99%の人が知らない、マッサージの意外な効果
理学療法✖️心理学で記事を書いている寺島です。
前回の記事では、腸&セロトニンの話をしました。
セロトニンを増やす方法の一つにマッサージがあるよ、ということはご存知だったでしょうか?
今回は、
マッサージの効果について検討した論文を元に、その効果について幅広くご紹介していきます。
対象となる疾患が多いので、興味がある部分だけ読んでもらっても大丈夫です!
マッサージによる3つの効果
マッサージを受けることによる生化学的な効果は主に3つあります。
✅コルチゾールの減少
免疫細胞やナチュラルキラー細胞を殺すコルチゾールを減らす
交感神経系が関与するストレス反応である、視床下部-下垂体-副腎-皮質軸(HPA軸)の最終産物
✅セロトニンの増加
多くの抗うつ薬や鎮痛薬に含まれる
ドーパミンの産生を高め、コルチゾールの産生を妨げる
✅ドーパミンの増加
うつ病やストレスの軽減に大きく関与する
これら3つの効果によって、どのような疾患が治療対象となるのでしょうか。
ここからは様々な疾患ごとに、マッサージの効果を検証していきます。
分かりやすくするため、
原著論文に記載されている対称群(マッサージ以外の介入を受けた人たち)に対する記載は省いてお伝えしていきます。
では、
最初に7つのうつ病関連疾患に対するマッサージの効果から見ていきましょう。
うつ病関連疾患に対するマッサージ効果
①妊娠うつ病
研究にもよりますが、妊婦のうつ病罹患率は20〜40%と言われています。
【介入方法】
・84人のうつ病妊婦妊娠が対象
・第2期から妊娠16週間の間、毎週2回、親密な人による20分のマッサージを受けた
【結果】
・コルチゾールの低下(↓23%)
・ドーパミンの増加(↑25%)
・セロトニンの増加(↑23%)
これらの結果は、未熟児および低出生体重児の発生率の低下に寄与すると考えられる。
②産後うつ病
産後3ヵ月間の母親のうつ病の割合は25~30%とされています。
産後うつの母親は、乳児に対する愛着行動が少ないと言われています。
当然、子供の発達にも悪影響が出ると考えられますね。
【介入方法】
・32人のうつ病の母親が対象
・5週間にわたって30分のマッサージ療法を10回受けた
【結果】
・不安行動の減少
・コルチゾールの低下(↓28%)
③うつ病の母親の乳児
うつ病の母親から産まれた乳幼児は、母親同様の生化学的プロフィールを持つとされます(コルチゾールの増加、セロトニンとドーパミンの低下)。
また、その他の生理学的・行動学的症状が現れるとも言われています。
【介入方法】
・思春期のうつ病の母親から生まれた満期1~3ヵ月の乳児40人が対象
・週に2日、6週間にわたって15分間のマッサージを行った
【結果】
・活動的に覚醒している時間の増加
・泣く回数の減少
・コルチゾールの低下(↓53%)
・セロトニンの増加(↑34%)
④うつ病の子供、青年
うつ病で入院している子どもや青年は、
コルチゾールやノルエピネフリンなどのストレスホルモンが上昇していると言われています。
【介入方法】
・入院中のうつ病の子供や青年52人が対象
・5日間、毎日30分の背中マッサージを受けた
【結果】
・抑うつ状態や不安感が軽減
・看護師は子どもたちの協調性が高まったと評価
・夜間の睡眠時間が増加
・コルチゾールの減少(↓34%)
⑤小児のPTSD
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は多様な自然災害の後、小児で頻繁に認められます。
子どもたちがよく訴える症状には、抑うつ感情、反応の麻痺、問題行動があります。
【介入方法】
・ハリケーンの後、学校で問題行動を示した60人の小学生が対象
・ハリケーン1ヵ月後の8日間、マッサージ療法を受けた
【結果】
・より幸せで不安が少なかったと報告
・介入を受けなかった子供たちはPTSD症状が持続
・コルチゾールの低下(↓30%)
⑥性的虐待
【介入方法】
・性的虐待を経験した女性が対象
・30分のマッサージを週2回、1ヵ月間受けた
【結果】
・マッサージの直後、抑うつ状態や不安感が軽減した
・リラクゼーション療法対照群は、触られることに対してますます否定的な態度をとるようになった
・コルチゾールの低下(↓31%)
⑦-1. 拒食症
拒食症の女性は、
一般的に抑うつと不安の症状を示し、コルチゾールレベルが高いと言われています。
【介入方法】
・神経性食欲不振症と診断された19人の女性が対象
・週2回のマッサージを5週間にわたって受けた
【結果】
・ストレスと不安のレベルが減少
・摂食障害目録における身体への不満が減少
・コルチゾールの低下(↓10%)
・ドーパミンの増加(↑42%)
⑦-2. 過食症
過食症患者の20〜30%がうつ病の診断基準を満たしたという報告があります。
【介入方法】
・思春期過食症で入院中の女性24人が対象
【結果】
・不安と抑うつがすぐに軽減
・コルチゾールの低下(↓32%)
・ドーパミンの増加(↑30%)
ここからは、
疼痛症候群について3つの研究報告を見ていきます。
疼痛関連疾患に対するマッサージ効果
❶熱傷
熱傷患者は一般的に抑うつや不安を経験し、それが痛みの知覚に影響を及ぼすとされています。
【介入方法】
・28人の成人熱傷患者をデブリードマン前にマッサージ介入を受けた
【結果】
・不安状態の軽減
・抑うつと怒りの減少
・VASでの疼痛改善
・コルチゾールの低下(↓20%)
❷若年性関節リウマチ
1つ以上の関節に6週間以上持続する関節炎に基づいて診断される。
抗炎症薬の効果は限られており、小児に対して麻薬性鎮痛薬を使用することは望ましくないため、代替療法が検討されてきた。
【介入方法】
・軽度から中等度の若年性関節リウマチの小児が対象
・両親によるマッサージを1日15分、30日間受けた
【結果】
・不安の減少
・疼痛(発生率と重症度の両方)の減少
・コルチゾールの低下(↓31%)
❸片頭痛
ストレスは、頭痛を起こしやすい患者の脳の血管を拡張させ、片頭痛を誘発する可能性があると言われています。
【介入方法】
・片頭痛を有する成人26人が対象
・週2回30分のマッサージを5週間にわたって受けた
【結果】
・苦痛症状、疼痛、睡眠障害の減少
・頭痛のない日が増加
・セロトニンの増加(13%以上)
続いて4つの免疫関連疾患に対するマッサージの効果を見ていきます。
免疫関連疾患に対するマッサージ効果
①喘息
喘息の子どもは、その親と同様に不安レベルが高いことが指摘されています。
【介入方法】
・32人の喘息児が対象
・就寝前の20分間、両親によるマッサージを30日間毎日受けた
【結果】
・マッサージ後すぐに不安の減少
・肺機能(ピークフロー)の改善
・コルチゾールの低下(↓37%)
②慢性疲労症候群
慢性的で衰弱するような疲労が、半年間にわたって持続する疾患。
慢性疲労症候群のうち58%の人がうつ病を経験していると言われています。
【介入方法】
・慢性疲労を持つ20人(80%が女性)が対象
【結果】
・抑うつ症状、不安、疲労症状、疼痛の減少
・コルチゾールの低下(↓41%)
・ドーパミンの増加(↑2l%)
③HIV
【介入方法】
・29人の男性(HIV+20人、HIV-9人)が対象
・1ヵ月間毎日マッサージを受けた
【結果】
・ナチュラルキラー細胞数の増加
・不安の減少とリラックス感情の増加
・コルチゾールの低下(↓45%)
④乳がん
米国では女性の約9人に1人が乳がんと診断され、15歳から54歳までの女性のがん死亡原因の第1位となっている。
乳がんはうつ病や不安症などの精神的苦痛と関連し、それはナチュラルキラー細胞やナチュラルキラー細胞活性の低下と相関している。
【介入方法】
・ステージ1or2の乳がんと診断された女性34人が対象
・術後に30分のマッサージを週3回、5週間にわたって受けた
・マッサージは、頭、腕、足、背中を撫でたり、揉んだり、伸ばしたりした
【結果】
・不安、抑うつ気分、怒りの減少に即効性があった
・ナチュラルキラー細胞数とリンパ球が増加
・ドーパミンの増加(↑26%)
・セロトニンの増加(↑38%)
もうお腹いっぱいの人も多いと思いますが(笑)
最後に、5つのストレス条件下におけるマッサージ効果を見ていきましょう。
ストレス関連症状に対するマッサージ効果
❶仕事のストレス
医療従事者はストレスレベルが高くなりやすいことがよく知られています。
【介入方法】
・公立病院における15分間のチェアマッサージの即効性を検討
【結果】
・仕事のストレス、不安、抑うつが減少
・脳波パターンが覚醒度を改善(計算スピード上昇、エラー減少)
・コルチゾールの低下(↓24%)
❷活動のストレス
ダンスは極端な可動域で行われることが多いため、身体にストレスがかかることがあります。
【介入方法】
・30人の女子大学生ダンサーが対象
・30分のマッサージを週2回、5週間にわたって受けた
【結果】
・首、肩、背中の痛みが減少
・頸部伸展と肩関節外転を含む可動域が増加
・抑うつ気分、不安レベルの減少
・コルチゾールの低下(↓35%)
❸高血圧
高血圧は、不安、ストレス、ストレスホルモンの上昇と関連しています。
【介入方法】
・高血圧と診断された成人が対象
・30分のマッサージを10回、 5週間にわたって受けた
【結果】
・座位での拡張期血圧はマッサージ療法の初回と最終回の後に低下
・リクライニングでの拡張期血圧は研究の初日から最終日まで低下
・不安、抑うつの減少
・コルチゾールの低下(↓23%)
❹妊娠中のストレス
コルチゾールが上昇した妊婦(うつ病や不安神経症と関係がある)は、
うつ病様症状を持つ新生児を出産することが示唆されています。
その一方で、
胎児や新生児への影響を考え、抗うつ薬や抗不安薬の処方はされないことが多いと言われています。
【介入方法】
・26人の妊婦が対象
・20分のマッサージを週2回、5週間にわたって受けた
【結果】
・不安、腰痛の軽減
・気分、睡眠の改善
・陣痛中の合併症が少なく、乳児は未熟児の発生率が低かった
・ドーパミンが増加(↑25%以上)
❺加齢ストレス
高齢者は孤独感、抑うつ、免疫機能の低下を感じやすいと言われています。
【介入方法】
・児童養護施設でボランティア活動をしている、定年退職した高齢者が対象
・乳幼児にマッサージをする効果と、自らマッサージを受ける効果を、週3回3週間にわたって調査した
【結果】
・不安、抑うつの減少
・生活習慣、健康状態の改善
・コルチゾールの低下(↓4.28%)
マッサージをする人も、マッサージを受ける人と同様の効果を経験する可能性があることを示唆。
まとめ
以上の研究の限界として、
ストレスの変化が生化学的変化につながったのか、あるいはその逆なのかは明らかではありません。
しかしいずれにせよ、
マッサージ療法が適応になる疾患は多岐にわたっている、ということが理解できます。
「マッサージ屋さん」と揶揄されることもある我々セラピストですが、
その効果を見越した上でマッサージを実施することは、決して悪いことではないと思います。
特に、うつ病を含む精神疾患を既往に持っているような患者さんにとっては、
細かい機能評価や歩行分析を元にした介入をするよりも、
相手の話を傾聴しながら下肢をさすっていた方が受けいれは良好なことが多々あります。
また、
マッサージの方法や細かい手技について深掘りするよりも、
ある程度の時間(1回15分以上)を継続的に(週2回以上)実施することで効果が出ることが分かります。
おそらくですが、ある種の筋膜リリースのような、
痛みを伴う介入はマッサージにはあたらないでしょう。
僕らが持っている「マッサージ療法」というものの価値を、改めて考えてみても良いのかもしれませんね。
【参考文献】
Tiffany Field et al,2009,CORTISOL DECREASES AND SEROTONIN AND DOPAMINE INCREASE FOLLOWING MASSAGE THERAPY
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
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