ここではゾンビも踊るから

 ツイッターからお越しのみなさまこんばんは。なぜか寒いですね。

 わたくしは中学~高校時代の途中くらいまで、ゴリゴリのフィギュアスケートウォッチャーでした。受験を前にゴリゴリできなくなると共に、お笑いという闇沼へ親指を立てて沈みつつありました。お疲れさまでした。

 

 フィギュアスケートにはアイスダンスというカテゴリーがあります。男女が2人手に手をとったり取らなかったりして滑るものです。ペアというカテゴリーもありますが、簡単な違いは2人で跳んで投げ(られ)てぶん回し(され)て踊って危険そうなのがペア、2人で回って回ってぶん回し(され)て踊って危険そうなのがダンスです。共通点は楽しくて美しいところです。

正直技術的なことを深く理解してはいなかったものの、わたしはアイスダンスを見るのが好きでしたし、かなりスケートから距離をとった今でも見たくなるのはアイスダンスです。


 さて、そんなの詳しくないワ…という方にも見て頂きたいプログラムがあります。よくわからないものを一度取り入れてみるというのは人生において大切なことではありませんか?みんなそうやってあらゆる闇沼に足を取られ金と時間を費やしてきた挙句QOL上げてきたくせに。……さあどうぞこちらへ。

世界選手権という、優雅に激しく火花を散らす最高の舞台にゾンビが現れました。

 ドイツ代表のネッリ・ジガンシナ&アレクサンドル・ガジー組(愛称:ジガガジ)の、2012-2013シーズンのフリーダンス(シングルでもフリーってあるじゃん、それよ)です。

見た?


見た?

ね。

ゾンビでしょ。


 フィギュアスケートには競技の結果が出た後エキシビジョンというものがあり、そこではルール無用の多様なパフォーマンスが繰り広げられることは有名かもしれません。が、まだ競技なのにこんなメイクをして、こんなゾンビ250%の荒れ衣装で、

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こんなリフトなどして(スローのとこまで再生するとコーチがげらげら笑っててウケる)

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やりたい放題。これが世界中のスポーツチャンネルに流れていた事実。

未だかつて競技でここまで好き勝手やった人たちを知りません。

名前がコールされて曲がまだ始まらない間にもすでに世界が始まっています。ヒトならぬ風格が漂っています。初めて見たとき本当にビックリした。それと同時に完全に恋に落ちた。ネッリ姉さまの頭の上の蜘蛛、ガジさんの額、すべてが輝いていました。ゾンビとゾンビがどこで何をしているのかいまいち分からないところもまた一興。

 ジガガジ組はこのような、突飛な設定のプログラムを数多く世に送っては世界中のフィギュアヲタクたちを悦ばせ、実況を困惑させ、解説者をニコニコにしてきました。


 こちらは13-14シーズンのショートダンス。こちらはステファン・ランビエールの振付、彼の名は特別フィギュアファンでなくてもちょっと昔のフィギュアスケートを見ていた人なら知っているかも。赤猫……いやなんでもないけど。

このプログラムは「デスパレードな主婦と本にしか興味のないオタク教授」という設定。人妻の退屈な人生に現れたオタク教授を誘惑して…という内容らしい。

……

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 しかしとにかくこのプログラムも始まる前から最後まで、とにかくジガンシナとガジーの世界であり、そこはまさしく舞台、劇場です。コンマ以下の点数でぐりんぐりん順位が変わりうる競技で、彼らもその繊細さの上には乗っています。しかし試合という見ているだけでめちゃくちゃ緊張する中でナーバスなことを忘れさせてくれて、ふふっと笑えて、魅了される、ふしぎな体験をいくつもくれました。

そしてこの年のフリーダンス、、、


え………?衣装いっしょ?リンクミスか?


否。

ショートダンスの「続き」、すなわちショートとフリーを通じた長編なのである!!!!!!………こんなのないですよ本当に。最初衣装忘れたのかと思った。

出だしのネッリ姉さんの表情だけで優勝している。朝チュンなのか見知らぬおっさんが寝ててオワリを感じてるのかよくわからないが最高であることは揺るぎない。


 アイスダンスなんかはとくに、愛し合う男女のかたちの表現というものがひとつの様式美としてあるのですが、ジガガジに関しては徹底的に2人の作りたいものを追求する、演じるプロフェッショナルとしてのパートナーというイメージが強いと感じています。好きだよなあそういうの、ア?


エモ強要やくざになってしまいました。


 しかもこれ、スケートがめっちゃうまいからできるのです。いくらコミカルな動きをしていても、スケーティングやホールディングが頼りなく、動きもバラバラだったら見ていられないです。若手の漫才を見ていて、本はいいのに声が極小とか、間がモチャっとしとんなとか、思ったことあるよね……心底笑うというよりはがんばれ………ってなるよね。


 お次。これはぜひ最初と最後、気を抜かず見てみてほしいものです。

 これをどう解釈しますか?

よくもまあ2人きり氷の上で描き出しますよねこんなの。

 なんか気付いてきたかもしれませんが、ちょっとキモいところがすごい。もっとかっこつけて気品振り回したってもいいのに。氷上の社交ダンスと言われているのに。ちょいキモ喜劇を全力でやってくる。革命を起こしすぎている。


 では最後に、かっこいいだけの姿を。


 2015年の世界選手権、ショートダンスの本番前6分間練習を最後に、ジガガジは姿を現しませんでした。ガジさんの体調不良で棄権したそうです。ガジさんはその舞台を競技生活の最後と位置付けていたので、実質カップルとしては現役を終えた形になっています。↑の動画は2017年のショー。ショーには現在も2人で出演している模様です。

 どれだけ愛されるスケーターであっても、場合によって「あの日が最後だったんだ」という気付きに直面させられるときがあります。たまーにネットの海で動画を見つけたり、SNSで消息を知ったり、という風になります。それすらない人もいます。世界は広すぎるので。推しは推せるうちに推すべきだし、生を知れるだけで幸せなんだなと思えるようになるよ。

 2人は五輪や世界選手権、グランプリシリーズなどでも表彰台に乗るような、メダルコレクターではありませんでしたが、きっとスケートオタクに好きなアイスダンスのプログラムを1つだけ挙げて!と言えば彼らのプログラムがたくさん出てくるでしょう。アイスダンス後進国にいる我々にも、自由であることの美しさと楽しさを教えてくれたからです。記録よりも記憶に残り、忘れがたく、ふとした瞬間にネッリ姉さんを背負って歩くガジさんが過るのです。トラウマティックな恋をどうもありがとう。  


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