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アペリティーヴォのすすめ

ヴェネツィア名物の食前酒APERITIVO=アペリティーヴォといえば、
白ワインベースのカクテル、SPRITZ=スプリッツ。
明るい赤色のお酒は日々の暮らしの楽しいアクセントです。

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ヴェネツィア暮らしのアクセント

食事の前の軽い一杯、アペリティーヴォはヴェネツィア人にとってなくてはならないものとして町歩き=パッセジャータとセットになっています。
ヴェネツィア暮らしの昼食は午後1時くらい、夕食は夜9時くらい。
マンマと一緒に夕食前はもちろん、お昼の前もアペリティーヴォ。
市場へ買い出しの帰り道や、近所の店でパンや野菜の追加、はたまた
食事用のワインの量り売りなど、ちょっとした買い物を済ませたら、
バールに駆け込み一杯です。
これでひと息ついてから、急いで帰って食事の支度に取りかかるのです。
なじみのバールに行けば、そこには必ずといっていいほど顔見知りが
いるので(もっとも店の主人自体とも親しいのですが)、カウンターに
置いてあるパタティーナ(ポテトチップス)やノチ・アメリカーネ(ピーナッツ)などをパリパリつまみ、スプリッツを飲みながらひとしきりのおしゃべりとなります。
毎日のように顔を合わせているから、別段これといった目新しい話題があるわけでもなく、まあ挨拶のようなもの。
なかには表通りで網を張って知り合いが通りかかるのを待ちかまえ、何軒もバールをはしごする飲んべえもいるけれど、長居は野暮、さっと一杯飲んだらひきあげるのがヴェネツィア流です。
バールで一杯飲るのは男たちだけではありません。
夫婦揃って出かけることもあるし、マンマのような年配のシニョーラたち
にもちゃんと行きつけのバールがあって、アペリティーヴォとおしゃべりを日々の楽しみにしています。暮れゆく夕空を眺めながらならばまた格別。
誰もがこのひととき、スプリッツ・タイムをこよなく愛しているのです。

バールでの一杯はもちろん、おうちアペリティーヴォも楽しいものです。
ヴェネツィアの家でも、食事の前にスプリッツを飲みながら食卓の用意を
することも。誰かの家に立ち寄って一息つくときも、やっぱりスプリッツ。
アペリティーヴォは楽しいアクセントとして、暮らしにしっかり根づいて
います。

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*いつものバールで3人3様のスプリッツ。パタティーナ(ポテトチップス) は食べ放題のサービスです。

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アペリティーヴォの定番スプリッツ

アペリティーヴォの定番スプリッツは、ヴィーノビアンコ(プロセッコなら最上等)にガス入りミネラルウォーターとリキュールを加えたカクテル。
バールではカウンターに並んだカンパリ、アペロール、チナールなどの
リキュールを選んで注文します。
一番アルコール度数が高いのは、その苦味からビッテル(BITTER)とも
呼ばれるカンパリ、その次がアーティチョークのリキュール濃い褐色の
チナール(CYNAR)、最も度数が低くマイルドなのがアペロール(APEROL)で、そのオレンジがかった赤い色はスプリッツの代名詞の
ようです。
ピックに刺したオリーブをひとつ、好みでレモンの一切れを加えることも
あります。カクテルといっても、ワインベースに水とほろ苦いリキュールを
加えた軽い飲み物なので、パニーニやトラメッツィーニ(ヴェネツィア名物の具沢山のサンドウィッチ)にもよく合います。
マンマのお気に入りはビッテル、イサオ君はチナール、私はアペロール、
と、いつも3人3様の注文でした。


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おうちでアペリティーヴォ


さて、近所にバールのない東京暮らしの我が家では、もっぱら
「おうちアペリティーヴォ」です。
お昼のパスタやパニーニと一緒に。あるいは、まだ少し明るさの残る夕方、食事の支度をしながらスプリッツタイム。
おもてなしの時なら、来た人から順にスプリッツを立ち飲み、おしゃべり
しながらみんなが揃うのを待ちます。
カウンターにカンパリ、アペロール、チナールなどのリキュールを並べ、バールよろしく注文に応じてスプリッツを作ります。
お酒があまり飲めない人も、アルコール分を少なく薄めに作れば、みんな
と同様に楽しめます。
アペリティーヴォ用のグラスは、イタリアの古道具市で見つけたデッド
ストックのノベルティー。リキュールの宣伝用に作られたものらしく、
ロゴ入りなのがバールっぽくて気に入っています。
小鉢にオリーブやクラッカーなどを盛り合わせてつまみにしたり、
もうちょっと小腹をふさぐにはプロシュットやフォルマッジオを添えて。

食事会の時は必ずメニューを用意することにしています。
アペリティーヴォにはじまり、アンティパストからプリモ、セコンド、
コントルニと順々に出していく料理の、今どのあたりなのか分かって
いれば、お腹の加減を調節しながら食べることができるからです。
プリモピアットを食べ過ぎて、後が入らなかったということのないように。このメニューを見つつ、あれこれ解説しながら盛り上がるのも
アペリティーヴォの楽しみ方のひとつです。

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「食前酒」などというと、なにか特別でフォーマルな感じがするかもしれ
ませんが、むずかしく考えず気軽にやってみてはいかがでしょう。
気ぜわしくあわただしかった時間が急にゆったり流れていくようです。
一杯のアペリティーヴォは、人生の楽しみ方を知るヴェネツィア人の知恵。
すぐにでも始められるヴェネツィア的生活です。


デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。