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シリコンバレーでの経験で見えた 違いを理解し、双方をつなぐカルチャーハブの必要性

TEP Deep Tech Journal

2022年2月22日、オンラインにて開催された「第6回J-TECH STARTUP SUMMIT」。大きな成長が期待されるシード・アーリー期の技術系スタートアップを支援するための取り組み「J-TECH STARTUP」が行うイベントです。
今回は株式会社デンソーの技術企画部に勤めながら、スズキマンジ事務所を立ち上げた鈴木万治氏に「シリコンバレーの3年間で学んだこと ~文化や組織の違いを乗り越える翻訳者になる~」をテーマにゲスト講演をしていただきました。今回はその講演内容をご紹介します。

鈴木万治様_写真

鈴木 万治氏 スズキマンジ事務所 代表(株式会社 デンソー 技術企画部 CX)

シリコンバレーでコミュニティに参画するために必要なこと

私は30年ほど、デンソーの本社がある愛知県の刈谷市で勤務して、55歳のときに突然シリコンバレーに行くことになりました。当初、シリコンバレーと日本の違いは “ミリメートル”と“インチ”、つまり単位の差程度だと思っていましたが、実際に行って分かったのは、 “野球”と“サッカー”くらい本質的に違うということでした。

いきなり「あなたたち(日本人、日本の企業)って時間泥棒だよね」といったことを言われました。いつまでも意思決定しないという日本企業に対しての全体的な印象がそうなってしまっていたのです。
まずはコミュニティに近づかないといけません。シリコンバレーのコミュニティにどうやって参加していくのか。私たちが選択したのは、プラグ・アンド・プレイへの参画でした。このプラットフォームを利用して、デンソーとはどういう会社なのかを知ってもらう活動を行いました。北米のCEOや社内のベンチャーキャピタリストを呼んだイベントを開催しましたが、一番反響があったのが、一緒にビジネスをしたスタートアップ3社を招いて、デンソーについて本音を語り合ってもらう企画でした。かなり赤裸々な話が出てきて、デンソーについて知りたいスタートアップの人たちにとっては好評でした。

シリコンバレーコミュニティでの“作法”

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さて、シリコンバレーで気をつけたことは三つあります。

まずは「一期一会」。シリコンバレーのスタートアップやベンチャーキャピタルの人たちというのはとにかく多忙です。かろうじてもらえる時間は、朝食やランチをご一緒する時間のみです。短い時間ですが、そこで何か相手に価値提供できる話題を出せなければ、それで終わりです。「次また会おうか」とならないと、もうそれでおしまいなのです。そうならないために大事なのは「ウォームイントロダクション」、いわゆる口コミ紹介です。良い人とつながってその人に紹介してもらうと、また、良い人とつながっていきやすい。人との出会いや、つながりがやはり一番大事ですね。
 
次に気をつけたのは「価値の等価交換」。デンソーの私がソフトウェアの分野でシリコンバレーの人に勝てるわけがないですよね(笑)。そこで我々には何ができるか。我々はオートモーティブの知識と経験を持っていて、彼らはサービスやソフトウェアの知識と経験を持っています。それを上手に等価交換できたらと考えました。価値を平等に交換することを意識していました。

三つ目は「評判」。シリコンバレーはとても狭い世界なので、「あいつはどうだ?」という評判はすぐ立つわけですよね。言ってみれば新参者である我々にできることはとにかく「GIVE」。相手にとって良いこと、うれしいことをやっておくしかない。良いことも悪いこともどんどん広がるので、これはすごく大事にしていました。

スタートアップとの組み方は、協業やM&A等いくつかありますが、私が選んだのは「相互補完的な協業」です。みなさん、よくご存知のように、プロトタイプとかアイデアにおいてスタートアップはすごいですよね。でも量産までを考えると、難しい課題もたくさんあります。

デンソーにあってスタートアップにないもの、それは、アセット(資源)です。製造設備や技術、製品、人材をたくさん持っているということで、スタートアップが求めているリソースを提供できるとよいのではと考えました。

スタートアップと提携企業の“翻訳者”として

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最後に、シリコンバレーで学んだ教訓についてお話しします。大企業とスタートアップの間にはさまざまな違いがありますが、まず大きいのが「時間感覚の差」。スタートアップが3カ月ごと、四半期ごとに生死をかけているとしたら、本社は「3年のロードマップを見せろ」みたいなことを言いますよね。

ビジネスでの完成度にしても、スタートアップからすると「POC(Proof of Concept)が終わったらすぐスケールだ!」みたいな話になるのですが、我々はいきなりそんなことできるわけがありません。この認識の差は、揉める原因になりやすいので、これについては最初のうちにしっかりと話しておくようにしました。

また、スタートアップの1時間は我々の1日ぐらいに相当する密度があるので、面談でディールクローズしないときや次のステップが見えないときというのは、何をこの人たちにお返しできるのか頭をフル回転させました。そのほかでも、企業からスタートアップに対して、リバースピッチをやる際にも、会社紹介をそのまま読み上げる、英語は達者な人だけがやるなど、色々なワーストプラクティスを散見する機会もあり勉強になりました。

基本的に何が問題かというのをよく考えてみると、スタートアップと企業人は、働き方もキャッシュフローへの考え方も、何もかもが正反対のようなものなのです。どちらがよい・悪いという話ではなく、そこに差があるということが協業の課題となっていると感じています。

私が思うに、多くの場合、スタートアップの方々というのは大企業や大組織での勤務経験がありません。当然われわれ大企業で勤めている人間にもスタートアップでの経験がないので、お互いにお互いのカルチャーやスタイルが分かっていないことが課題なのではないでしょうか。

私が昨年、個人事業主としてスズキマンジ事務所を開業した理由の一つは、「カルチャーハブ」になるためです。例えばアメリカのスタートアップは、「最高にクールなサービスを」という想いでシリコンバレーのベンチャーキャピタリストに向けたようなピッチ資料を用意します。でもそれを日本の大企業の人向けに熱心に語ってみても、同じように響くとは限りません。せっかく良いプロダクトやサービスを持っているのに、もったいないですよね。

そこで、私がその間に立って通訳するのです。スタートアップに対しては企業の視点で「企業にはどんな意思決定プロセスがあるか、誰にどういうふうに説明するといいか」を伝え、大企業に対してはスタートアップ視点で「スタートアップは企業に対して何を期待しているのか」などを伝えます。

スタートアップと企業は、それぞれの良さを持った異質なものです。みなさんは、以下の言葉をご存知でしょうか?ここで言う「ハッカー」は、スタートアップ、「スーツ」は企業とも読み替えられます。
「ハッカーは、正しいことを雑にやる。スーツどもは、まちがったことを綿密にやる」
今日お話したような取り組みを通して私が目指しているのは、「“ハッカー”と“スーツ”で正しいことをスピーディかつ正確にやる」という世界です。個人的な経験談ですが、少しでも何か持ち帰っていただけるものがあればうれしいです。ご清聴ありがとうございました。

(2022年2月 J-TECH STARTUP SUMMIT)

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