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米国スリーマイル島の原発事故とは?

久しぶりにスリーマイル島原子力発電所のニュースを見て、1979年の事故のことを思い出しました。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

AIの開発競争は、NVIDIAのGPUの争奪戦だけでなく、データセンターを稼働させるための電力の争奪戦にも発展しています。
そこで、マイクロソフトが稼働停止中の原子力発電所に目をつけ、これを稼働させてデータセンターの電力を賄う、という報道がありました。

スリーマイル島と言えば、私が子どものころにニュースで連日大騒ぎになっていたことを覚えています。
なにせ45年も前のことなので、私より若い人たちは知らないのではないか、と思い、調べてみることにしました。



⚡スリーマイル島の原発で何が起こったのか?

スリーマイル島原子力発電所とは、ペンシルベニア州を流れるサスケハナ川の中洲に建てられた原発です。
1979年3月、2つある原子炉のうち2号炉がメルトダウンするという深刻な事故が発生しました。

事故の内容については、日本電子力研究開発機構のウェブサイトにまとめられています。

スリーマイルアイランド事故

アメリカのペンシルバニア州スリーマイルアイランド原子力発電所の2号炉(Three Mile Island−2:PWR、959MWt)で、1979年3月28日に発生した事故。炉心の一部が溶融し、周辺に放射性物質が放出され、住民の一部が避難するという、これまでにない事故になった。

定格出力で運転中、主給水ポンプが停止し、自動的に補助給水ポンプが起動したが、補助ポンプの弁が閉じていたため給水できず、炉内圧力が上昇した。自動的に加圧器圧力逃し弁が開いて、原子炉は緊急停止した。圧力が下がっても故障で弁が閉じなかったので非常用炉心冷却装置(ECCS)が働いた。しかし、運転員が加圧器圧力逃し弁の”開”のままの状態に気付かず、ECCSを停止してしまったため、炉心上部が露出し、炉心が溶融する事故となった。

放射性希ガスと少量の放射性ヨウ素が環境へ放出されたが、放射線障害の発生はないとされた。

日本電子力研究開発機構ウェブサイトより
https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_1621.html
太字は筆者による

できるだけ分かりやすく説明されていますが、それでも難しいですね。
なお、放出された放射線量は正確な計測はされておらず、その後の追跡調査の結果、大規模な健康被害が見られるという報告もあるようです。

同じページに図解もあります。
スマホでは読めないと思いますが、興味がある方は拡大してご覧ください。


⚡スリーマイル島原発は何が問題だったのか?

スリーマイル島原発事故は、設備の故障、不十分なオペレーターの訓練、設計の不備、そして運転および緊急時対応手順の不備の組み合わせで発生したと言われています。
以下に、ポイントだけ挙げていきます。(かなり簡略化して書いています)

🔸事故前夜

  • 同じ型式の原発において類似の問題はすでに11件発生していたが、原発を設計したバブコック&ウィルコックス社はスリーマイル島原発の運営会社にもほかの顧客にも知らせていなかった

  • 米国原子力規制委員会(NRC)の地方検査官がこの設計上の問題に憂慮し、バブコック&ウィルコックス社や上司に告げたが取り合われず、NRCの本部に持ち込んだが、「問題ない」との回答が来た(本部に持ち込んだのはスリーマイル島の事故の6日前)

  • 事故の2日前、スリーマイル島原発でのメンテナンス時に、非常時に使用される補助ポンプのバルブが閉じられ、そのままになっていた

  • 事故の11時間前、冷却水系の8つあるフィルターの1つを交換する際に手間取り、少量の水がバルブを制御する部分に侵入した。これが事故の直接の原因となる

🔸事故発生

  • 1979年3月28日午前4時に大きな音とともにアラームが鳴り響く。管制室では原因が分からないまま、さまざまな操作を試みる。このときの誤った操作が問題を大きくしたことが後に判明する。管制室の従業員は、このような事態を想定した訓練は受けておらず、パニックになっていた

  • 管制室では、補助ポンプのバルブが閉じられていることを示す警告ランプがついていたが、なぜか見逃されていた(担当者の大きなお腹に隠れて見えなかった、という説も)

  • 運営会社は午前9時に問題が起こったことを発表。「事態はコントロールされており心配ない」との説明を州政府と住民に対して繰り返し、州政府、住民は不信感を募らせることになる

  • 政府にもNRCにも、このような事故が発生したときの準備ができていなかった。事故への対応が混乱しただけでなく、住民への説明、特に避難指示が二転三転した

🔸事故後の展開

  • 汚染除去作業をプラント建設最大手のベクテル社が受注。ベクテル社は作業の進捗を急ぎ、現場の作業員の声を聞かずに強引に進めようとする。一人の作業員がNRCに問題を通報したことにより、作業は中断された。通報した作業員は解雇されたほか、留守を狙って自宅を荒らされるなどの妨害行為を受ける

  • その後、スリーマイル島原が建設中にNRCに報告されたテスト数値の改ざんが発覚するなど、数々の不正が暴かれる

  • 事故の後1号炉は稼働を止められていたが、1985年に住民の反対に関わらず再稼働。しかし採算悪化により2019年に稼働停止

  • 2024年、マイクロソフトと締結した契約により1号炉の再々稼働を目指すことになる


⚡スリーマイル島原発事故について知るために

Netflixは2022年にスリーマイル島原発事故を描いたドキュメンタリーを制作しています。
この記事を書こうと思って見始めたところ、4話合計で3時間近くもあるのを全部見てしまい、記事を書く時間が少なくなってしまいました💦

このドキュメンタリーは、電力業界やNRCに対して批判的な主張がかなり強くなっています。
これの番組に反発して、原子力業界からすかさず「ドキュメンタリーを偽装したドラマだ」との反論が出ています。


🐣おわりに

「チャイナ・シンドローム」というアメリカの映画があります。
原発事故でメルトダウンが進むと、核燃料が原子炉の外に漏れ、理論的にはこれが地面を溶かして地球の裏側の中国まで到達する可能性がある、ということで「チャイナ・シンドローム」という言葉が生まれたそうです。

映画のストーリーは……
原子力発電所で事故が起こったが、不誠実な対応を続ける運営会社。このままでは大惨事になると、従業員がテレビレポーターの協力を受けて告発を決意。運営会社はこれを阻止するために実力行使に出て、告発者とカーチェイスになり……
というものです。

この映画の封切は、なんとスリーマイル島原発事故の12日前でした。
実際の事故ではカーチェイスこそないものの、かなり映画と重なる部分があります。
付近住民だけでなく、この映画を見た全米の人々を恐怖におとしいれることになりました。

世界はその後、1986年にチェルノブイリ原発事故、そして2011年に福島第一原発事故に遭遇することになります。
私は、当面は原子力発電に頼らざるをえないと思っているのですが、これらの事故を振り返ると、人知が及ばないところでのリスクを管理することの難しさを考えてしまいます。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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