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その他の画数問題:「かな」の数霊

●「かな」の画数も流派によって違う

字画数で姓名の吉凶を判断する数霊法では、かな にも数霊が宿るとされます。かな の数霊も、漢字と同様、字画数でわかるそうです。たとえば、「い」は2画なので、 2の数霊が宿っていると考えられているのです。

漢字の場合は新字体と旧字体があり、同一の漢字でも流派によって字画数が違います。かな はどうでしょうか。漢字に比べると、流派の違いは少ないですが、無いわけではありません。

下表は3人の占い師(A~C氏)が「お、そ、て、ぬ、る」を何画とみなしているか比較したものです。姓名判断の本を15冊ほど調べた結果ですが、けっこう違いますね。詳しく調べれば、もっと見つかりそうです。

漢字の場合もそうですが、かな も書く人により筆画数は変わってきます。「て」はサラサラと書けば1画になりますし、「そ」もギクシャクと書けば4画になります。「どれが正しいか」ではなく、「どれも正しい」ということでしょう。

ただ、姓名判断の利用者(鑑定依頼者)からすると、こういうのは困りますね。

●五十音に数を割り当てる流派(1)

そうかと思うと、かな の五十音にあらかじめ数を割り当てている流派もあります。この流派では、かな はこの変換表にしたがって、文字に潜む数霊を求めることになります。これらの数は明らかに画数ではありませんが、どうやって求めたのか不明です。

『撰名通解』(西純著、大正元年〔1912年〕)[*1]

●五十音に数を割り当てる流派(2)

大正~昭和にかけて活躍した古神道家の友清歓真氏も、『名霊なのたま通』にこれと似たような五十音と数の対応を記しています。

『名霊通』(友清歓真著、大正14年)[*2]

『名霊通』は一種の姓名判断書ですが、あらかじめ五十音に数を対応させるところは先の流派と同じでも、対応する数はまったく異なります。[注1]

ちなみに、友清氏からこの秘伝を受けたらしい霊術家の松原皎月こうげつ氏は、『霊御綱ひのみつな』のなかで、次のように書いています。

『何だこりぁ、アオウエイの順次番号じゃないか』と早呑み込みをせぬように願いたいのであります。この言霊に添う数霊が実に神秘至上の働きをするものであって、・・・凡眼で見たなら何の変哲もないと思うものが、心眼を一度開けば、実に光彩まばゆき大神秘なのでありまして・・・。(漢字・かなを現代表記、句点を追加)

『霊の御綱』(松原皎月著、昭和10年)[*3]

しかし、どんなに目を凝らしても、凡眼の私にはただの数列にしか見えません。修行が足りない、ということなのでしょう。

●「かな」を漢字変換する流派

女性の名前にはかな がしばしば用いられますが、平がなを漢字やカタカナに置き換える流派があります。この流派では、置き換えた漢字やカタカナの画数で姓名判断するのです。

漢字の場合、新字体を使っていても、旧字体に置き換える流派があるくらいなので、かな の画数を字源(もとになった漢字)に求める流派があるのも肯けます。

しかし、かな  には「変体がな」 という異体字(読み方は同じでも、字体が異なる)があって、その字源も単一ではありません。そば屋さんの看板などで、ニョロニョロした奇妙な文字を見たことはないでしょうか。あれがそうです。

「生(き)そば」の看板の例

明治33年〔1900年〕に文部省(当時) がかな の字体を統一するまでは、小学校でさえ複数の平がなを教えていたそうです。なんと、「そ」 と「は」 には、それぞれ3種類ずつの平がなが教科書に載っていたのです。[注2-3]

ということで、かな の字源で画数を求めようにも、ひとつに決められないのです。『草仮名・仮名の字源』(佐藤宣男著)には、次のように書いてあります。

平仮名の字源について、必ずしも見解の統一があるわけではない・・・。同一資料の同一文字についてさえ、個人的に見解の異なる場合が現れる。しかし片仮名に比べれば、まだ研究が進んでいるといえる。

『草仮名・仮名の字源』(佐藤宣男著)[*4]

下表を見てください。例として、「あ、か、さ、た、な」の五文字を抜粋しましたが、平がなにはこんなにたくさんの字源があるのです。

 あ 安、阿、惡、愛
 か 加、可、閑、我、駕、賀、鹿、嘉、香、荷、歟、歌、何、家、佳、
           哥、下、河、霞、蝦
 さ 左、佐、散、斜、乍、沙、作、差、狭、裟
 た 太、堂、多、當、唾、田、對、嘸、他
 な 奈、那、難、名、南、菜、曩、無

「あ」から「を」までの字源の個数を数えてみると、最少で4個、最多で20個、平均して8.6個です。かな の字源にさかのぼって画数を求めようとするのが、いかに無謀かわかるでしょう。

●カタカナの起源は神代文字か?

それでも「平がなはカタカナより、まだまし」とのことで、間違ってもカタカナの字源を探ろうなどという気は起こさないことです。中には「超古代の神代文字こそカタカナの字源だ」とする説さえあります。

「漢字伝来以前に日本固有の文字はなかった」というのが通説ですが、必ずしもそうではないようです。現に日本各地の神社には、神代文字とされる奇妙な文字が書かれたお守り札などが伝えられているそうです。[*5-6]

古代史に詳しい吾郷清彦氏の研究によると、いわゆる神代文字は100種類以上もありますが、そのうちのひとつ「豊国とよくに文字」の一部は確かにカタカナとよく似ています。

豊国文字(新体象字)
『神代文字が明かす日本超古代史の秘密』(高橋良典著)から転載[*6]

カタカナは平安時代の初めに吉備真備きびのまきびが漢字の一部をとって作ったとされますが、この神代文字がもとになっている可能性もあるようです。

というわけで、うかつにカタカナの字源問題に近づこうものなら、神代文字論争にさえ巻き込まれかねないのです。幸い、調べた限りでは、カタカナの字源で画数を取る流派はありませんでした。

========<参考文献>========

[*1] 『撰名通解』(西純著、大正元年〔1912年〕)
[*2] 『名霊通』(友清歓真著、大正14年〔1925年〕、『友清歓真全集』所収、八幡書店)
[*3] 『霊の御綱』(松原皎月著、昭和10年〔1935年〕、『神伝霊学奥義』所収、八幡書店)
[*4] 『草仮名・仮名の字源』(佐藤宣男著、『漢字講座4』所収、明治書院)
[*5] 『日本神代文字研究原典』(吾郷清彦著、新人物往来社)
[*6] 『神代文字が明かす日本超古代史の秘密』(高橋良典著、『日本超古代文明のすべて』所収、日本文芸社)

=========<注記>=========

[注1] かなの数霊
 かなの数霊について、『名霊通』には次のように書かれている。
「さて女子の仮名で書いてある名の数霊をみるには、・・・この言霊盤(ことだまばん)によらなければならぬ・・・。」

『名霊通』(友清歓真著)[*2]

[注2] 『小学読本 初等科』(明治17年9月)の一部
 「そ」と「は」の下には2種類の異体字が付記され、しかも「そ」は異体字のほうが主になっている。

『草仮名・仮名の字源』(佐藤宣男著)[*4]
『草仮名・仮名の字源』(佐藤宣男著)から一部転載

[注3] 「そ」と「は」の変体仮名
 「そ」と「は」には、上記の他にも、こんなにたくさんの変体仮名があるようだ。

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