見出し画像

街に居場所と出番を にぎわう丸亀市へ

丸亀市は、香川県の海岸線側の中央部に位置し、約11万人が暮らす。古くから海上交通の要衝として、物資の集散や金刀比羅宮(こんぴらさん)の参道口として大いににぎわった。扇の勾配と呼ばれる美しい石垣を誇る丸亀城が市のシンボル。

その丸亀で官民連携のまちづくりをけん引しているのが、まちづくり会社HYAKUSYO代表の湯川致光さんだ。香川県職員時代から個人活動で丸亀に関与。通町商店街の活性化プロジェクトや今ある資産を活用して地域の課題解決を目指す「リノベーションまちづくり」を仕掛けた。2019年の起業後、昨年8月には四国で初となる都市再生推進法人(地域のまちづくりを担う法人)の指定を丸亀市から受けた。まちの機能を「いろいろな属性のひとが偶然に出会うこと」とし、「見えづらい人たちの思いをどれだけ包摂できるか」街に居場所と出番をつくるために奔走している。

行政の立場から官民連携のまちづくりに取り組む真鍋裕章さん(丸亀市役所都市整備部都市計画課 副課長)を交え、にぎわいのある街をつくるための構想を聞いた。

画像1

▽熱意

寺西 湯川さんにとっていい街とは。

湯川 丸亀市の事業「丸亀市リノベーションまちづくり」のコンセプト「やりたいができる、出番と居場所があるまち」に凝縮される。街に市民の関わりしろがあり、一人ひとりが主体的に関われるのがいい街。

寺西 そのコンセプトはどのように作ったのか。

真鍋 市が最初に取り組んだのは2016年のリノベーションスクール。24人の受講生が3日間で、3つの空き物件の活用プランを作成した。プランとは異なるが実際に活用につながった物件もある。スクールの次の展開として、17年から市内外の人が集まるリノベーションまちづくりの構想検討会議を全5回実施し、コンセプトを練り上げた。その実行委員会の委員長が湯川さんだった。

寺西 リノベーションスクールに取り組んだきっかけは。

真鍋 市側でいうと、立石という一人の若手職員の熱意。北九州で開催されたリノベーションスクールに彼が個人で参加したことがきっかけとなった。

湯川 当時県庁職員だった私も立石さんと一緒に会に参加した。中心市街地の課題解決にスキームが有効だと考えたからだ。

リノベまちづくり

▽街の表情

寺西 なるほど。きっかけは立石さん、湯川さんの熱意。市内のどのエリアを対象にしたか。

真鍋 丸亀駅周辺の中心市街地。その中でもエリアマネジメント(民間主体のまちづくり)では、駅より北のエリアがおもしろいと考えた。

湯川 丸亀の観光の核となる丸亀城、アート施設のMIMOCA、商店街はすベて駅の南側にある。どうしても南側に目が行くなか、北側の港エリアに注目した。江戸時代の「こんぴら参り」では丸亀港から琴平に至る道(丸亀街道)が主要な金毘羅街道の一つであり、丸亀港には全国各地から多くの参詣客が訪れた。港町であり宿場町で、今でも旅館など名残がある。戦後、港近くの果物店が四国で初めてバナナを輸入したなど興隆を示す逸話もある。

寺西 色々な人が行き交う港は、多様性を自然に受け入れてきた場所かもしれない。北側エリアをどうしていきたいか。

湯川 多様性はキーワード。居酒屋や著名人が通うバーなど夜に楽しめる場所が既にある。こんびら参りでにぎわった頃のように、宿泊施設が拠点となり多様な人に訪れてほしい。夜の海のにおいや音に触れ、地元の食材を味わいながら、丸亀の様々な表情を感じてもらえたら。

位置図

▽中心ではなく周辺

寺西 丸亀城に隣接する大手町地区には、3月22日に市役所新庁舎と市民交流活動センター「マルタス」が開庁する。

真鍋 居心地のいい空間にしたい。市民にとって丸亀城はシンボルで家族や友人と過ごす居心地のいい場所。その空間を城外にも広げたい。現庁舎跡地を開放的な緑化駐車場にして市民広場とつなげシビックパークゾーンとする。城の大手門を出てすぐのこのエリアで人が憩い、にぎわいが生まれてほしい。道路をはさんだ反対側をシビックサービスゾーンとして市役所など公共施設を集約した。

寺西 丸亀城から北に進む導線が機能すれば、その先にある通町商店街にも人の流れが生まれるかも。

湯川 街の良さは、中心ではなく周辺にあらわれる。路地裏に個性的な店が増えれば、大通りも自然と盛り上がる。その観点からも丸亀港エリアでエリアマネジメント(民間の主体的な取り組み)をしている。エリアのプロモーションやリブランディングは行政が苦手な分野で、弊社のような都市再生推進法人や民間企業が主体となることが重要。行政の計画的な部分と民間の偶発的な部分をかけ合わすことで新たな価値が生まれる。

画像4

▽官民連携

寺西 官民連携がうまく機能するには。

真鍋 まずは共感できるか。ただ、行政は民間と直接つながることが苦手なので、つなぎ役(中間支援)を都市再生推進法人に期待している。加えて、まちづくりに民間がこれだけ関われることを実証するモデルケースにもなってほしい。また、先進事例を見ると、官民連携がどこまで進むかは、自治体職員次第の面があると感じている。民間の動きに行政が寄り添い伴走する、そういう関係づくりができれば。

寺西 伴走するために行政側には何が必要か。

真鍋 信頼関係を築こうとすること。

寺西 民間側のパブリックマインド(公共心)も重要だ。

湯川 まさに。街を良くしたいという熱意と街がよくなれば自分たちもよくなるという意識を共有して、全体最適を目指す活動と仕組みづくりが必要。丸亀の事業者が集い、まちづくりを考える「丸亀会議」を2年前に始めた。市民は丸亀に愛着があり、街を面白くしたい気持ちが強い。全体最適を目指す素地があることは強み。そこに、丸亀出身ではないが丸亀に愛着がある僕のような人間が混ざり、変化を起こしていければいい。市職員もどんどん街に連れ出して、真鍋さんが言う官民連携の限界値を高めていきたい。

画像5

▽新しい公共

寺西 丸亀をどんな街にしていきたいか。

湯川 街に自分の居場所と出番があり、やりたいことを実現する人が増えるといい街になっていく。立ち飲みイベント「空き家Bar」に50代の女性が訪れた。子どもが巣立ち、暮らしに物足りなさを感じてイベントに足を運んだという。いろいろな属性のひとが偶然に出会うのがまちの役割。また、本島や広島など有人島を外して考えてはならない。2018年にオープンした本島にあるカフェ「Honjima Stand」などが担っている役割は大きい。見えづらい人たちの思いをどれだけ包摂できるか。いま流行りの稼ぐ力よりも、居場所と出番だ。

真鍋 みんなが楽しそうにしている街にしたい。楽しさの基準は人それぞれ違うので、多様な楽しみ方を実現できる場所をどれだけつくれるか。その結果、にぎわいのある、みんながいいと思える街になれば。

寺西 今後目指していることは。

湯川 弊社は「新しい公共をつくる」を掲げている。公共は、行政が担うものから民間企業と一緒にやるものに変化した。ただ、現在の官民連携では、民間企業のビジネスの場として公共が位置づけられている。これからの公共は、市民の思いをどう反映できるか。それには公共と市民をつなぐ存在が必要になる。行政、民間、市民が織りなす新しい公共を丸亀や各地でつくりたい。それから、地域活性化には「よそ者、ばか者、若者」が必要とよく言われる。「よそ者」は客観的視点、「ばか者」は突破力、これらは重要。固定観念にとらわれない「若者」を、僕は「切れ者」と変えて主張している。地域の活性やまちづくりには戦略を立てる参謀役が必要。自分がその役割を担えたら。