「愛がなんだ」と聴かないで。気まずいふたりの愛の行方。

エンドロールが終わった。

なんなんだろうこの映画は。

男はこの場から早く逃げ出したかった。

天豆エッセイ詩小説11  
「愛がなんだ」と聴かないで。気まずいふたりの愛の行方。

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立ち上がろうとする男。

そっと腕に手が添えられた。

ほっそりした女の手に意思が宿る。

「面白かったね」

「お、おお、ああ、面白かったね、俺、ちょっとトイレに行ってくるわ」

腕に添えられた手に力が入った。

「私って彼女だよね」

「ん?」

「私って彼女だよね」

「あ、ん~、そうかな、そうだよね」

「だって私と寝てるもんね」

「ね、寝て?うーんなんか今日眠いね、ちょっとトイレ先に、、」

腕に添えられた手が

がっしり肘あたりをロックしている。

「寝てるよね、私と」

「いやぁ公共の場だからね、そういうことは今はね」

女の表情はない。

「最低だよね、この男」

「え?お、俺?あ、あ、あ、この映画ね、いやぁ、そ、そうだよね」

「思わせぶりにしてさ、勝手に呼びつけてさ、やるだけやってさ」

「ま、まあ、人の恋愛って色々あるよね、きっと深い事情がね、彼らにもねきっと」

誰かさんとそっくりだよね

「ん~~、誰かいたかなぁ、いたかなぁ~、こういう男」

女の目が鋭く男を真っ直ぐに見つめている。

「あの男、追いケチャップとかってやってたけど、あざといよね、ほんと」

「いやぁ、もうみんな出ちゃってるから、まず、出ようか」

「誰かさんに、追いマヨネーズされたことあるけどね、、気持ち悪いだけだよね」

「ん~、追いマヨ?そんなことってあるのかな~」

「あとあの女もさぁ、‘好きならしょうがないって‘なんか結局そうやってる自分が可愛いんだよね」

「そ、そうかもしれないね、ある意味、似た2人なのかもしれないね」

「いや、それは全然違うけどね」

腕に捻りがぐいと来た。

ひぃっ!

「あの男が1番のクズだけどね」

腕はもう感覚が無い。

「もっと大切にしてくれる男と付き合えばいいのにね。あんな男を好きになる自分を好きになるんじゃなくて、自分に酔ってるだけだよね、あんなの」

「(前方を見て)あ、あ、なんか劇場の掃除の方もだいぶ入ってるみたいだからね、、もう迷惑になるからね」

「でさ、あの仲原っちって、なんか好きな女に振り回された男いたじゃん」

「は、はい」

「でも最後、潔かったよね。好きでいることを諦めるって決断したんだもんね。『諦めるタイミングくらい選ばせてくださいよ』って泣きながら言ってさ。すごいよね、彼」

「あの~膀胱が破裂しそうで、ちょっとヤバいよね」

「そしたらあの女がさ、泣いてる彼に『うるせーよ、バーカ』って言って、結局最後まであの女は、‘あの男を好きでいる自分‘を捨てられないって、ラストなんかあれホラーだわ、ほんと」

「そ、そ、そうかもしれないね」

「私、なんか目が覚めた気がする、、」

「え?どういうこと、、?」

(劇場員)「あの~、お客さん、ちょっと」

「すみません! も、もう出ますんで、、」

(劇場員)「いや、違うんです、後ろの方」

振り向くと中年の禿げた男がポテトをポリポリ食べている。

「あの〜持ち込み禁止なんで、あともう次の開場近いんで、、」

(今までずっと聴いていたのかこいつ、、)

「ちょっと待て青年。今、大事なところなんだ」

「へ?」

「この2人にとって、今、とても、大事なところなんだ」

「ちょ、ちょっと今までずっと聴いてたんですか!何、人の話勝手に聴いてるんですか!」

「いや、ただ、聴こえたんだ」

「な、なんだこいつ、、(女に)もういこう早く」

「いいんじゃない。別に聴いてもらったって」

「え?」

人を好きになるのは恥ずかしいことではないのです

「は?」

「と、『ペンギン・ハイウェイ』ではアオヤマ君が言っている。小学4年生にして真理をついた言葉だ」

「おっさん、誰だよ!?」

「私は教授だ」

(女に向かって)

若い時は、なんでもすぐこの世の終わりみたいに思えちゃうもんなんだよ。この先これからも泣く事があるかもしれないけど必ず出会える。君だけを愛してくれるふさわしい男に。

「そうなんですか?」

「と、『セブンティーン・アゲイン』でザック・エフロンが言っている」

「あのザックが、、」

掴まれた腕の力が緩む。

「そうだ、それとな。誰かを愛して誰かを失った人は、何も失っていない人よりも美しい。

「はい」

女の声が艶めく。

「と、『イルマーレ』で確かキアヌ・リーブスが誰かに言われていた」

「なんだ全部、映画の受け売りじゃねえか!せめて言った誰かを特定しろよ!」

腕から手が離れる。

もはや腕は紫から黄土色になっている。

女の瞳が輝いている。

中年はいきなりバッと青年を指さし

奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です!

「『カリオストロの城』じゃねえか!」

気にも介さず女に向かって

よければ一緒に来ないか?先のことは約束できないが、それなりに楽しいはずだ

と女にすっと手を差し出した。

女はそのポテト🍟で脂ぎった手に一瞬怯んだが

青年に軽蔑に満ちた眼差しで一瞥して

男の手を取った。

「じゃあ、いこうか」

「はい」

目を潤ませた女は立ち上がり

教授についていこうとする。

「ちょ、ちょ、何この展開!?」

「ちなみにさっきの言葉は『ギター弾きの恋』でショーン・ペンが言っている。ウディ・アレンの映画は恋愛のバイブルだよ、君」

「ウディ・アレン、不倫とセクハラで干されてるじゃねえか!」

「そして青年、彼女しかいないと思うだろうが、私は思わない。今は思い出がいっぱいでも振り返ってみればいい

「それ『(500日)のサマー』!」

(女に向かって)

君はとてもすてきだ。とても特別な女性だよ

「それ『プリティ・ウーマン』!おっさん、リチャードギア気取りやめろ!」

「劇場員の諸君、邪魔したね」

教授と女はすでに腕を組んでいる。

女の耳もとで

「昔、ある哲人が言った言葉がある。

’私以外 私じゃないの’ 

あなたはこの世で たったひとりだけだよ」

「それ”ゲスの極み乙女!”の曲じゃねーか!映画ですらないし、しかもベッキーと不倫中の歌!」

教授と女は手を携え、劇場を出て行った。

「あの、時間ないんでポテトのカス拾ってもらっていいすか」

「あ、、すいません」

男はシートにこびりついたポテト🍟をつまみ始めた。

気づくと涙が流れていた。

涙はいつまでも止まらなかった。

「俺たちもう終わっちゃったんですかね、、」

「てか、始まってもなかったんじゃないすか」

「『キッズリターン』!!」

2人は思わずハモって照れ笑いして

そっと目を逸らした。

「愛って何なんですかね、、」

「わかんないす、次始まるんで出てもらっていいすか?」

男は立ち上がることができなかった。

もうとうの昔に膀胱は限界に来ていた。

「愛ってなんだよ、、」

最後まで男にはわからなかった。

男は静かに目を瞑った。

失ったものはもう二度と戻らない。

ただなぜだろう

この解き放たれた感覚。

男は柔らかな笑みを浮かべていた。

それはまるで羊水に包まれたような

湿った心地よさだけが男を包んでいた。


後日、男はこの劇場を出禁になった。


天豆エッセイ詩小説11
「愛がなんだ」と聴かないで。気まずいふたりの愛の行方。

前の話にも教授出てるよ😍笑


おまけだよ😍 
天豆の愛の詩

女性はその男性にとっての陰りのない1番であることが大切😍恋はどちらかの好き優位で始まるのが当たり前。でもそこに人としての深い敬愛と尊重があるかどうか😍そこ 深くハマる前にちゃんと 見抜いてね。  天豆 てんまめ

相思相愛Love😍

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