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vol.52 費やした時間の中にあるもの【手紙の助け舟】

こんにちは。
喫茶手紙寺分室の田丸有子です。
風薫る爽やかな季節、お変わりなくお過ごしのことと思います。

バラの季節

東京あたりでは5月はバラの季節です。私の小さなベランダでも待望のバラが花開きました。今年初めて咲いたバラの名前はbillet-douxビレドゥ。フランス語で、意味は「ラブレター」。手紙にまつわる名前のバラがあると知り、ご縁を感じて苗を購入しました。蕾は濃いピンク色ですが、咲くとなんとも言えない優しい色になります。よく見ると花びらにマーブル模様のようなグラデーションがあり、とても上品な香りをほのかに漂わせています。最初の一輪が咲いた時はその美しさに胸を打たれ、本当に感激しました。
バラのお世話は苦手な虫や病気との戦いでもありますが、花が咲いたその瞬間にすべてが報われます。

星の王子さまとバラ

バラと言えば、サン=テグジュペリの小説『星の王子さま』の中に、王子さまがわがままなバラとの絆について悟る場面がありますよね。
有名なキツネのセリフ「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」の後に続くセリフがまた意味深いのです。

「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみがバラのために費やした時間なんだ。」

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ著 河野万里子訳 『星の王子さま』より

この”費やした時間”の部分は翻訳者によって「失った時間」「ひまつぶし」「無駄な時間」などの日本語に訳されています。それぞれのニュアンスがかなり違うので、同じことを言っているのに印象がだいぶ変わりますよね。私はフランス語は分かりませんが、「費やした時間」という訳は他の言葉の意味も当てはまるので理解しやすい気がします。
それに他人から見たら無駄に思えるかもしれない、ひまつぶしに見えるかもしれない。それでもなぜそこに時間を費やしたのか、本当の意味を知っているのは自分だけですから。
大切な絆や愛情は一見ひまつぶしのような時間から生まれたり育ったりするのだとも解釈できる気がして勇気をもらえる言葉です。

このマキシマムカードはその場面をイメージして随分前に作りました。
物語に従って『星の王子さま』のポストカードに、キツネの切手(秋のグリーティング)を貼っています。
箱根にある「星の王子さまミュージアム」に期間限定で仙石原郵便局の臨時出張所が設置されて特別な小型印を押してもらえると知り、わざわざ箱根まで行きました。それこそ暇人だなぁと思われそうですが、趣味のために贅沢な時間の使い方をした、私にとって良い思い出が蘇る一枚です。

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田丸有子(たまる・ゆうこ)|喫茶手紙寺分室 note ライター
手紙文化振興協会認定 手紙の書き方コンサルタント
子供の頃から「手紙魔」と呼ばれるほどの文通好き。
切手に描かれている美術品や絵画の実物を鑑賞するための美術館巡りが趣味。目下ステイホームで始めたベランダガーデニングに夢中。
blog: 手紙魔Yukoのお手紙ライフ

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