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横歩取り45角戦法って、美味しくない?

 表題は個人的な感想なので、違うと思う人はスルーして下さい(笑)。

 美味しいと言っても、45角戦法をやって美味しいと言う意味ではありません。
 やられて美味しいと言う意味ですね。


テーマ図

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 テーマ図は、横歩取り45角戦法をやられると、一番多く指されている変化です。
 将棋実況系のユーチューバーであるSugarさんが得意にしているせいか、ウォーズをやっていると結構な頻度でこの局面になります。


 なお、テーマ図の一手前に33桂として、36香 66銀とする変化や、テーマ図から77馬と引く変化については、

 こちらの動画に詳しく載っていますので、興味がある方はご覧になって下さい。


テーマ図からの指し手
87同金(1図)

1図

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 今話は、1図の87同金について詳述いたします。

「タダの所に打たれた銀を取って、何故悪いの?」
87同金は、そういう超素朴な一手なのですが、長らく指されてきませんでした。
 それは、77馬と引くのが定跡だからで、モノの本には大抵77馬が推奨されていたからです。

 ですが、ソフトで研究する時代になり、見直されたのが87同金でした。
 ソフトは取って先手が良いと示しているんですね。

 このことをいち早く言っていたのは、将棋実況系ユーチューバーの元祖とも言える、クロノさんでした。


 まあ、昔の定跡書にも87同金自体は出てはいたのですが(たしか、「横歩取りは生きている」に詳述されていたと思います。「横歩取りガイド」ではそれほど推奨されていなかった印象があります)、ソフトはどれくらい優秀かも数値でしめしてくれますので、従来の77馬と同等の数値な87金が注目されたんですね。


1図からの指し手
69飛 69香 67角成 58銀 89馬(2図)

2図

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 2図までは、87同金と取れば、ほぼ一直線の変化です。
 先手は駒得ですので、手堅く玉の周りに受け駒を配し、ジックリした局面に持ち込もうとします。

 後手としては、出来れば87の金を取るような変化にしたいのですが、下手に89馬で78馬などと指すと、すかさず88金と使われてしまい形勢を損ねますので、2図まではお互いに順当な手順と言えます。


2図からの指し手
48玉(3図)

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 2図では48玉が本筋の一手と言えます。

 69香、58銀と、玉の安定を目指したのですから、さらに48玉と上がって飛車の利きから避けておく意味です。

 48玉と上がっておくと、何かの時に63香成とすることも出来ますので、攻防兼備の一手でもあるんですね。


3図からの指し手
33桂(4図)

4図

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 33桂は、63香成の時に66桂を作るために11の馬の利きを遮断した意味です。
 実際に63香成と成ると、45角戦法側の狙いにはまりますので、先手もすぐには香を成ることが出来ません。

 3図では、33桂以外に78馬も考えられます(これもあるが……図)。

これもあるが……図

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 78馬は桂を拾ってから69馬と87金を両天秤にかけた手ですが、ここで香の方を逃げながら後手玉にプレッシャーをかける63香成が好手で、先手が良くなります。
 以下、87馬なら62歩(先手理想的な展開図)がシンプルながら痛打です。

先手理想的な展開図

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 馬が87にいる関係で、62歩の取り方が難しいのです。
 ですので、48玉には後手も33桂と一回力を貯めますが……。


4図からの指し手
22歩(5図)

5図

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 22歩は知らないとちょっと打てない歩だと思います。
 横歩取りでは常用の手筋ではありますが、一見すると遅そうな手に見えますから。

 しかし、22歩に78馬のような手なら、21歩成 69馬 同銀 同竜 31と(と金の遅早図)の時に、後手は31金と取りにくいのです。

と金の遅早図

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 31同金には、58銀が手堅い一手。
 99竜には王手竜がありますし、他の逃げ場所もパッとしませんので先手が優勢です。

 かと言って、31とに手抜いて58銀のような手には、以下、同金 66桂 59銀 58桂成 同銀 29竜 39銀打 38歩 41飛 62玉 64歩 39歩成 63歩成 同玉 61飛成 62歩 18角 同竜 64歩 54玉 18香(長手数だが変化があまりない図)で先手の勝ちになります。

長手数だが変化があまりない図

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 図の局面は後手から先手玉に旨い詰めろが掛かりません。
 かと言って、後手玉が先手の包囲網を抜けるのも困難ですから、見た目以上に分かりやすく先手が勝っています。


5図からの指し手
23馬 21歩成 42銀 25歩(6図)

6図

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 後手の23馬と42銀は手順前後が可能ですが、どちらにしても先手の方針は変わりません。
 と金を作って22とを狙うことです。

 23馬は22とを防いだ意味です。
 22とを防ぐにはこれしかないと言う手ですが、本来なら先手玉に襲い掛かりたいところを受けに回るのでは、後手の方針が旨く行っているとは言えず、逆に先手は自玉が安泰なので焦って攻める必要がないので、すでに先手が有利と言っても良いと思います。

 ですが……。
 実戦でこの程度の形勢差はすぐにひっくり返されてしまいますので、ここから数手の指し手が先手にとっては大事な意味を持つことになります。

 23馬に25歩がまたまた好手です。
 この歩は取れません。
 25同歩には24歩を利かしてから22とがありますし、25同桂には88馬と引いて飛車が殺されてしまうからです。


6図からの指し手
14歩(7図)

7図

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 14歩は、Sugarさんが指した一手です。

 この14歩には深い意味があるのですが、その辺の事情については次図で示します。

 14歩に替えて、78馬と攻め合う手や99飛成と香を取る手も考えられますので、順に見ていきましょう。


14歩で78馬の変化

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 78馬は防御を諦めた一手です。
 つまり、後手は攻め合うつもりでいます。

78馬からの指し手
22と 同金 同馬 69馬 同銀 同飛成(A図)

A図

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 78馬とすればA図までは一本道です。
 途中、22とを手抜くと32とが無茶苦茶厳しくなりますので取るしかありませんし、69馬で87の金を取る87馬は、21飛 31歩 同馬で、先手の攻めが加速するので、やはり成立しません。

A図からの指し手
23馬(B図)

B図

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 B図の23馬はこの一手です。
 他の手は悪くなりますので、こう指すよりありません。

 23馬の意味は、
「41飛を狙いつつ、78の地点に利かして78竜の王手金取りを防いだ」
攻防兼備の一手になります。


 B図で、後手に色々と手段が考えられますが、44香と攻め合いを目指すのは、59金打 99竜 41飛 52玉 62歩(痛打図)で、先手優勢となります。

痛打図

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 普通はここで51金と寄って受かりそうなものなんですが、この場合は同飛成で詰んでしまいます。


 44香は41飛が厳しかったので、62玉と予め当たりを避けておく手も考えられます。
 62玉には12飛 52金(32歩は同馬)に41角が詰めろで、これも先手が勝ちです。
 41角に51金と受ける手には、32角成(抵抗しても寄り図)で先手の攻めが受かりません。

抵抗しても寄り図

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 62玉とかわすのもダメなので、41香と埋める手も考えられますが、それには32金と露骨に打ち、52銀 11飛 31歩 42金 同玉 31飛成 51玉(竜を取るのは詰み) 58銀(やはり先手勝ち図)で、先手が勝勢となります。

やはり先手勝ち図

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 単純に41の地点を埋めて守るのはダメでしたので、今度は32歩と技を使ってみますが、以下、同馬 41銀 23馬 26香 62歩 同金(同玉は41の銀が取れる) 83歩 71銀(83同銀は81飛で後手収拾困難。また、28香成は59金打 99竜 82歩成で先手勝勢) 59金 99飛成 77角 79竜 21飛 31歩 33角成 同銀 31飛成(先手会心の寄せ図)で、先手が勝勢となります。

先手会心の寄せ図

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 他にも手段はありますが、14歩と突くところで78馬の攻め合いは、何れも先手が勝勢になりました。

 ですので次は99竜を調べてみましょう。


14歩で99竜の変化

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  99竜は24歩を突かせる間に香を取り、それから攻め合う方針です。

99竜からの指し手
24歩 78馬 22と 同金 同馬 69馬(C図)

C図

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 先手は24歩と取り込み、予定通り22とと金を取りに行きます。
 そして、69馬に23歩成が強手。
 58馬とされても攻め勝っていると言う判断です。

C図からの指し手
58馬 同金 66桂 33と 58桂成 同玉 49銀 67玉 68歩 58竜 56玉 54香 46玉 28竜 42と(即詰み図)

即詰み図

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 42と以下は、62玉 52金 72玉 83銀 同玉 95桂で、あとはどう逃げても簡単詰みです。



再掲7図

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 14歩で78馬や99飛成の攻め合いは、先手の勝ちが結論でした。
 つまり、22との方が後手の69馬からの攻めより早いと言うことです。

 ……で、攻め合いが負けなので、14歩として24歩に13馬を用意した意味なんですね。

 ただ、14歩の瞬間は後手に攻める手段がありませんので、ここで着実な攻めが決まれば1図の87同金で先手が良いことになります。

 つまり、テーマ図の87銀と打った手の局面の結論が出ると言うことです。

7図からの指し手
83歩 71銀 84飛(8図)

8図

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 83歩に同銀は、24歩 13馬 82歩が巧妙な手順でリードを拡げます。
 以下は99竜 81歩成 86歩 82と 87歩成 81飛(81飛が早い図)で先手勝勢となります。

81飛が早い図

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 こういう手順に進むと、後手は13の馬が遊んでいるのが痛いです。
 だからと言って、83歩 同銀 24歩に78馬の攻め合いは、以下、22と 同金 同馬 69馬 同銀 同飛成 32馬 41銀 同馬 同玉 58銀 99竜 32金(好手!図)があります。

好手!図

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 32金に同玉は、23角 21玉 41飛以下、61金を取る手があるので寄りです。

 なので、32金には玉が逃げる一手ですが、51でも52でも42金と銀を取り、62玉と逃げるのには82飛 72銀(72角は、84歩 同銀 83銀 71玉 52角で寄り) 52銀 71玉(同金は、同金以下詰み) 83歩 62金 92飛成 83銀 同竜(見事な必死図)で必死となります。

見事な必死図

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 と言うことで、42金には同玉の一手。
 ここで先手は23歩成と後手玉にプレッシャーをかける(寄るか?図)。

寄るか?図

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 ここで後手には二つの選択肢があります。
 51玉の早逃げと32歩と打って受ける手です。

 まず、51玉には、77角 79竜 33角成 62玉 43馬と進めます(ここまでは一本道図)

ここまでは一本道図

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 ここまでは一本道図は、54桂 同歩 53銀 72玉 61馬以下の詰めろになっていますので、後手は受けるしかありません。

 しかし、52金打は、同馬 同金(同玉は、32飛 42歩 44桂で寄り) 82飛が厳しく、先手勝勢となります。
 なので、受けるなら52香や72銀になりますが、52香には64歩 同歩 63歩 72玉 62銀 66桂 61銀不成 82玉 62飛 72香 95桂(後手受け無し図)で、やはり先手が勝勢ですし、72銀には32飛 52香 54桂 同歩 53銀 71玉 52銀成(これも受け無し図)で、先手が勝勢となります。

後手受け無し図

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これも受け無し図

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 ……と言うことで、51玉の早逃げには77角以下先手が勝ちが結論です。

 もう一つの32歩(最後の手段図)には、31角が厳しい追撃となります。

最後の手段図

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 31角以下、51玉 53角成 52金打 31飛 41香 52馬 同玉 32飛成 42香打 33と(先手分かりやすい図)で、後手から先手に迫る早い手もありませんし、先手からの攻めも途切れませんので、先手が勝勢に近い優勢です。

先手分かりやすい図

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 7図の83歩に同銀の変化は、色々な手順があってもやはり先手が勝ちになりました。
 と、言うことで、83歩には71銀と引くしかありませんが、ここで84飛が狙いの一手で8図となります。

再掲8図

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 84飛は限定打です。
 狙いは、82歩成と24飛。
 順に調べてみましょう。


8図からの指し手①
78馬(9図)

9図

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 しつこいようですが、ここでも78馬があります。
 しかも、今度は飛車を手放しているので、先手が敵陣に飛車を打って攻める手段がありませんので、攻めに細心の注意が必要となります。


9図からの指し手
22と 同金 82歩成 69馬 同銀 同飛成 71と 同金 22馬(10図)

10図

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 22と 同金を利かしてから82歩成とするのが巧妙な手順です。
 22の金が逃げられないのを見越しています。
 たとえば12金と馬に当てるのは、71と 同金 63香成 52桂 12馬 同馬 32金(見越している図)で、次の81飛成や72銀が受けにくく先手勝勢です。

見越している図

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 よって、10図に至るまでは必然の手順となりますが、ここでまた後手に幾つかの選択肢があります。

 まず、10図で82香は、以下、24飛 27歩 同銀 87香成 58銀 99竜 66角 89竜 33角成 同銀 同馬 62玉 22飛成 52香 51銀 61玉 84桂(先手は玉形が堅く無理が利く図)で、後手はほぼ必死です。

先手は玉形が堅く無理が利く図

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 10図では他に44香も考えられますが、以下、58銀 99竜 77角 89竜 88金 79竜 78金打 49竜 同玉 82香 32馬 52銀 21飛 41金 同馬 同銀 61金 52玉 71金 84香 61金 99飛 48玉 51銀 89金打 88香成 同金右 89飛成 51金 同玉 89金(先手手堅く勝勢図)で、先手が勝ちとなります。

先手手堅く勝勢図

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 長手数の変化になって恐縮ですが、要は、後手の竜や飛車を排除してしまえば先手の駒得が活きるので、後手に暴れられないように手堅く自陣に手を入れて、あとは物量で攻める感じです。
 先手手堅く勝勢図を見ても、後手は角金三桂と持っていても、先手玉に全く寄り付くことが出来ません。

 こういう展開を選択できるのも、最初に87銀に同金と素直に駒得をしたからだったりします。


9図からの指し手②
72桂(11図)

11図

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 9図から78馬の攻め合いは、変化が多いものの先手が勝勢になりましたので、今度は72桂と後手が徹底防衛する順を調べてみます。


11図からの指し手
24飛 同馬 同歩 25飛 38金 24飛 13角 84飛(12図)

12図

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 24飛が狙いの好手です。
 後手が駒を使い切ってしまったので、先手陣に早い攻めが無いのを見越しています。

 一方、先手は23の馬さえ排除すれば22とや23歩成が回ってきますので、後手もゆっくりした攻めでは間に合いません。
 ですので、後手は25飛と壁形を強要してから、24の歩を払って少しでも先手の攻めを緩和させて84飛と回り、金を取って二枚飛車での攻めを目指します。


12図からの指し手
22と 同金 同角成 87飛成 33馬 同銀 同馬 42金 88銀(13図)

13図

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 22とから先手も攻め合い、13図まではほぼ一本道です。
 しかし、88銀と竜と飛車の両取りをかけて、飛車を手に入れる形になりましたので、先手が勝勢です。

 後手は仕方がなかったとはいえ、72桂の形が酷すぎて飛車を降ろして攻められる展開になると粘りが利かないのです。

 こういう展開になったのは、8図で84飛と打った手が、82歩成と24飛の両にらみで非常に厳しかったからです。

 そうそう、8図以前に24歩と取り込んでしまうと13馬と粘られ、それから84飛と打っても72桂と打たれた時に24飛と回れませんので、注意が必要です(先手失敗図)。

先手失敗図

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 以上で、横歩取り45角戦法87銀型に同金と取った変化の解説を終わります。

 まあ、87同金ではなく77馬で十分勝てると思っている人は別にそう指せば良いのですが、横歩取り45角戦法は一発狙いの攻めが入りやすいので、極力玉形を堅くまとめたい人には87同金がおススメです。

 Sugarさんのようなスペシャリストならともかく、三、四段クラスで45角戦法を仕掛けてくる人は、圧倒的に77馬の変化の方が経験値も高いでしょうから、そういう意味でも87同金が勝ちやすいと個人的には思っています。


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