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ウクライナからの留学生

こんにちは、本多です。お寺の住職、大学での教鞭、それからテラエナジーの創業メンバーとして取締役をつとめています。僕は小学校のとき、海外に住んでました。noteでは、日常で感じたことや考えたことをできるだけ素直に言葉化したいと思います。ゆっくりしたときに読んでもらえたらうれしいです。

最高点の学生

僕が担当する後期講義で、最高点をつけた学生の学期末レポートは、構成、論理、視点が群を抜いてよかった。彼女は、フランスのライシテ(政教分離)の課題について論じた。公共空間でのヒジャブ(イスラム教徒の女性が着用するスカーフ)着用を禁止するフランス政府の政策を、「平等」と「公平」の違いを軸に、鋭く批評した。

彼女は留学生で、海外からオンラインで出席していた。ただ、100人を超える授業だったので、一人ひとりの出身地や背景を僕は知らなかった。

そんな彼女の出身地を知ったのは成績評価を終えた2月末のことだった。大学関係者から彼女のことを聞いた。名前からして東欧の雰囲気を漂わせていたが、ウクライナ人でキエフから受講していたことなど想像もしていなかった。

大学側に本人の安否を確かめると、ロシア軍のウクライナ侵攻に伴い、キエフから8kmのところまで歩いて逃げ、一度音信不通になった。その後、国境を越えてポーランドに入国したという。大学からの要請を受け、先週大阪に着いたようだ。

彼女の身の安全は確保された。しかし、家族や友人を残し一人で日本にやってきたことを思うと、いたたまれない思いになる。

キエフ大学と恵光寺

僕のお寺には、毎年夏、キエフ国立大学の留学生が20名ほどやってくる。ここ2年はコロナの影響で来ていない。

学生が来るとお寺の婦人会のおばちゃんたちが浴衣の着方を教え、境内での盆踊り大会に参加する。盆踊りの輪に入り、見よう見まねで恥ずかしそうにダンスする姿が印象的だ。

キエフ国立大学の学生たちは、日本滞在の2日間を文化交流の時間として恵光寺で過ごす。盆踊りの翌日は、本堂で座禅のレクチャーと茶道のレッスンをする。父は僧堂での修行経験があるので座禅担当で、僕は茶道を担当する。学生たちは神妙な顔つきで茶筅を扱うが、なかなか泡が立たない。上手くいかないことで笑みがこぼれる。

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休憩時間は、日本の夏の暑さにまいったようすでセンスを扇ぎながら、境内でタバコをプカプカふかせ談笑する。僕も海外に住んでいたので、お寺の境内とはいえ、特に不快には思わない。異国情緒に、自分も海外に行った気分になる。若者たちの愚痴のこぼし合いはどの国であれ、微笑ましい。

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今回の侵攻を機に知ったことだが、八尾市にはウクライナと日本の親睦を図る日本ウクライナ文化交流協会の本部がある。連日メディアに登場する政治学者のアンドリー・グレンコさんは、当協会の政治担当部長だ。

ウクライナ侵攻は対岸の火事ではない。ウクライナでの出来事を遠くには感じない。一方、ロシアに60万人もの仏教徒がいることもはじめて知った。

写真を見ていると、彼女、彼らの安否が心配になる。キエフにまだいるのだろうか。男子学生は予備兵として戦禍に身を投じているのではないか。

人間世界のやるせなさ

よく言われることだが、戦闘に勝つことと戦争に勝つことは一緒ではない。戦闘に勝利しても戦争に勝つとは限らない。とりわけここ数十年はその傾向が顕著だ。物理的な攻撃は双方の心身に大きな遺恨を残す。

人間の歴史は戦争の歴史とも言われる。戦争が発生していない状態は戦前とも言われる。侵攻の映像を見ながら、生老病を経て死に至ることが、場所が変われば極めて困難な現実であることに気づく。

不安定な世界情勢は、燃料費の高騰にも表れている。3月の電気の卸値は、例年に比べてかなり高い。

インターカルチュラリティという言葉がある。「間文化性」を意味し、共に生きるために工夫を講じることを指す概念である。文化は開かれているがゆえに異質性を包摂する。

一方、社会では異質性は排除される。社会は合理的な正義論を選ばざるをえない。ただし人間は合理的な生き物ではない。もし合理的であれば、悩んだりはしない。人と人を結びつける文化の可能性を感じる。

テラエナジーのビジネスモデルは、インターカルチュラリティの系統に近いと僕は考えている。その実現に向けては、常識に捉われず、人間世界のやるせなさに揉まれながら、共存のための工夫を個々に開いてゆくしかない。

数日前、お寺の婦人会の会合で、誰言うともなくウクライナの支援金をしようとの声が上がった。「支援金が弾薬に使われるのはイヤ」「どこに寄付したらいいかわからない。だからお寺にお願いしよう」。文化をベースに、共存のためにできることに取り組みたい。

本多 真成(ほんだ しんじょう)
1979年生まれ。大阪八尾市の恵光寺住職(浄土真宗本願寺派)。龍谷大学大学院を修了し、私立大学の客員教授をつとめる。院生時代は「環境問題と仏教」の思想史研究。専門は宗教学。TERAEnergy取締役。

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