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新しい価値観で壊していこう 星野源 『Same Thing』に寄せて

I've got something to say...To everybody FUCK YOU!!!!

こんな痛快な、快哉を叫ぶコーラスを持つ歌が生まれる2019年のポップカルチャー。

星野源のNEW EP『Same Thing』が傑作です。10年代を締めくくり、次のディケイドのスタートを高らかに鳴らすような。



Superorganism(以下SO)をフィーチャリングしたリードトラック『Same Thing』。心を開放する自然音のSEから始まるカラフルなアレンジ。「みんなに言いたいんだ、ファック・ユーって!!」と底抜けに明るくカラッとしたポップソング。SOのオロノが歌う2ndヴァースが最高。

「とりあえずカラオケでも行かない?/私がビルで君がスカーレット/この最高な歌を聴いてほしいな/めちゃくちゃになろうよ」

ソフィア・コッポラの傑作『ロスト・イン・トランスレーション』を引用、オロノに「私がビルで君がスカーレット」と歌わせることで既存のジェンダー観に揺さぶりをかけます。

「夫婦を越えてゆけ」と歌う2016年の大ヒット曲『恋』、「血の色 形も違うけれど/いつまでも側にいることが出来たらいいだろうな」と歌う2017年のソウルバラッド『Family Song』とそのMV、自身の冠番組『おげんさん』と通じる、星野源の一貫したメッセージです。



「ファック!って思うことがたくさんある。けど近くには愛する人がいて。攻撃的じゃなく、明るいファック!っていう感情を届けたい」『星野源のANN』

この10年間ほどで、「ファック」という言葉の使われ方は大きく変わりました。いや、本当はその前から。「アメリカではファックと言うと殴られる」、そんなのは遠い遠い昔の話です。子供に好ましくない、と放送禁止にするのはほとんどギャグとして送り手も機能させています。

All Things Must Pass。すべては移り変わります。言葉もそのひとつ。なのにいつまでも自分の基準、価値観を変えらずに「ファック」という言葉を過度にタブー視していることと、例えば性的嗜好や人種間の違いを蔑んでいる、と世界中で使用を控えられるようになった言葉を使い続ける腐りきった連中の病理の根源は同じなのではないでしょうか。

「楽しいも最悪も同じことなんだ/それでいい」

ポジティヴもネガティヴも、どちらも決して切り捨ててはいけない感情です。喜劇と悲劇は紙一重。醜の裏打ちのない美はただ綺麗なだけ、まやかし物でしかありません。そんなまやかし物が溢れている社会、弱者や少数派を排除してしまう社会こそが「JOKER」を生み出してしまうのでしょう。大切なのは「それでいい」と言ってくれる存在です。



PUNPEEをゲストに迎えRascalのクールなビートにのせて「この輝きは僕のじゃなくて/世の光を映しているだけ」とカニエばりのリリックを叶露する『さらし者』。
近年興盛を極めるサウス・ロンドンから、メロウなテクスチャで特に日本で多くの支持を集めているトム・ミッシュを迎えた『Ain't Nobody Know』。
今年12月から始まるマーク・ロンソンと廻るワールド・ツアー、Netflixでのライヴ映像配信、各ストリーミング配信全面解禁と、この日本の下らない業界の事情を踏み越え続ける動きをそのままパッケージしたような身軽さ、快活さ。

「あの人を殴るより/いちゃついて側にいよう」

ラストを飾る『Same Thing EP』で唯一の単独自作自演曲『私』が優しく耳元でまた囁きます、「それでいい」と。

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