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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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2020年8月の記事一覧

【spin a yarn】
わたしは物語に仕える。
インクの子どもの召使いとなる。
おめかしをして、さあ、行ってらっしゃい。
のびのびと自由にさせる。
気を配り、責任を取る。
変わっていていい。疎まれてもいい。
あなたは素晴らしいと認める。
腕が足りないのはわたし。まだまだ学べ。

【spin a yarn】
嬉しくなりたくて書いている。
(世界の秘密)
好ましいことばかりではないのかもしれない。
それでも。
蝶のはばたきを見て微笑みに感じてしまうのを、毀さず伝えられますように。
それは幼な子のウインク。
誰に向かっていなくても、見つけたら、愛しく嬉しい。

【spin a yarn】
夜の深みが、歌を歌えよとそそのかす。
月が眠ったからいいだろう、と言う。
星の瞳が明るくなり、拍手する。
心の繭を撫ぜる。いつ、巣喰った。
雨の夜、言葉を養ったろう。それで貪った。
羽ばたきを待てと、夜に言う。
繭のかさこそも、また歌、と夜が言うので。

【spin a yarn】
夜の底に漂えば、すべてのことが不思議になり、嬉しくなる。
安心して、明日、新しいを探す。
砕けた心を集めている。
治して、と言わない。
星影にかざし、美しい断面を探す。
こんなに美しいものを壊したのよ、と言わない。
あなたの喜びになるように研磨する。

【spin a yarn】
暑い夜に星の滴る
すっと溢れるので拾って
すっと溢れるので願って
幼子の夢が夢の中で叶いますように

【spin a yarn】
明かりを落とせば、空調の風の、足にまとわりつく。
深い夜でも、熱のたまりは、たむろしたまま。
空調を落とせば、たちまち、呑まれるだろう。
水を飲む。
冷たい空気を壊さぬように、そろりそろり、横になり、眠る。

【spin a yarn】
夜を見つめる。
昼は透明で、捕まえられない。
夜は見通せない幕となり、ここにいる。
触れようとすると、手のひらをすり抜ける。
雲にお願いをして星を見えるようにしたよ、と言う。
それは星で、夜ではないから。
夜に含まれる、そのように昼を見るのよ、と言う。

【spin a yarn】
「おめめのキスをちょうだい」
「おめめのキス? まぶたに?」
「そうじゃなくて、パチンとするやつ」
「ウインクね! いいよたくさん送っちゃう」
「ステラはおめめのキスがじょうずね」
「ルチアの見せる猫のキスも嬉しいよ。そうやって大好きな人に届けるの」

【spin a yarn】
月の滴る。
夜はくすぶって、まとわりつく。
星の声はくぐもって、懐かしい歌のよう。
おやすみ、おやすみ。
月の果汁はマンダリン。
夢にかける甘いシロップ。
ことさら甘い、よい夢を味わえますように。

【spin a yarn】
心のままに歩むこと。
熱烈に神を求め、至った。同じように美と物語を求めよう。
今は聖書の言葉があるのだから、もっと確か。
あなたに素敵を届けたいと願い、探す。見つけたら、あなたの心をノックする。
こんな素敵なものを見つけたから一緒に喜んでください、と。