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結局、AIは監査でどう使えるの?【監査ガチ勢向け】

監査でのAIの利用については、機密保持は大丈夫か、説明責任を果たせるか、など課題がいろいろありますが、そんな話をする前に、まずは何に使えそうなのか、興味ありますよね?


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

日本公認会計士協会テクノロジー委員会は、2024年8月13日にテクノロジー委員会研究文書第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」を公表しました。

監査でのAIの利用可否を検討するためのフレームワークから、AI利用における課題、AIがもっと使われたときの会計士像まで、多岐にわたる意欲的な文書になっていると思います。

ただ、今はまだまだ黎明期ですので、結局何に使えそうなのか、を抜き出してダーッと列挙します。



🧠 監査計画

🔻企業及び企業環境の理解

  • 概要
    産業、規制等の外部要因や、企業の業績を評価するために企業内外で使用される測定指標等を理解する

  • 具体例1
    企業内(各種議事録や経営者とのディスカッション内容)及び企業外(ニュース、SNS、その他業界情報等)の情報をAIが一元的に収集・分析し、結果を監査人へ提示する

  • 具体例2
    被監査会社のプレスリリース等を収集し、その要約を提示する

🔻リスク評価

  • 概要
    不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示リスクを識別・評価する

  • 具体例1
    有価証券報告書等の開示データから会計不正の生じた企業の特徴を学習し、不正リスクのスコアリングを行う

  • 具体例2
    有価証券報告書等で開示されている非財務情報をAIにインプットし、監査上考慮すべきリスクがあれば監査人に提示する。例えば、気候変動のリスクに関する開示から、支出の増加、資産価値の評価への影響の可能性について示す

🔻リスク対応手続の立案

  • 概要
    監査手続の立案

  • 具体例1
    監査基準や各監査事務所のガイダンスを学習した生成AIを用いて、特定の勘定科目について要求される監査手続の提示を行う

  • 具体例2
    被監査会社が属する業界や財務状況を入力することにより、想定される監査手続を列挙する


🧠 内部統制の評価

  • 概要
    承認書類への押印の有無、事後承認の有無確認等、ルールへの準拠性を確認する

  • 具体例1
    業務プロセスのヒアリングに加え、プロセスマイニングや生成AIによって、オペレーションに関する一連のプロセスを可視化し、ヒアリング内容や業務記述書との整合性を検証する。また、一定の閾値をあらかじめ設けることで異常取引の検知を行う

  • 具体例2
    被監査会社の業務記述書や、質問を元に監査人が作成した業務フローの情報からフローチャートを自動生成する


🧠 実証手続

🔻証憑突合

  • 概要
    証憑と関連する帳簿残高を突き合わせ、記録の正確性を確かめる

  • 具体例1
    光学文字認識(Optical Character Recognition:OCR)を利用して契約書を分析しリスクのある項目を識別する

  • 具体例2
    請求書や検収書などを電子化し、OCR技術やAIと組み合わせることで、証憑上の情報を読み取り、会計記録等との一致を自動で検証する
    ※内部統制の評価にも利用できる

🔻立会

  • 概要
    在庫などの現物のカウント

🔻確認

  • 概要
    紙媒体、電子媒体又はその他の媒体により、監査人が確認の相手先である第三者(確認回答者)から文書による回答を直接入手する

  • 具体例
    電子的媒体又は経路による残高確認の回答金額と帳簿金額との自動照合、及び確認先の明細データを利用することで差異調整を自動で実施する

🔻分析的手続

  • 概要
    財務データ相互間又は財務データと非財務データとの間に存在すると推定される関係を分析・検討することにより、財務情報を評価する

  • 具体例
    企業内外のデータを基にデータ間の整合性を検証するとともに、業界の予測を組み合わせることで高度な予測値を算出し、より高度な分析を行う

🔻仕訳テスト

  • 概要
    監査人が検討したリスクシナリオに基づいて抽出条件を設定し、条件に該当した仕訳をテストする

  • 具体例1
    仕訳が有する標準的なデータ項目(計上日・勘定科目・金額・起票日・起票者・承認者など)や仕訳パターン(仕訳の借方・貸方勘定科目の組合せなど)から外れ値を検出することにより異常を検知する

  • 具体例2
    企業内の取引に関する明細データ(仕訳帳、補助元帳等)を投入し、通例とは異なる取引の検知を行う

🔻開示検証

  • 概要
    財務諸表が会計基準に基づき適切に作成されているか、計算チェックや根拠資料との照合等により検証する

  • 具体例1
    有価証券報告書の前期数値のトレースや書類内の整合性チェック(本表と注記等)を自動で実施する

  • 具体例2
    有価証券報告書の特定の注記等について、同業他社の開示情報を収集し、列挙する

  • 具体例3
    非財務情報の開示内容について、各項目間で矛盾する記載となっていないか、財務情報と不整合となる記載となっていないか自動で確認し、不整合と思われる記載について監査人に提示する


🧠 監査意見表明段階

🔻総括的検討

  • 概要
    監査意見を表明するための十分な根拠が得られたかどうかの確認

🧠 監査調書作成・査閲

🔻監査調書作成補助

  • 概要
    監査調書のドラフトを作成する

  • 具体例1
    実施した監査手続とその結果について、端的な情報を入力することで、監査調書の様式に当てはめる形で文章を生成する

  • 具体例2
    関連する監査基準や会計基準を自動的に調書内に挿入する等により監査調書作成の補助を行う

🔻監査調書査閲補助

  • 概要
    監査調書間の矛盾点を抽出する

  • 具体例1
    計画した監査手続と監査結果の内容を読み込み、それぞれ要約を行い、記載内容に矛盾があれば該当箇所の抽出を行う

  • 具体例2
    特定の勘定科目に関する複数の監査調書を読み込み、同様に矛盾点の抽出を行う


🧠 その他

  • 具体例1
    一定のルールに基づき監査対象データを収集・加工・突合し、定型的な判断を繰り返している局面において、AIの利用により監査人の作業を半自動化し、工数を削減する

  • 具体例2
    経営者とのディスカッションや監査チーム内の討議等において、音声データを元に議事録のドラフトを自動生成する

  • 具体例3
    メールの文章から不正の発生が疑われるようなものがないかを検知する

  • 具体例4
    電子監査調書に関するログデータ等を分析し、監査業務の遅延を検知する

  • 具体例5
    プロジェクトごとの関与時間との組合せによって、より最適化した人員配置を提示する
    ※具体例4、5については、品質管理業務としての利用を想定


🐣 おわりに

研究資料は40ページに及び、冒頭に記載したようにかなりの力作になっています。
そこから具体的な例のみを抜き出して羅列したリストになりましたが、「何に使えそうなのか、とにかく知りたい!」というニーズに応えられていれば幸いです。

おそらく、このリストを眺めてみて、驚きはなかったと思います。
想像の範囲を超えていないですが、それでも挙げるとこれだけあるんですね。

なお、米国PCAOBも、7月22日にAIの利用に関して調査した結果を文書にまとめています。("SPOTLIGHT - Staff Update on Outreach Activities Related to the Integration of Generative Artificial Intelligence in Audits and Financial Reporting")
こちらは6ページの短い文書で、具体的な利用例もほとんどありません。今後も監査人や企業へのヒアリングを続ける意向とのことです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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