、本件についてネガティブに叩きまくるというのも違うような気がする。それに私自身、およそ4カ月ぶりとなる地方取材を終えたばかり。最近まで「ひとりGoToトラベル」をやっていた身である。もちろん、取材がメインで観光はまったくしていないが、タイミング次第では批判の矢面に立たされてもおかしくなかった。

 今週と来週は2週にわたり、今回の旅の模様をお届けする。ただし、能天気な旅レポートをするつもりはない。政府による県境をまたいだ移動制限が解除されたとはいえ、Jリーグでは当面の間、アウェー観戦の自粛をサポーターにもとめている。特権的な立場にある取材者だからこそ、今回の旅については謙虚な態度で振り返る必要があるだろう。本稿が「ウィズ・コロナ時代のスタジアム巡りのあり方」について、考えるきっかけになれば幸いである。

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 7月3日、東京駅から新幹線のぞみに乗車して西に向かう。最後に新幹線を利用したのは、取材先の岡山から戻った2月19日なので、実に4カ月半ぶり。乗客もまばらでスカスカの状態であった。極端に行動範囲が限定されていたので、500キロ以上の移動をするのは、なんとも不思議な気分である。

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 最初の目的地は広島県福山市。新幹線の車窓から福山城が見える。これほど駅チカの城は、全国的にも珍しいだろう。城がある場所は蝙蝠山(こうもりやま)と呼ばれ、蝠の字は福に通じることから、福山という地名になったのだそうだ。ちなみに福山市の市章も、まるでバットマンのエンブレムのようだ。

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 当地はバラの花でも有名。福山市が全国に呼びかけて、1992年から始まったばらサミット(ばら制定都市会議)も3回開催している。もっとも、その歴史は意外と新しく、1956年に「戦災で荒廃した街に潤いを与えよう」と1000本のバラを植えたのがきっかけ。市の花がバラに制定されたのは、1985年のことである。

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 そんな福山を訪れた一番の目的は、この地からJリーグを目指す、福山シティFCを取材するためである。福山シティは現在、広島県1部リーグ所属。まだまだJへの道は遠いが、コロナ禍による経営難から500万円のクラウドファンディングを呼びかけたところ、3日間で達成してドメサカファンを驚かせた。写真は、副代表の樋口敦さん。

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 県1部なのに、グッズも充実。かつてのユベントスを想起させるエンブレムには、しっかりバラと蝙蝠が描かれている。マスコットを作るんだったら、絶対に蝙蝠がモチーフだろう。実際に取材した実感は、福山シティは「いわきFCとFC今治の良い部分を取り入れている」というもの。その理由については、いずれ記事にまとめることにしたい。

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 翌日、福山駅から高速バスに乗って、今治を目指す。いつもは絶景のしまなみ海道も、あいにくの天気でこのとおり。福山・今治間は、これまで何度も通い慣れた道であったが、今回は非常に感慨深いものがある。四国リーグ時代から5年間、ウォッチし続けていたFC今治が、いよいよJリーグの舞台で見られるからだ。

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 JR今治駅前で下車すると、たまたまイオンモール行きのバスが到着していたので、待ち時間なしで乗車。いつもだったら、さらにシャトルバスで夢スタに向かうのだが、この日はリモートマッチ(無観客試合)なので運行はなし。重たいキャリーバッグを引っ張り上げながら、急な階段を一段ずつ登っていく。

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 本来であればホーム初のJリーグ開催ということで、さまざまなイベントやスタグルを楽しむ地元ファンで溢れていたはずのフットボールパーク。リモートマッチゆえに周辺は静まり返り、メディア受付も想像以上に緊張感がみなぎっていて、祝賀ムードとはほど遠い雰囲気である。

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 当初の予定では、夢スタでのJ3開幕は3月7日、対戦相手はFC東京U-23の予定であった。ところが新型コロナの感染拡大により、開幕戦のスケジュールは大幅に後ろ倒しになり、FC東京U-23も今季の活動を断念している。ホームのゴール裏には、この日を待ち望んだファンやサポーターのメッセージが書き込まれた、今治のビッグフラッグが掲げられた。

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 試合は0−1で敗戦。対戦相手のロアッソ熊本は、県南部が深刻な豪雨被害に見舞われており、モチベーションでは負けていなかった。対する今治は、J3という舞台に慣れるには、もう少し時間がかかりそうだ。そんな中、Jリーグの感染対策プロトコルを見事にやりきった、今治のスタッフには心からの拍手を贈りたい。

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 その日の夜は、地域リーグ時代から交流のある今治サポの方と会食。サポがよく集る寿司屋で、地元の海の幸を心ゆくまでいただく。もっとも当方は、連日3桁の感染者を出している、東京を出自とする身。今回の会食も、事前に先方の意思を確認した上で実現している。取材先で気軽に「飲みに行こう!」と言えないのは、やはり辛い。

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 翌日は列車で移動する。今治から乗車した特急列車は、途中駅でしおかぜといしづちに分離。前者は岡山へ、後者は高松へ向かう。自分が乗っている車両がどちらなのか、一瞬どぎまぎするのも、地方の鉄道旅ならではの醍醐味だ。無事に岡山に到着後、今度は特急スーパーいなばに乗り換えて、次の目的地である鳥取を目指す。

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