vol.64 この時のために。【手紙の助け舟】
こんにちは。喫茶手紙寺分室の田丸有子です。
8月に入り、ベランダに吊るした風鈴の音が夕暮れの涼風を運んできてくれるように感じます。みなさま、いかがお過ごしですか。
先日、友人のご主人が亡くなりました。友人と言っても、趣味仲間のお一人で数えるほどしかお会いしたことがなく、葉書を年に数回送り合うぐらいの間柄です。お香典だとかえって気を遣わせてしまいそうですし、そういう時はやはり手紙でお悔やみの気持ちを伝えるのが一番とペンをとりました。
まず、紙を選びます。こういうときのために普段から、真っ白い葉書、白地に罫線だけの葉書、それと二つ折りのシンパシーカードは何枚か持ち合わせておくようにしています。友人のことを考えながらどれにしようかと選び始めましたが、どれもピンときません。なんだかもっとふさわしいカードが他にあるような気がしました。
そこで、お悔やみのためのカードとしてではなく、その友人のために贈りたい葉書だったら、と普通の葉書をストックの中から選んでみることにしました。箱の中にぎっしりと詰まっている葉書を1枚ずつていねいに見ていきます。こういう時は、心の動きが鍵になってくるので、見逃さないようにゆっくり探します。
そしてこれだ! と確信したのがこちらの葉書でした。
日本画家・森田りえ子さんの「朝の月」。表側には「いのち賛歌」とあります。念の為にこの絵の意味を調べてみると東京書芸館のホームページに詳しく出ていました。森田りえ子さんはご自身が最愛のお父様を亡くされたときにこの絵を描いたそうです。
なんとなく惹かれて購入し、特に理由もなく持っていた葉書でしたが、これを読んだ時「あぁ、この葉書が今手元にあるのは私がご主人を亡くした友人に送るためだったのか」と思いました。
相手のことを想って紙を選び、相手のことを想って書く。それは私にとって長い間の習慣になっていますが、時々こんな風に巡り合わせのような瞬間に出合います。相手と自分の間でこれまで育まれてきたものを静かに見つめると、少しの迷いもなく選べる瞬間があります。
一枚の葉書が友人の心を慰める役割を大いに果たしてくれますように。そんな願いも込めながらお悔やみの言葉をしたためました。
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