13歳からのアート思考
"アート"のイメージ
"アート"と聞いてどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。
「美しい絵や像のこと」
「独特なセンスが必要なもの」
「感覚が研ぎ澄まされた人にしか分からない、高尚なもの」
私がアートにもっていたイメージです。とにかく「美的センスのない自分には理解の範疇を越えたもの」という感覚をもっていました。
しかし、末永幸歩『13歳からのアート思考』を読んで、「アートは遠い世界の話ではなく、自分の中にあるものだ」と感じました。
アート思考とは何か
本書のタイトルにある「アート思考」とはどのようなものなのでしょうか。
著者はアートを植物に例えて説明しています。
地表部分→作品という「表現の花」
根本→アート活動の源となる「興味のタネ」地中→作品が生み出されるまでの探究の過程である「探究の根」
アートという植物は以上の3つからできています。そしてこの植物の大部分を占めるのは「探究の根」の部分であり、アートにとって本質的なのは作品ではなく作品が生み出されるまでの過程です。
この植物は自分自身の内部に眠る興味や個人的な好奇心、疑問=興味のタネを養分にします。そして好奇心の赴くまま、「探究の根」は好き勝手に伸びていきます。
この「興味のタネ」と「探究の根」にあたる部分こそが「アート思考」です。筆者は次のように定義しています。
アート思考とは「自分の内側にある興味をもとに自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探究をし続けること」だと言えるでしょう。
本書では、このアート思考の観点から20世紀のアート作品6点を鑑賞していきます。
「素晴らしい作品とは何か?」
「リアルさとは何か?」
「アートの常識ってなんだ?」
こういった問いを考えていくと、これまでいかにアートを狭義のものとして捉えていたかを思い知らされます。
大切なのは自分がどう考えるか
美しい作品が、技術的に優れた作品が、独創性のある作品が、「アート」とは限りません。アーティストが咲かせた「表現の花」が結果としてアート作品になる。本書を読んでそう感じました。
著者によれば、真のアーティストとはアートという植物を育てることに一生を費やす人のことだそうです。すなわち、「自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探究をし続ける人」は皆アーティストです。
アーティストであるために大切なのは、自分なりの考えを深めるということです。
海に沈む夕日を見てある人は「夕日が海に反射してきれいだ」と思うかもしれない。でもその隣に立つ人は「太陽が沈んで空が黒くなっていくのが不気味だ」と感じるかもしれない。大事なのはどちらが正しいかではなく、どうしてそう感じるのか自分の興味に沿って深めていくことだろう。
そして、自分の考えたことを伝えたいと思って表現したときアートという「表現の花」が咲くのだと思う。だから、「伝えたい」という想いが溢れているものがアートだと私は思う。それが絵であろうと、立体物であろうと、作文であろうと、歌や踊りであろうと。
自分の中にある興味のタネを大切に、探究の根をはっていきたい。アートは自分の中にある、そう感じました。
なぜ今アート思考か
この本は今年話題になった本の1つです。
それはこれからの時代にアート思考が重要だと見直されているからに他なりません。
この本が発行された約1週間後、突然の全国一斉休校が発表され、日本全国に衝撃が走りました。そのあとの経緯は皆さんご存じの通り。2020年になったとき、誰がこんな1年になると想像したでしょうか。
このように今の世の中は急激に変化していて、見通しをたてることが難しくなっています。現代のようなVOCA(変動、不確実、複雑、曖昧の頭文字)の時代には正解を見つけることは不可能になりつつあります。
そこで大切になるのが「自分なりの答えを見つける力」です。
「自分なりの答えを見つける力」
これこそアート思考によって鍛えられる能力ではないでしょうか。
社会人になってから、ずっと仕事の「正解」を探してきました。自分がどう動くのが正解なのか、先輩や上司の反応をみて答え合わせをしては一喜一憂している自分がいました。
ただ、同時にそんな自分に失望している自分もいました。自分が今まで深めてきたことはなんだったのだ、と。
正解がない時代だからこそ、自分なりの答えに自信をもって進んでいきたい。そう思わせてくれる本でした。