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こんなひといたよ 第10話「大人びた幼児とスナックの客」

私の読んだマンガで出会った人たちの物語を紹介するシリーズ「こんなひといたよ」。

今回は、今回は東村アキコの「テンパリスト☆ベイビーズ」から、まりこちゃんというスナックで働く幼児の話。同作品は、著者の息子が通う保育園の子どもたちをモデルとした園児たちを主役としたギャグ漫画だ。

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まだまだ飲み始めるには少し早い午後5時過ぎ、スナック「まりこの部屋」はもう営業中だ。カランコロンという音と共に、ドアが開くと上司と部下と思われるサラリーマン2人が店に入ってきた。

このスナックが他と違うのはホステスが1歳6か月のまりこちゃんということだ。カウンターの前で子ども用のイスに腰かけていたまりこちゃんは2人を「あばぐあうう(あら、いらっしゃいという意味)」と迎えた。その顔は幼児のそれではなく、いっぱしのホステスのようだ。子どもって時にこんな風に大人びた表情をするものだ。

若い男の方は常連のようで「おーっまりこちゃん、今日もお店に出てるんだね~」と女の子に声をかけた。すると奥から、まりこちゃんのママと思われるこのスナックのママが出てきた(ややこしい)。ママは「あら~鈴木さん、会社の方、連れてきてくれたの~?うれしい」、黒髪の縦巻きパーマの髪に淡いピンクのドレスが色っぽい。

上司の男はママに見とれて「す…すごいキレイな女(ひと)だな、鈴木(若い男の名前)、俺こんなキレイな女(ひと)生まれて初めて見たよ…」と言って固まっている。鈴木は、上司をボックス席に座らせながら「ここのママ、高円寺の聖母マリアって呼ばれてんすよ~。ダンナいなくてシングルマザーで名前もマリアだから!」とママを紹介した。

それから鈴木はまりこちゃんを指し「で、このコがこのお店のナンバーワンホステス…まりこちゃん1歳6か月!!」彼女は足を組んで髪をかき上げている。その顔はツンとして「あんたたち安月給のくせにボックス席なんててチャージ料金大丈夫?」と言っているようだ。

ママはまりこちゃんにメニューを渡した。まりこちゃんは、よちよち歩きでボックス席の2人のところへ行き「あいっ」とメニューを渡した。その姿があまりにも愛らしく、2人はメロメロ「すごいね~まりこちゃん、よーしなんでも頼んじゃうぞ~」と上司の男が言う。

まりこちゃんは、そのままちょこんとソファに座り、人差し指を上げてメニュー表を指した。そこには「まりこのミルク ¥6,000」と書いてある。上司の男は「まりこのミルク?」と不思議そうにそれを見た、鈴木は「ママ~まりこちゃんにいつもの~!もちろんボトルで」と声をかけた。

ママはすぐに「ドン!」と大きな缶を持ってきた。缶には「すくすく 発育に大切なすべての栄養が入ってます」と書いてある。そう粉ミルクの缶だ。上司の男は「な…何コレ…?ボトルって粉ミルク…?えっコレ6千円!?」と驚きを隠せない。ママはすかさず「ウフフ、常連さん達がまりこにも何か飲ませてあげたいって言うもんだからいつの間にかメニューになっちゃたの~。ごめんなさいねーでもこれいっぱい入っているから長いこともつのよ~」と言いながら粉ミルクを哺乳瓶に入れ、ミルクを作り始めた。

上司の男は「まぁ長もちするなら別に…」と精一杯強がって言った。鈴木は「そっすよ先輩宵越しの金はナントカって言うじゃないスか~アハハ」と他人事のように笑った。そうこうしているうちにミルクができママはまりこちゃんに哺乳瓶を渡した。「さ、まりこいただきますは?」まりこちゃんは「だぁさまー(いただきますの意味)」と言って、ゴキュゴキュゴキュとものすごい勢いでミルクを飲み始めた。鈴木は「出た~まりこちゃんの一気飲み!!初日からこれ見れるなんてラッキーっすよ係長!!」と興奮気味。上司の男は「ぜってー長もちしねーッ!!!」と心の中で叫んだ。

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東村アキコと言えば育児エッセイ「ママはテンパリスト」で大ブレイクしたわけですが。この作品も同じく彼女の息子ごっちゃんを主人公としたマンガだ。あとがき的なところを引用すると「保育園にはいろんな子がいます。元気な子、泣き虫の子、おませな女の子、暴れん坊の男の子。自分の子も含めてそーゆー子たちをデフォルメしまくって描きました」とある。

私も保育園に通っている子どもがいるのでよくわかるが、本当に子どもたちって、まだ「素材むき出し」って感じで、その子の個性が出ているように感じる。変にまだ周りに合わせたり、余計なことを考えていないからだろうが。その特徴を抽象化し際立たせていくとこのマンガに出てくるような子どもたちが生まれるんだろうなと思った。

このまりこちゃん、いますよね…なんか変に大人びた感じの子。ここまでホステスではないにしろ…。マンガのキャラって、こうやって実際の人物を元に、部分的に誇張してこうやって作っていくのかなーと思った。


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