ジョブズと雨の散歩

 昨日からしとしとと嫌な感じの雨が降っていた。先週末は、わけあって住民票やら証明書やらが必要だったのだが、僕の住んでいるところにある区役所の出張所の自動発券機では直近のものしか取得できなくて、それより過去の分は月曜日、つまり今日窓口に行かなくてはならないということらしかった。
 できるだけ早く書類を送りたかったので、他に取得できる方法はないかといろいろ調べてみると、日曜も本庁ならば開いているようである。あいにくの雨ではあるが、思い切って行ってこよう。うちから歩いて15分程度らしいし、家を出てしまえばすぐだろう。

 で、本庁に行ってみたのだが、全然開庁していなかった。おかしいなと思って周りを回ってみても全然開庁していない。
 もう一度、役所のWEBサイトを確認してみると、なんのことはない。開庁、閉庁を読み違えていたのである。
  ほんとにアホで嫌になるが、開庁時間と閉庁時間を併記するのはちょっとどうかと思わないのではない。いや、見落とした自分が一番悪いのだけれど......。

 普段だったらこんな間違いしないのになあと思いながら、どうしてこんな凡ミスをしてまったのか考えてみた。理由はいくつかあって、書類を早く出す必要があったので、焦っていたというのがいちばん大きい。それに閉庁時間の記述があるであろうことを想定できていなかった。
 多くの人は「いつだったらやっているだろう」「窓口は何時までだろう」という思考でそのページを見るはずで、わざわざ「土日はやってないで」という記述があるとは思わないであろう。
  あるべきは「ここは土日もやっているよ、ええやろ」という嬉しい知らせなはずではないか。人間の行動原理をわかっていないからこうなるんだと、自分の確認のミスの責任をなすりつけようとしていて、気づいてしまった。

 「自分の欲しい情報を探してしまっていた」んだなあということに。

 ディスコミュニケーションが起こるときには、多くの場合、前提に食い違いがるあるものである。たとえば、女性はこういうものだとか、経営者はこういうものだとか、どちらかに思い込みがあり、それが伝わっていないときに大きな問題が生じる。
 自分なりには、そういったことが起きないようにできるだけニュートラルでいようと心がけてきたし、相手や自分に思い込みがありそうな時には言葉の定義を確認したり、齟齬がないように心を砕いてきたつもりである 。

 が、こんな事実確認につまづいているようではまだまだだなあと反省しつつ、ひとつ思いついたこともある。「欲しい情報を与えるようにデザインする」ということが、発信する上では必要なのだろう。
 転んでもただでは起きないぞ!と無理やり自分を納得させようとしているところに、同行者からこう声をかけられた。

 「散歩できてよかったね」

 あまりに落ち込んでいる僕を勇気づけようと言ってくれたのかもしれないが、もやもやも、なんだか情けない気持ちも吹っ飛んだ。

 「欲しい情報」の中でも最上のものだ。それも想像もつかないくらいの。
 かつてジョブズはiPhoneについて「多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ」と言ったとか言わないとかいう話があるが、この無駄足を散歩と表現できるのは僕にとってはiPhoneのようなものだった。

 学ぶべきは一番身近な人なのかもしれない。
 

ことばを軸にしたデザイン会社を経営 / 仕事と生活とコンテンツ制作と趣味をごちゃまぜにしていきたい /アイデア・企画 / コピーライティング /ネーミング / ライティング /(心の)大喜利 / お仕事のお問い合わせはお気軽に。https://a-brain.net/