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大企業は中期計画重視をやめても良いのかもしれない。という記事を読んだ

「戦略を企業価値の向上に直結させる方法」という記事の要点と所感。読んだ当時から妙に気になっていたので、書き残しておこうと思った。肌感覚としてはそれなりに納得がいく内容だった。

日本企業の戦略が中長期的に通用しない3つの理由

優れた戦略を策定し、それに沿った活動をすれば、優れた企業になれる…と良いのだが実際はそうでもない。なぜ立てた戦略がうまく機能しないのか?著者は3つの理由を挙げている。

  1. 旧来型の戦略策定の限界
    近年、外的環境の変化が激化しているが、従来のリスクの積み方では、この変化を織り込めない。つまり、従来よりフレキシビリティを持たせた戦略を立てる必要がある。

  2. 中期計画 = 戦略 としている
    日本企業では、「中期経営計画」として、3〜5年の期間の事業活動を計画することが多いが、この計画作成に6〜12ヶ月かけたりする。しかし、そんなに頑張って作り上げた計画の達成率は2割に満たない。なお、計画未達であったときにCEOが責任を取るケースは稀である。

    実は中期経営計画をここまで重視するのは日本ぐらいで、欧米系企業は作らないことが多いらしい。ドメスティックルールで海外からの資金調達にあまり役立たない上にどうせ未達になる計画であれば、もうやめちゃえ!と無駄仕事撲滅過激派として思う。

  3. 全社戦略の策定が不十分
    日本企業は一般的に事業の足切りが下手だ。トップダウンの意思決定による全社戦略が曖昧だと、事業ポートフォリオの最適化ができず、ノンコア事業(企業全体の足を引っ張っている事業)を整理できない。

    ノンコア事業の足切りをしていない(ポートフォリオの最適化ができていない)と、成長余地のある事業に充分なリソースが投入できず、結果的に競合他社に負けると可能性が高くなる。

EPを考慮した戦略策定

ノンコア事業が企業価値を毀損しているならば、縮小や売却も視野に入れる。さらに戦略を考える際に重要なのが、EP (economic profit) の観点を持つことだ。

EP = ( ROIC - WACC  ) × 投下資本

EPは、事業による価値創造を測る物差しになるため、EPがプラスだと価値創造ができている、マイナスだと価値を破壊していると判断する。

複数事業を持つ日本企業をEP分析すると、価値創造ができている事業部の合計EPの約半分が、価値を破壊している事業部により相殺されていることがわかった。(マッキンゼー調査)負債事業を食わせるために他の事業が2倍頑張るような足枷付きだと思い切った投資もできない。

全社戦略を最適化を実行するための4つの改革

事業部の力が強い日本企業において、全社視点からの戦略をどうやって実行していくべきかについて、筆者は次の4つを提示している。

  1. 事業部の戦略を束ねるだけの全社戦略と決別する
    印刷されたものを纏めてホッチキスで止めたり合算するだけが仕事じゃないだろうコーポレートよ!ということだろう。事業部戦略を束ねたものをそのまま全社戦略とするわけではなく、資本市場の観点も踏まえて前者のリソース配分を見直すことで全社戦略を最適化することが必要になる。

    本来は、コーポレート部門は事業部がホラを吹いていないか、実現性があるか、そして十分なリスクが織り込まれているかを確認した上でそれを全社戦略に反映させるべきだろう。ホラ吹き資料は無駄だし、程度によっては株主などのステークホルダーに対しての背信行為だと責められる可能性もあるからだ。

  2. 長期戦略に基づくリソース配分の指針設定
    長期戦略に基づいた経営をしている企業は、成長性、EP、雇用の面においてパフォーマンスが秀でている傾向がある。やはり、企業のパーパスやビジョン等と密接に結びついた長期戦略が必要だ。なお、長期戦略はできたら終わり!ではなく絶えず議論をし、更新し続ける必要があるため、 これはこれでなかなか大変そうではある。

  3. 四半期ごとの業績、KPI管理とROIC経営
    短期業績と、長期戦略の見直しとなるKPIの変化や進捗を四半期ごとにステークホルダーと共有し、対話をしていく。これにより、経営陣の業績に対する規律も守られる。ここについては、経営陣がかなり大変な労力をかけることになるのではないかとは感じたが、 意味のない中期計画を策定しては無駄にする位であれば、確かにこちらの対話に力を入れて頂きたい。

  4. 全社戦略の担い手としての4C強化
    財務担当としてのCFOチームと、事業部の人事機能CHROチーム、さらにCEOが長期戦略の策定をリードし、COOがそれを各事業部レベルや四半期ごとの目標実行に移すと言う4Cの役割と責任を明確にすることで全社戦略を構築する枠組みが整うだろうとあった。ここについては、多くの企業においてCFOチームとCHROチームを強化していく必要があるだろう。

まとめ

実効性の乏しい中期経営計画の策定をやめて、長期戦略をメンテナンスしながら使っていきましょう。という内容だった。新鮮な視点で面白かった!

リーマンショックや東日本大震災、コロナ禍などで戦略破綻した)毎度毎度「いや〜これは想定外でしたわ〜」と戦略破綻させている場合ではないが、実際はそういう言い訳で株主への説明を終わらせている企業も多い。

実際のところ、戦略が破綻したとしても強くは責められないということであれば、事業部はコーポレート部門に承認されるために、無理をして右肩上がりの成長を描いた計画を立てることが多い。つまり、全社的な視野も無く事業部ごとの目標を積み上げると、必然的に全社の目標値が実現性に乏しい計画になってしまう。

本当に全く予見できなかった損害なのか?本来は、企業としてある程度の不確実性(リスク)を予測して行動しておくべきではなかったのか?きっとこれからは、そういう問答も増えてくるのだろう。株主総会も、もう少し見応えがある内容になると良いのだけれど。

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