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【短編小説】遊生夢死
目を開けると、そこは荒廃した自身の職場だった。
柱の面影や机の残骸には見覚えがあった。天井は無く、壁も吹き飛ばされたのか、ひどく風通しが良くなっている。ドアや窓も当然無く、辛うじて残った観葉植物が虚しそうに風に靡いていた。
おそらく4階フロアだった。自分はソファに腰掛けており、周りの損壊具合を見ると奇跡的な残り方だった。脚一本くらい無くなっても然るべし、という状況で、安っぽい革のクッショ
高忠智、オオサカにて【サタスペ創作】
釈迦は、生まれたときに母親を亡くしたというけれど。
そういう意味合いでは、オオサカには釈迦候補がたくさんいる。なんとも不謹慎で、不純で、冒涜的な話ではあるけれど。
母への愛、母からの愛を求めて。それと同時に、それが失われる恐怖も抱えて。
高忠智もそのうちの一人だった。ただ、釈迦になるには生まれながらの才能が足りないので、彼は仏陀にもなれなかったし、転輪聖王にも勿論なれなかった。
「でも分か
【小説】ユビキタスとスピリタス-3・終
彼女(ユビキタス)もやはり駄目だった。
他のアンドロイドの例に漏れず。その完成された貌が、会社の体系に多少なりとも影響をもたらした。
スピリタス——例の男以外にも、彼女に興味を示した社員は数名居た。流石に、スイーツパラダイスに連れて行ったのは彼だけだが、言い寄ってきたり、見ようと職務を放棄したり、それなりに可愛らしい弊害が生じた。
時間が経って、職場にユビキタスが馴染むようになって、あか
【小説】ユビキタスとスピリタス-2
会社員——厳密にはアンドロイドだが——彼女を誘うのに、男は日を選ばなかった。平日の白昼堂々、お互いにスーツのままで甘味と暴食の楽園に殴り込んだ。彼らの姿を見て、店員は一瞬不思議そうな顔をした。場と時間との親和性の無さ、それから、片方が機械であることからであるのは、男にも手に取るように分かった。
「別に、君のせいではないよ」
席につくなり、男は彼女に言う。
「いかにアンドロイドが普及した現代で
【小説】ユビキタスとスピリタス–1
会社にアンドロイドがやってきた。
事務作業を主として、書類作成だとか、経費計上だとか、いわゆる「機械的」な仕事を請け負ってもらう。PC作業はお手のものだし、何より機械であるので、そういう作業にはうってつけだった。人間がやるよりも適任というものである。
問題は、そんなことのために、どうして「躯体」が伴わなければならないのか、という話であって。
「どうしてそこまで美女なのですか」
総務部フ