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【特集・eric〜小さなものが集まって、想像を超える世界が動き出す〜】2022年10月号

eric(エリック)さんにお話をうかがいました

「HELLO, SMALL THINGS !」
この言葉は、消しゴムはんこ作家のeric(エリック)さんが、2015年に個展を開き始めたころから、ものづくりのテーマとして大切にしている言葉で、作品のパッケージなどにいつも添えられています。

「子どものころから、文房具や雑貨といったこまごまとしたものが大好きで、机の引き出しやクッキー缶に、鉛筆のキャップに付いている小さな消しゴムやシール、便箋などを大切に集めていました。今でも文具店を巡るのが大好きで、知らない国の切手やデッドストックの文房具などを見かけると、つい手が伸びてしまうんです」

そうやってコレクションしたものが詰まった引き出しをひっくり返したような、小さなものがあふれるワクワクする世界や、どこか懐かしさを覚えるようなモチーフを、ericさんは消しゴムはんこで表現しています。

「小さなものたちを並べて眺めているだけで、不思議と癒されるんです。私の作品を手に取った方からも、癒されると言っていただけることが多くて。同じ感覚の方がいることがとてもうれしいのと、無心になって彫る時間が楽しいのとで、小さなモチーフが集まったはんこをつくり続けています」

表現が無限に広がる消しゴムはんこの虜に

教科書やノートの隅っこに、ずっと落書きを描いているような子どもだったというericさん。美術が大好きになったのは、小学校の絵画コンクールで入賞し、先生に褒められたことがきっかけでした。高校を卒業してからは美術系の短大に進み、グラフィックデザインを専攻。その後、ホームセンターと雑貨店の文房具売り場で約4年、オリジナルとセレクトした文房具を扱うステーショナリーショップで7年ほど働きながら、ずっと作品をつくり続け、デザインフェスタやレンタルボックスで販売してきました。

消しゴムはんこと出会ったのは、14年ほど前のことです。当時、絵を描くための画材や文房具を探しに、ちょくちょく画材屋に足を運んでいたericさんは、消しゴムはんこのキットを見つけ、「新たな画材として使えたらおもしろそう!」と試してみることに。

「実際に彫ってみたら、自分の描いた絵がそのままはんこになって、いくらでも押せるのが楽しくて、一気にハマってしまいました。はんこならではのじんわりとした表情が美しく、インクの付け方や色によって印象が変わったり、ランダムに押すことでラッピングペーパーやノートカバーができたり、最近ではプラスチックやガラスに押せるインクもあたりと、表現が無限に広がっていて飽きることがありません」

文具店で働きながら創作活動を続けるなかで、転機が訪れたのは2015年のこと。全ページはんこの手押しで制作したZINEを置いてもらっていた「MOUNT tokyo」(現在、駒澤大学駅に移転)のオーナーが、「ぜひうちで個展を開きませんか」と声をかけてくれたそうです。その1カ月後には、学芸大学駅の「写真屋monogram」でも個展を開催。

MOUNT tokyo展示
monogram展示

「そのときに来てくださった方から直接感想を聞けたのが本当にうれしくて、もっと楽しんでもらえるものをつくりたいという思いが大きくなりました」

また、文具メーカーからも「商品を一緒につくりませんか」と依頼を受けるようになり、マスキングテープを皮切りに、メモ帳やミニカードなどの紙もの、文房具のイラストやデザインを手がけるように。

「自分がデザインした文房具が、お店に並んでいるのを目にしたときは胸が熱くなりました。今後のことは何も決まっていませんでしたが、集中してものづくりに打ち込みたいと5年前に勤めていた文具店を辞め、作家一本で歩んでいくことを決意したんです」

初めてのコラボ商品マスキングテープ

ストーリーが感じられる組み合わせを

普段、生活の中で意識して見ているのは、散歩の途中にある看板や喫茶店にさりげなく置かれた小物など。自宅で映画を観ているときも、文房具や雑貨が映ると気付けば一時停止して、デザインをチェックしてしまうといいます。雑貨屋さんや文具店のディスプレイを見るのも好きで、意外な組み合わせなのに統一感があったり、ストーリーが感じられたりするときは、スマホにメモしているそうです。

ericさんがつくるはんこや紙ものにも、一つの作品のなかに小さなモチーフが複数登場します。

「私の作品に人物は登場しませんが、文房具と一緒に、壁に貼ってあるチケットやメモが描かれていたり、ケーキやコーヒーが出てきたりすることで、人物の背景やストーリーを感じてもらえるように意識しています。そういう意味では、文具店のディスプレイと近いものがあるかもしれません」

もう一つ、小さなモチーフをたくさん描く際に気をつけているのは、全体の配置やバランスです。

「たくさんのものが並んでいてもごちゃごちゃして見えず、ずっと眺めていられるような配置を目指して、何度も調整しています。そのときに役立つのが、数年前に導入したiPad。じんわりとした表情が魅力の消しゴムはんこと、カラフルな表現や面で見せるグラフィカルなデザインが得意なiPadのどちらがより素敵に仕上がるかを考え、作品ごとに使い分けています」

刃先を小刻みに揺らしながら、やわらかな表情に

はんこを彫る上では、あえて刃先を揺らしながら彫ることで、線をやわらかな雰囲気に仕上げることを大切にしています。

「直線を直線のまま彫ってしまうと、どうしても版画っぽい雰囲気に仕上がってしまう。もちろん、それも素敵なんですが、私はもっとやわらかな表現が好きなので、刃先を揺らしながら線に表情を持たせたり、直線の始まりと終わりは必ず丸く仕上げたりしているんです」

そのきっかけとなったのが、敬愛する絵本作家・ディック・ブルーナ氏の展示を見に行ったこと。会場では、ブルーナ氏がミッフィーなどを描く様子が、モニターに映し出されていました。

「その映像を見ると、ブルーナさんは線を一気に描くのではなく、点を順に打つようにして丁寧に1本の線を描いていたんです。その姿に感動して、私もはんこを押したときにあたたかい雰囲気になるよう、1本1本の線を大切に彫っています。実は、ちょっとした彫り方の違いで、仕上がりが大きく変わってくるんです」

『ディック・ブルーナの世界―パラダイス・イン・ピクトグラムズ』

缶という新たな素材にも挑戦

5年前に作家一本で活動をスタートしてから、展示やワークショップを開催するごとに出会いも広がり、文具メーカーから依頼を受ける機会も増えていきました。当初は、メモ帳やノートなど、与えられたお題に応えるのに必死でしたが、ここ1、2年は担当者と一緒に話し合いながら、つくりたいものを提案して一から制作できるように。

そんななか、はじめて挑戦したのが「スクエア缶」です。子どものころ、可愛いデザインのクッキー缶が捨てられず、缶に文房具を大切にしまっていたericさん。きっと同じ経験をしてきた文房具好きの人も多いのではと、ずっとつくりたかったスクエア缶をデザインしました。

「いろいろな文房具が描かれた缶のフタには、背景に薄く罫線を引いてノートのような雰囲気に。これまで購入してくださったはんこも入れられるよう、缶は少し厚めにつくっています」

スクエア缶セット

このスクエア缶のほか、ツバメノートとコラボした新作のA5サイズとブラックのノートや、ツバメノートの表紙を生かしたメッセージカードなどが、今回の月刊手紙舎10月号「eric特集」で先行販売となっています。

ツバメノートA5・A6 セット

“文房具を楽しむ時間”までトータルに提案したい

この8月に開催された「紙博 in 東京 vol.5」にも出展したericさん。来場者のみなさんから直接かけてもらった言葉はもちろん、「ラブレターポスト」という企画を通じて受け取った手紙に書かれていた言葉が、涙が出るほどうれしくて、これからのものづくりの原動力になっているといいます。

「近い将来、文房具一つひとつだけではなく、“文房具を楽しむ時間”まで想像したものづくりができたらいいなと思っています。例えば、コーヒーを飲みながらだったり、お菓子を食べながらだったり、あるテーマを決めてお部屋や机の上をトータルに提案できたらおもしろそうだと考えているんです」

消しゴムはんこやそれをもとにしたデザインを通じて、毎日が少しでも楽しくなるような、文房具がもっともっと好きになるような、作品を届けていきたいと願うericさん。小さくて可愛いモチーフが集まって、これからどんな世界を見せてくれるのか、想像するだけでワクワクが止まりません!(文・杉山正博)



eric (エリック)
イラスト・デザインも手がける消しゴムはんこ作家。引き出しをひっくり返したような小さくて可愛いものにあふれた世界を、はんこで表現。はんこそのものだけでなく、そのイラストを使用した文具や紙もの雑貨も展開。近年では大手メーカーとコラボしたノートも発表。

Web Site:https://hellosmallthings.wixsite.com/emstamp
Instagram:https://www.instagram.com/eric_smallthings
Twitter:https://twitter.com/em_smallthings



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