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監査効率化を考えるために必要な思考法【監査ガチ勢向け】

監査の効率化は全監査人の願い。ただ、そもそも効率化を議論する土台があやふやなのではないですか?


てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

監査の効率化と言っても、いろいろなレベルがあります。エクセルの表を速く作れるようになることも効率化なら、システム投資をして大胆に自動化するのも効率化。これらを一緒くたにして議論すると、話が散らかってしまいます。

そこで、監査効率化の議論を整理してみましょう。

監査効率化フレームワーク

とっ散らかった問題を整理するために、まずは分類することが鉄則です。
効率化を考える「対象」と、効率化の「手法」という二つの観点で分類します。

効率化を考える「単位」

エクセルの表作成を高速化することは一人でできます。一方、システム投資は法人全体、さらにはグローバルファーム全体でする効率化です。
「みんなエクセルを速く作れるようにしよう!」「いやいや、それより監査業務全体の自動化だ!」と議論してもかみ合いません。

このように、どの単位を対象にしているかを念頭に置く必要があります。
具体的には、次のような単位が考えられます。

❶ 作業
❷ 手続
❸ 勘定科目
❹ 監査業務
❺ 監査制度

効率化の「手法」

フレームワークっぽくするために、4つのリスクの対応策、「回避」「転嫁」「軽減」「受容」になぞらえてみます。
効率化においては、次のような意味になるでしょう。

  • 回避🤚:やらなくて済むようにする

  • 転嫁👉:ほかの人にやってもらう

  • 軽減👇:やる量を減らす

  • 受容💪:がんばる

以下で何度も出てきますので、絵文字も付けました。
このように「単位」と「手法」のかけ算で考えると、頭の中が整理できそうです。

監査効率化フレームワークによる効率化の例

このフレームワークを使って、無数にある効率化の方法がどのように分類されるか、例を示します。
「単位」ごとに、4つの「手法」をあてはめます。

なお、効率化を考えるときには、効率化の目的を定義することも重要です。
ここでは、「より少ない会計士の工数で求められる品質を達成する」と定義します。

❶ 作業

まずは「時間のかかるエクセルの表」の効率化を考えてみます。

  • 回避🤚:その表なしで調書を成立させる

  • 転嫁👉:その表の作成をアシスタントに依頼する

  • 軽減👇:簡素なテンプレートを導入する

  • 受容💪:同じ表をより早く作る

どうでしょうか? 「この表、面倒くせえなあ」と漠然と考えているより、一歩前に踏み出せるように思いませんか?

❷ 手続

ここでは「買掛金の確認」にあてはめて考えましょう。

  • 回避🤚:確認は実施せず、すでに計画しているほかの監査手続によりリスクに対応する

  • 転嫁👉:クライアントの確認結果を利用する(もはや確認でも実証手続でもないですが)

  • 軽減👇:抽出方法を工夫し、確認先を少なくする

  • 受容💪:「作業」を効率化する

「受容」は、「手続」単位での効率化はあきらめて、「作業」単位で効率化する、という意味になります。

❸ 勘定科目

お読みいただく皆さまの根気も時間も尽きてきたころと思いますが、もう少しお付き合いください。

勘定科目としては、「買掛金」を取り上げます。

  • 回避🤚:買掛金に重要な虚偽表示のリスクを識別しない(または、買掛金を重要な勘定科目として識別しない)

  • 転嫁👉:内部監査の結果を利用する(全部は無理ですが)

  • 軽減👇:識別したリスクをより「低い」と評価する

  • 受容💪:「手続」「作業」を効率化する

「転嫁」が難しいですね。ちょっと無理やりです。

❹ 監査業務

次に、監査業務全体について考えましょう。

  • 回避🤚:監査契約を継続しない

  • 転嫁👉:(該当なし?)

  • 軽減👇:レビュー、合意された手続(AUP)などに切り替える

  • 受容💪:「勘定科目」「手続」「作業」を効率化する

いよいよ「転嫁」はギブアップ。別のファームに丸投げする、ということを考えてみましたが、それでは会計士の時間は減らないので断念。
「回避」や「軽減」は監査報酬までゼロになったり削減されますので、意味がないと思われたかもしれません。しかし、「会計士の工数削減」という目的に照らせば、合理的と言えます。

❺ 監査制度

個々の監査法人を超えて、制度まで変えられるとしたらどうでしょうか?
もっと根本的に見直せるので、効率化の目的を「より少ない会計士の数を前提に、財務諸表の信頼性を確保する」とします。

  • 回避🤚:監査なしで信頼できる財務諸表が開示される仕組みを作る(信頼性の問題をなくす)

  • 転嫁👉:監査をなくすかわりに、誤った財務諸表を開示した場合の罰則を著しく強化する(当局に転嫁する)

  • 軽減👇:目的を達成できる範囲で保証水準を下げる

  • 受容💪:監査法人の効率化努力に任せる

ここまでくると空想の世界ですね。

おわりに

「ムリ、ムダ、ムラ」で効率化の対象を探したり、「ECRSの原則」(Eliminate、Combine、Rearrange、Simplify)を使って効率化の方法を考えたり、といったことは製造業を中心に行われてきました。しかし、どうも効率化の全体像を議論できていないように思い、このフレームワークを考えてみました。

「これだけであなたの監査時間は○割減らせます!!」といった内容を期待されていたら申し訳ございません。
ただ、「誰かが画期的な効率化の方法を教えてくれないだろうか」と期待しても、夢のように解決することはないでしょう。監査法人の経営陣から現場のスタッフに至るまで、誰もがそれぞれの持ち場で効率化への不断の努力を続けることが、唯一の解だと思います。

これから皆さまが効率化を検討されるにあたり、ご参考になれば幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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