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外の工事の音を聞いて

「ふむふむ。なるほど。なるほど。ああ、そうくるかあ。なるほど。なるほど。それはいいアイデアだね。それはとてもいい形だと思うよ」
と、今は昼日向の、いぬうた市ですが、
先程から、きゅん君、自宅の1階の、
ダイニングルームの窓辺で、何かをずっと見ていて、
あーだこーだ言っているのであります。
で、きゅん君、一体何を見てるんですか?
その窓からは庭と前の道路くらいしか、
見えないと思うんですけど。
「そうかな。見えないかな。僕くらいの犬だったら、見えるんだけどな。ありありと」
あら、それは凄いですね。
で、きゅん君には一体何が見えてるんですか?
「それは工事中の建物だよ。でも建物と言ってもただの建物じゃないよ」
ただの建物ではない?
ではそれは何ですか?
「タワーだよ。いぬうた市に出来るから、いぬうたタワーだね」
そうなんですか?
いつの間に、いぬうた市にタワーを、
造る構想がありましたっけ?
全然聞いたことないんですけど。
「そんなこと言ったって、実際建ててるだからね。これ純然たる事実ね」
えーっ。本当ですか?
こう言っては何ですが、きゅん君が、
見ているその窓辺の場所からはタワーはおろか、
工事風景なんて全く見えないですけどね。
本当に、きゅん君にはタワー建設現場が、
見えているんですか?
「見えてるよ。まあ、正確に言うと聞こえるだけどね。でもよく言うじゃない。聞けば見えてくるって」
何だ。きゅん君の見えてるって、そうゆうことですか。
確かに工事の音は聞こえてますね。
でもこれって、近所で新築の家か、
マンションを建てている音ではないですか?
少なくともタワーではないと思われますが。
何で、きゅん君はタワーだと思うんですか?
「だって、だってそれは結構上のから音がしてるからね。この高さだったらタワーしか考えられないよ」
まあ、きゅん君がそこまで言うんでしたら、
別にタワーでもいいんですけど。
で、その、いぬうたタワーって、どんなタワー何ですか?
高さはどれくらいあるんでしょうか?
「よくぞ聞いてくれたね。何と、いぬうたタワーは高さが111メートルなんだ。何でかっていうと、犬の、わんわんわんで111メートルね。あとね、いぬうたタワーの特徴としては、塔の形自体が犬の格好なんだ。犬が立っている格好ね。これが実にいいんだよね。それで夜になると、目のところのライトがピカって光って、いぬうた市中を照らすんだ。あとはね。あとはね」
と、きゅん君は話は尽きることを知りません。
これ、ああ何だあ、ただの思い込みか、と、
言ってしまうのは簡単ですが、
きゅん君は、こうやって、日中の数時間を、
窓辺で佇んで、聞こえてくる音をビジュアルに変化させて、
更にいろいろと想像をふくらませて、
生活を楽しんでいるのです。

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