タイのスイスを目指す旅 1
タイのスイスと言われる場所がある。
「今度またタイに行くことにしちゃったんだけど、どこか面白いところありますか?」
顔馴染みのタイ人に聞いてみた。
「ペッチャブーン県に面白いお寺がありますよ。」
そのお寺は前になにかで見たことがあって気になっていた場所だった。
「お寺があるカオコーっていう所は涼しい高原で、タイ人の観光客に人気。とてもスワイ(綺麗)です。」
スマートフォンで写真を見せてもらうと、
それはとても綺麗な山々で、全然おれの知ってるタイっぽくない。
どっちかっていうとおれは、雑然としたような感じこそがタイっぽいと思ってるし、
そういう所ばっかり旅をしてきた。
ただ、そのお寺の「ネオ・タイらしさ」とそのスケール。
ここには絶対に行ってみたい。
それにたまにはタイっぽくない、タイ人向け穴場リゾートとやらを見てみるのもタイ通っぽくていいじゃんか。
こんな感じで、先にチケットだけ勢いで取ってしまった今回の旅の目的がざっくりと決まった。
ひとまずバンコク
まずはバンコクに着いた。
もう何回目なんだろう。
カオコーに行く、ということだけを決めてひとまず駅前の安いホテルを取った。
カオコーまでどうやって行くか。
インターネットの日本語での情報は車かバイクで行く人のものばっかりで、
公共の交通機関での行き方を知ることはできなかった。
まあとにかく最寄りの町、ペッチャブーンかピッサヌロークまで行ってみよう。
そうなると、最短で2日もあればカオコーまで行ける訳だけど、考えたら旅の期間はまだまだある。
「どうせそんなに遠くまで行くならチビチビ寄り道でもしながら行かない?」
とおれの旅心のようなものが呟いたので、なんだかんだ今回も地道な旅になりそう。
ここからずっと北へ向かう。
具体的にどこに向かうってのじゃなくて、ざっくりと北へってのが旅っぽくて最高じゃない?
バンコクからしばらくは、通学に使う学生さんなんかでごった返し路線バスのような雰囲気だった。
大仏のある町
バンコクから2時間もバスに揺られていると、だいぶ長閑な町アーントーンに着いた。
バスがどこまで行くのか知らないけど、ここでバスを降りたのはおれだけだ。
蘇ってくるタイの田舎の空気感が気持ちいい。
町から10キロは離れた大仏のあるワットムアンというお寺まで行ってみる。
田舎なのでやっぱり足がない。
運がよくGrabバイクが捕まった。
炎天下のロングドライブに付き合ってくれるドライバーを労おうと、
コンビニで缶コーヒーを2本買った。
差し出すとドライバーは少し照れたように笑ってくれた。
いつの間におれもバイタク移動にすっかり慣れたもので、
缶コーヒー飲みながら、器用にカメラで写真を撮りながらぶっ飛ばすバイクの後ろに乗っかってられるようなレベルになっていた。
ただ、現地の人はレベルが違っていてスマートフォンのゲームに熱中していたり、
お母さんの後ろで、涼しい顔をしてラーメンを食べてる幼稚園児くらいの子供もたまに見かける。体幹が違う。
ワットムアンの大仏はタイで一番大きいらしい。
日本の牛久大仏とかもっと大きい大仏はいくつかあるけどみんな立像。
座っている大仏ではこれが世界一だと思う。
どでかい大仏に、全面鏡張りのお寺、地獄のモニュメントと軽いテーマパーク状態なのがタイっぽい。
なのに周りにはマジでなにも無いし、人もほぼいない。
帰り。Grabが捕まらないのでトボトボ大通りまで歩いてってみる。
東京、バンコクからのいきなりの田舎。
雲の流れと風の音だけ。
一生来ることがなかったはずの場所になぜか今、身一つでいる。
行き当たりばったり旅のおもしろい所。
とにかく暑い。
15分も歩くともう限界。
スーパーマーケットの前の屋台で氷たっぷりのコーラをぐびっとやってなんとか生き返る。
町に帰りたい。
しばらく粘ったけどGrabは捕まらない。
大通りを見ていてもバスやタクシーは通らない。
目の前の食堂のおばちゃんに尋ねてみると、
「まだこの時間なら長距離バスが通るはず。」とのこと。
閉店作業中のおばさんが一緒に道路を見張っててくれた。
道端で30分くらいは待ったけど、バスは一向に通らない。
痺れを切らしたおばちゃんが車で送って行ってくれることに。
おばちゃんはとにかく元気な人で、
「日本いいなー!!よく知らないけど行ってみたい!!!でもお金ない!!」
と終始叫んでいた。
「いつかまたアーントーンに戻ってきて私のお店来なさいよ!!」
とのこと。
お世話になったしまたいつか来ないとなあ。
夜。お腹が空いて宿を出てみるも、僻地なのでコンビニくらいしかない。
ちょっと先に屋台の灯りが見えたので歩いていってみるとそこはなんとステーキ屋。まさかの洋食。
店員さんたちに、
「こんな所になんで外国人がいるんだ?」みたいな表情で迎えられる。
店員のお兄さんに、簡単なタイ語でメニューを上から一つずつ確認。
ビーフの何かを持ち帰りで注文した。
椅子に座っておれが注文したステーキが焼けていくのを遠くから眺めていると、
厨房からアイアンメイデンのTシャツを着たゴリゴリなタトゥーの店員の女の子が、
少し英語が話せる店員のお兄さんになにやら耳打ちをされて、なにやらボソボソ言いながら歩いてくる。
「one...hundred....eighty.....one....handred...eighty」
近くまでくると聞こえてくる180。
おれのお会計を英語で伝えてようとしてくれてるのだ。
彼女はおれの前で立ち止まって、
「one hundred eighty カー」と拙い英語で言った。
「OK」とおれがお札を数えて彼女に差し出すと、
彼女の緊張した顔は一瞬で「やった!通じた!」みたいなリアクションとともに笑顔になった。
一見、気怠そうに働いているタイの店員さんたちがたまに見せるこの無邪気さ。尊すぎる。
アーントーンから隣の県シンブリーへ。
バスターミナルのチケット売り場に行くとシンブリーに行くバスはないからバイクタクシーで行くしかない、とのこと。
道端のバイタクのおっちゃんに声をかけると、シンブリーまで400バーツ。(1500円)
高いけど他に方法はない。
ちっこいバイクにおっさんと2ケツしてシンブリーを目指す。
シンブリーは何の変哲もない田舎町。
タイの田舎の町はそういうこと多いけど。
町の中心には寂れた市場が網目状に広がっていて、人が少なくてガランとしている。
道端でナマズを捌いているおばさんたちから、「あらあなたどこから来たの〜?」と、ごく自然に声をかけられたりして雰囲気はいい。
なぜかこの町ではそういうことが多く、
商店でスプライトを買えば、店のおじさんに「君、まさか日本人?」と握手を求められ、
コンビニで夜食を買う時、レジの女の子たちからは
「わあ!日本人だって!アリガトウゴザイマシタ!!」と、軽く芸能人気分。
シンブリーと日本との間に一体なにが!?
人はとにかく良いけど、町自体はとにかくやることのないシンブリーでダントツによかったのが道端の飲み屋だ。
雰囲気がいいこういう場所が一つあるだけで、この町がいい思い出になってしまう。
夕方のちょっとしたナイトマーケットの中心地にはいくつかの屋台とテーブルが並びフードコートみたいになっている。
とりあえず座ってビールを注文する。
夕方の屋台街をつまみに氷たっぷりのビールを飲む。
これこそがタイの田舎で一番サイコーな瞬間かもしれない。
料理の注文にも挑戦する。
渡されたメニューは、写真なしのタイ語オンリーでなにがなんだかさっぱりわからない。
店のお姉さんに「ママー(インスタント麺)を使った料理でなんか美味しいやつ!辛さほどほどで!」とビストロスマップばりに注文。
運ばれてきたのはちょうどいい具合の焼きそば。
さすが店員さんにはおれが焼きそば好きなのを見抜かれてたか。
辛さは控えめどころか全体的に塩気がほぼなかった。
チャオプラヤー川の始まり
地元のモタサイ(バイタク)のおっちゃんに連れていってもらったバス乗り場からロットゥー(乗り合いバン)に乗ってさらに北へ。
バス乗り場といっても、なんの目標もない国道沿いの分離帯から通りかかるロットゥーに手を振って止めるだけ。
ロットゥーのドライバーの若いお兄ちゃんは、イケイケなヒップホップを爆音で流しながら、どんどん車線変更して車を追い抜くし、
途中休憩に寄った食堂ではクイッティアオ(ラーメン)を何回もおかわりしてた。
やりたい放題で楽しそうだなあ。
目的地ナコーンサワンの町に入ると、運転手はおれ以外の乗客たちとなにかおれについて話しているみたいな様子。
すると、わざわざ一番奥の先に座っていた英語の話せる女の子がおれの所に来て、「ホテルはどこですか?どこで降りたいですか?」
と丁寧に尋ねてくるので、「この交差点の先あたりで降ろしてくれていいですよ」と適当な場所で降りる。
宿周りの土地勘もつけておきたいので、少し歩くくらいが具合がいい。
バンコクに行ったことある人ならたぶんほとんどの人が見聞きしたことはあるだろうチャオプラヤー川。
タイ最北部から流れてきたナーン川とピン川が、ここナコーンサワンで合流してチャオプラヤー川になってバンコクの向こうまで続いていく。
中洲のニワトリと野良犬しかいない荒地の先に真新しいモニュメントがあってそこからチャオプラヤー川の始まりが望める。
例によって帰りはgrabが捕まらず、荒地を野良犬に吠えられながらトボトボ歩いて帰る。
ナコーンサワンに入り、区分としてはここからタイの北部。
遠くに山がちらほら見えるようになってきた。
町のすぐ近くの小さな山の上のお寺に行ってみることに。
さすがにそんな所へは行ってくれないだろうと、ダメ元でGrabを呼んでみると、
意外にもあっさりとバイクとマッチングした。ドライバーは華奢な女の子だった。
市街地を抜けるとすぐに鳥居があってそこをくぐり抜けると急に山道。
バイクの馬力がギリギリで、坂道のたびに徒歩並みの蛇行運転。
坂に差し掛かるたびに二人して体勢を低くしながら、
「おぉ〜!いける?いけいけ〜」「おぉ〜!いけたねえええ」と和気あいあい。
あまりにも急な坂は二人でバイクを降りて押しながら登った。
頂上に着くとお姉さんもやり切った顔でぐったり。
ろくに言葉は通じないけどなんとなく連帯感があって良かった。
山の頂上にあるお寺、ワットキーリーウォン。
ナコーンサワンの町を見渡せる。
お寺のすぐ近くには展望台もあってちょっとした観光地。
ただ人は少ないし20バーツ(80円弱)払って展望台に登ると、
広々とした景色には目もくれず、
足元のコンセントで充電しながらあぐらをかいてスマートフォンをいじったり電話をしてる若い子ばっかり。
これがローカル観光地。
眺めのいい展望台も彼らにはエアコンに当たれる休憩所なのだ。
久しぶりの列車
ここから次の街、ピッサヌロークまではバスがちょうどいい時間には無かったので、国鉄で行くことにした。
前日に駅まで行ってチケットを買った。
タイの国鉄は、少し時間はかかるけどバスよりももっと安く、とにかく旅のムードってやつがムンムンだ。
ピッサヌローク
ボロい扇風機だけの車内は、全開の窓から生温い風が入ってなんとなく気持ちいい。
ナコーンサワンを出てから2時間半くらいでピッサヌロークについた。
駅前にボロホテルを取った。
エントランスには誰もいないので声をかけると、
トトロのTシャツを着てる(のに)無愛想なおばさんが出てきた。
昼間だってのに自分の部屋を探すのにスマートフォンのライトで照らさければ辿り着けない、全体的に暗くて埃っぽいホテルだけど立地だけは抜群。
次の町はいよいよ旅の目的地カオコー。
とりあえずバスターミナルに聞き込みに行くと、あっさりカオコーに行くバスを見つけた。
ペッチャブーン行きのバスに乗って、カオコーの近くのケームソンという町で途中下車しろとのこと。
とりあえずカウンターのおばさんにスケジュールを書いてもらった。
着いたその先のことはわかんないけどひとまずカオコーのあたりまで行けそうだ。
ピッサヌロークはタイ北部への玄関口的な町なはずだけど、
こじんまりとしていてこれといってなにがあるわけでもない。
それでも久しぶりに欧米人のバックパッカーをちらほら見かける。
この町で中継して遺跡の町スコータイや、古都チェンマイなんかの人気観光地に行くんだろう。
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