見出し画像

映画「湯を沸かすほどの熱い愛」を巡る2つの奇跡と愛について

今日、これから語る話は

今から3年前と6年前に

私と家族に起きた

2つの小さな’奇跡’の話だ。

3年前の小さな奇跡は

2020年5月、コロナ禍でStayHomeの日々に起きた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日、3年越しの念願叶って妻とこの映画を観た。

3年前から私がどうしても見て欲しいと妻に言っていた。

この数十年で一番心揺さぶられ、一番涙が止まらなかった作品だ。             

(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

でも妻は相当頑固なので

自分のタイミングが来ないと

一切振り向くことはない。

ただ、コロナ禍のStayHomeの日々の中、

妻と一緒にいる時間が増える中で

ある日「観てみない?」

とさらりと言ってみた。

返事は予想していた。

「気が向いたらね」

3年間言われ続けてきた言葉だ。

でも今日、急に前触れもなく

「なんか今日気分がいいから観てみようかな、あの映画」

と、ぽそっと妻が呟いた。

これを逃したらまた

次の3年後を待たなくてはならない 笑

そしてついに私は妻と一緒に

この映画を3年ぶりに観ることにした。

それから時が止まったように

一言も交わさずに

2人でただ涙を流した。

妻は涙を拭うこともなく

微動だにせず映画を観ていた。

ピラミッドの場面では2人で嗚咽してしまった。

終わってからしばらく経って

「どうだった?」と聴くと

妻は泣き腫らした顔で一言

「良かったよ」と呟いた。

妻は涙を流していたけど、

なぜか笑っているように見えた。

それ以上は聴かなかったけど

今日はなんだかとても幸せだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回はあえて

初めて劇場で観た時に、滂沱の涙が止まらず

暫く席から立つことができなかった

あの時の感動と衝撃を受けた数日後に

想いのままに書いたレビューを

この後に掲載させて頂きます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

この映画には賛否があるのは知っています。

母の極端な愛情の表現やその手段

泣かせ要素の多いストーリー

そして衝撃のラスト。

でも私にとってはそれを全てふまえても

彼女のとった愛の方法が間違っていたとしても

あの状況下における洪水のように溢れた愛の大きさと

家族と向き合う覚悟に自身が問われた気がしたのです。

だから初めてこの映画を観た時から今も全く

あの感動が色褪せることはありません。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そして、この後掲載するレビューには

一つ後日談があります。

この映画への溢れんばかりの想いが通じたのか

この映画を初めて劇場で観てから3か月後

2017年1月31日。

今から6年前ですが

私にとっては宝物のような

ちょっとした奇跡が起こりました。

私は当時ある地方のミニシアターの

番組編成マネージャーをしていました。

地域に愛されて、想いのこもった

素晴らしい映画館でした。

ただ劇場経営としては経済的な困難もあり、

私も番組編成担当としての責任も感じて

前年の年末に、退職を申し出て

映画業界から別の道に進むことを決断していました。

そしてその映画館の最終出勤日に

リバイバル上映されたのが

「湯を沸かすほどの熱い愛」でした。

その映画をブッキングしたのは、

私がこの映画を好きなことを知らぬ

後任のマネージャーだったので

人生、不思議なことはあるものだと

つくづく思いました。

そして私はオープンから3年間、番組編成を行ってきた

最愛の映画館で過ごす最後の1日に

中野量太監督に会って

直接ご挨拶と御礼を言うことができました。

そして舞台挨拶の後、

この後掲載する映画レビューを印刷した紙を

ぶしつけにも監督にお渡しさせて頂きました。

中野監督はその場で読んでくださって

そしてにっこりと柔らかい笑みで

一言、ありがとうと言われました。

その後、監督と2人で写真を撮ったあの時。

それまで十数年にわたって映画という夢を追いかけ続けて

大手映画会社のプロデューサーから

ミニシアターの番組編成マネージャーまで

映画業界でさまざまな仕事をした

最後の瞬間でした。

あれから6年が経ち

もし、もう一度

映画の世界に戻ることがあるならば

私はこの「湯を沸かすほどの熱い愛」の感動とともに

リスタートするつもりです。

あの時の奇跡に感謝を込めて

映画「湯を沸かすほどの熱い愛」レビュー


涙を多く流した映画が、傑作だとは限らない。

ただ、この映画は紛れもなく傑作であり

私の人生でおそらく最も涙を流した映画となった。

決して不幸を嘆くお涙頂戴だとは思わない。

あまりにも強い愛

あまりにも強い生きる力に心が震え

何度も涙が溢れてしまう。

物語はシンプルだ。

末期がんで余命まもなく死にゆくお母ちゃん=宮沢りえが

残りの時間に家族に何をすることを決断したのか。

失踪した夫を連れ戻す。

銭湯を再開させる。

いじめに遭っている娘に立ち向かう勇気を伝える。

そしてより重い決断をもって、家族に向き合ってゆく。

とにかく宮沢りえ扮する双葉=お母ちゃんの存在が凄まじい。

長い彼女の役者人生を全て詰め込んだような

圧倒的なエネルギーで迫ってくる。

決して綺麗ごとでも優しさだけでも済まされない

家族に対する厳しくも深い愛情に

「そこまで、あなたは、家族と向き合えますか?」

と痛烈に問われた気がした。

家出中の夫にオダギリジョー。

情けないながらも妻を想う気持ち。

何にも行動できない彼が絞り出す愛情表現が

これまたたまらなく胸を突く。

そして娘の安澄を演じた杉咲花があまりに素晴らしい。

「私は最下層の人間だから……お母ちゃんとは全然違うから……」

陰湿ないじめを受けている彼女の痛みが

苦しいほどに伝わってくるが

母親の双葉の、娘に対する容赦ない態度が

様々な想いをこちらに呼び起こす。

何が正解かわからない。

ただ、本気でぶつかりあう母と娘の姿に心震え

そしてまた予想だにしない行動に出る

安澄の必死の勇気を絞りだすシーンには

滂沱の涙が止まらなかった。

杉咲花は新人賞ではなく全映画部門の助演女優賞に足る

素晴らしい演技だと思った。

稀有な運命で双葉の元にやってくる

鮎子役の伊東蒼も素晴らしい。

母の愛を求め、焦がれる彼女の姿は

もう涙無くしては見られない。

彼女のシーンだけで

コップ1杯分いったかもしれない 笑

中盤のロードムービー的展開の先にも驚きが待っているが、

それは映画をぜひ観て欲しい。

人と人との繋がりというよりも

人と人と真正面からぶつかり合った上で

思いきり抱き締める愛の大きさ。

「ああ、こんなに心から人と向き合ってきただろうか……」

と胸が苦しくなった。

そして彼女が弱り果てていきながら

命の灯火が仄かに輝く姿はもはや演技を超えていて、

涙と鳥肌が止まらなかった。

中野量太監督が今後

日本映画の王道を牽引する一人の監督となることは間違いない。

自身で脚本を書きメジャー配給でもなく

その物語の強さで宮沢りえが新人監督の作品の出演を決め

中野量太監督は、彼女を含めた全役者から

真実を感じさせる生の感情を引き摺り出した。

印象的なシーンを創り上げる映像センスも素晴らしい。

この物語をどうしても届けたいという

熱く一貫したぶれない姿勢でたどり着いた奇跡に

感嘆の意を感じざるを得ない。

観終えて数日経っても

一文字もレビューが書けなかった。

どんなに言葉を弄しても

この映画に詰まった想いの熱さは

とても表現できそうにない。

ただ、本当にこの映画は観て欲しい。

私は一人で観たけれど

できれば大切な人と

そしていまだに心の底に

じわじわと暖かく燃えている炎は

決して消えそうにない。

愛を出し惜しみして


この世を去りたくはない。


しっかり生きねば


心底そう思った。




この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?