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目の前にある食材を生かす術

 海士町に来て早2ヶ月が経つ。前職からの退職から引越、そして新しい仲間との新天地での生活が始まり、ガラリと生活環境が変わった。思い返せば、毎日が濃密すぎて「まだ2ヶ月」と感じるが、「もう2ヶ月」と焦る気持ちも湧いてくる。
 
 私は食材の生産現場の近くで学びつつ今ある食材を最大限に生かせる術を得たい、と思って寺子屋に来た。それは特段、将来はお店を開きたい、とか具体的なことではなくて、ただその時期にある食材を生かしてスペシャルなものをつくる技術を得られたな、というぼんやりとしたことであった。 
 
 今まさにその環境で過ごし、日に日に変わる季節の移り変わりに置いていかれないよう必死で食らいつきながら日々過ごしている。4~5月はタラの芽、ワラビ、山椒(花、葉)、ふき、三つ葉、わかめ、桜、筍、梅と盛りだくさん。少しでもタイミングを逃すと今年はもう出会えないものばかり。東京ではスーパーに行けばなんでも手に入る環境であるからこそそんなことを今まであまり考えたこともなかった。

 海士町は「ないものはない」島だからこそ、私のシェアハウスでも出来るだけ今あるもので暮らすことをモットーに日々の暮らしを送っている。時にはノビルも摘んで玉ねぎの代わりにタルタルソースに入れてみたり、山椒を摘んで煮炊きのくさみ取り用にしょうがの代わりにしたり。「ない」けれど「今ある」もので代用するという考え方ができるようになった。正直なところ、面倒だと思ってしまうことも多々あるが面倒なことこそ横着せず真心こめて取り組んでいきたい、とも思っている。そして、そのほうが豊かな時間を送れる気がするのだ。


<旬の岩ガキで作ったカキフライとノビルのタルタルオープンサンド~ムラーズファームのレタスとディルを添えて>

  校舎での授業はというと4月はひたすら大根の桂剥きからのけん(つま)練習。5月は魚捌き。初めて使う和包丁では手を切っては全く出来なかった大根の桂剥きも少しずつ長く繋げられるようになってきたし、魚も少しずつ構造を理解してそれなりに捌けるようになってきた。日々、できなかったことができるようになるのはとても楽しい。


<今まで見たことも触れたこともなかった大きな魚(ヒラマサ)でも捌けるようになった>

 校舎以外の課外授業や休みの日には島の生産者の方のところで作業のお手伝いをさせて頂くこともある。どんなことに重きを置いているのか各生産者によって異なりそれを知るのもまた興味深い。以前、ある原木しいたけの生産者の作業に参加した。今年度のシイタケ業務の締めである榾木の移動を行った。菌が住み着く榾木は正直軽いものではない。ただ、その榾木の場所を移動するというひと手間がより品質の良いしいたけを作るのだ。 

<原木しいたけの榾木>

「どういうものを高く評価してもらえるのだろう」と模索しながら作る生産者。やはり、こういう生産者の苦労や思いを消費者にも知ってもらいたいし届けたい…。私は前職で青果市場に勤めていたこともあり、当時からこのような思いを持っていた。私が直接的に消費者まで伝えられる術を身に着けて、何か表現できないか、とつくづく思った。  残り10か月しかない寺子屋の日々の中で、食材の命や生産者の思いに触れつつ大事に生かせる術を得たい。そして四季折々の旬を肌で感じつつ、地元の文化とも関わりながら一瞬一瞬感じたことを大切に日々を紡いでいきたい。

<4年ぶりに開催した綱引き大会。4月から真剣練習して得たベストパフォーマンス賞!>

(文:島食の寺子屋生徒 野本)