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唐 十郎『ジョン・シルバー』(天声出版、1969年)を読みました。

無名だった唐十郎が世に知られるようになった初期の代表作「ジョン・シルバー」は「ジョン・シルバー 続」、「愛の乞食」、「あれからのジョン・シルバー」の戯曲4作と小説バージョンである「絵巻巷談ジョン・シルバー」というシリーズ物となっています。「宝島」のジョン・シルバーが転生して戦後の東京で銭湯の番台をしているという設定。戦争で傷痍軍人となった何者でもない意識過剰な男が何者かになるため再び旅に出るという荒唐無稽な物語でありながら、旅に出たシルバーを追う恋女房小春の姿に情緒が溢れます。小春が追い求めるシルバーはついに登場しないのですが(ここが唐十郎がゴトーの影響を受けていると指摘されるポイント)それも含めて誰の中にもあるロマンを描いています。こうしたことは最近になって、毎週参加している唐十郎戯曲ワークショップで教えて頂いたことですが(自分一人では読み解けなかったでしょう…)筋がわかってくると唐十郎戯曲は非常に面白く奥が深いです。


本書より…

おじさん
ぼくの血を待つ間もなく死んでいった一鉄道員の---
あの朝は雨でしたね
2リットルの血をにぎりながら病院の階段をかけ上がっていった時
ぼくは、あなたがもうあのベッドにいないのを知っていたんだぜ
ベンチャーズの好きだったおじさん
あの夜更け
病院を抜け出して、遠い町のどさ廻りの一座にあなたは加わっていた、という

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