見出し画像

助詞「は」の不自然さを解消する(1)

こんにちは、よんのすけです。
今回のシリーズでは、「は」を使った訳文が不自然にならないようにするためのテクニックを紹介します。取り上げるのは次の3つのケースです。

● 格関係が不明確
● 動詞から遠くわかりにくい
●「は」が使用された、自然とは言い切れない微妙な文

翻訳者さんから納品された翻訳をチェックする際や、自分が翻訳する際に引っかかる点をピックアップしました。今回の記事でご説明するのは、「格関係が不明確」なケースです。

注:一連の記事は、日本語文法の専門家ではなく翻訳者が執筆したものです。そのため、文法学的な観点からすると説明が必ずしも正確でない可能性があります。これらの記事は、翻訳の文章をわかりやすく、読みやすくするためのTipsとしてご覧ください。
 また、本シリーズの内容は記事「助詞『は』の話」を踏まえておりますので、そちらを先にお読みになると、より理解しやすいと思います。

〇格関係が不明確

格関係を表す「は」と表さない「は」の使い方があると以前の記事で述べました。そのうち、格関係を表さない「は」は実用文ではあまり濫用しない方が望ましいでしょう。

私はうなぎだ

のような「は」のことです。実務翻訳においては、たとえば

このアプリはiOSです
(このアプリはiOS向けです / このアプリはiOS向けに作られています)

という使い方が考えられるでしょう。
こういった「は」は、格関係がはっきりせず、主語と述語の関係が不明確になり、事実関係が曖昧になりがちです。当然ですが、私=うなぎ(またはアプリ=iOS)という意味ではないでしょう。実用文では情報を正確にわかりやすく伝えることが重要で、事実関係があいまいになるのは避けるべきです。上の例文にしても、コンテキストがなければ理解にいくらか時間を要するでしょう。多かれ少なかれ、文中の要素間の関係性がどうなっているか、事実関係がどうなっているかを読み手に考えさせることになります。そういうことのないよう、読み手の負担を少しでも減らすよう工夫すべきです。

また、格関係を表しているものの、その把握に時間のかかるような「は」も避けます。読み手が立ち止まって考える必要があったり、一読してわからなかったりする「は」を使わないようにしたいものです。次の例文をご覧ください。

This operation is logged to prevent unauthorized access to sensitive data.
機密データへの不正アクセスを防止するために、この操作はログが記録されます。

ややひっかかりがあります。気になるのは「操作はログが」の部分です。
「操作」が記録されるのか、「ログ」が記録されるのか?
このように少し気になる「は」が出てきたとき、どうすればよいでしょうか?
前の記事で行ったように「は」を格助詞に戻してみて、もっとわかりやすい表現にできないか考えてみます。この例の場合、格助詞「の」と読み替えることができそうです。

機密データへの不正アクセスを防止するために、この操作のログが記録されます。

これはまた、次のように直してもよいかもしれません。

● 機密データへの不正アクセスを防止するために、この操作のログは記録されます。
この操作のログは、機密データへの不正アクセスを防止するために記録されます。

わかりやすくなったと思うのですが、いかがでしょうか?

上記のように格助詞「の」と読み替えられるような「は」には、わかりにくいケースがあるようです。一方で、「象は(の)鼻が長い」のように、まったく違和感なく理解できる「~は~が」の文もあります。これは、日本語教育で「~は~が」構文と呼ばれ、おおよそ次のように定式化されているようです。「AはBがC」において、

 A=話題となるもの
 B=それに帰属する部分・特性・要素など
 C=形容詞

となっている場合です。IT翻訳で出てきそうな例文を挙げてみると、

● XYZサービス可用性高い
● ABCプラットフォームパフォーマンス高い

などになります。
こういった「は」であれば不自然さを感じませんね。最後に次の例を見てください。

詳細は、関連するセクションを参照してください。
● 現在、私たちこの段階です

1つ目の文の「詳細は」の「は」は、最後まで読むと主題提示のみを行う「は」だとわかります。しかし、名詞に単独で付く「は」は、主格をはじめとする格関係を表すことが多いため、主題を提示するだけなのか、それとも格関係まで示すのか、読み終わるまで判断が付きづらいのです。細かいようですが、こういった「は」も私は次のようにしておいた方が安心だと考えています。

詳細については、関連するセクションを参照してください。
● 現在、私たちこの段階にいます

2つ目の例で「私たち」が「段階」であると考える人は実際にはいないと思います。しかし、日本語の正確さにこだわる人がチェックを担当したら、「私たちがこの段階にいる」と事実を明確に表現するよう指摘が入るかもしれません。注意が必要です。

ここまでのまとめです。

格関係が不明確になるような「は」は避ける。また、格関係の把握に時間がかかるような「は」も避ける。少し気になる「は」を書いてしまったら、格助詞に戻してみる。

これを覚えておくとよいと思います。

その2はこちらからどうぞ↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?