質問紙から見る「心の回復力(レジリエンス)」
今回は、「回復力(レジリエンス)を定量化する尺度」というテーマで書かせていただきました。
TechDoctor のデータサイエンティストの杉尾です。
過去、「心の回復力:レジリエンスの変遷」という記事を書きました。今回は、その記事内で宿題として残った定量化するための尺度に関して、整理したいと思います。
あと、冒頭に失礼いたします。弊社へのお問い合わせはコチラになります。「こんなことはできないか?」、「こういうサービスまたは研究をしたいんだけどサポートしてくれないか?」など、何なりとお申し付けください。
1. 質問紙編
この領域では定番ですが、質問紙による定量化尺度を整理したいと思います。
1-1. Connor-Davidson Resilience Scale(CD-RISC)
CD-RISCは、2003年にConnor-Davidson氏らが、心的外傷を受けてもPTSDを発症しないレジリエントな(疾病抵抗力のある)人々の特徴を抽出し、開発した尺度です。
これは、主な5因子から成る25項目の各々を5件法で評価する自記式尺度です。それぞれの項目に被験者が過去1ヵ月の心理状態を、まったくそう思わない(0点)〜いつもそう思う(4点)の5段階で回答します。総合点は0~100点の範囲に分布し、得点が高いほどレジリエンスが高いと評価されます。また、各因子は、
変化適用能力
課題対処能力
ストレス対処能力
持続的集中力と考える力
感情処理能力
に分けられるようです。
使用に関しては、CD-RISCの原著者からの許諾を得る必要があるなど面倒な手続きの問題などもあり、広く使用・検討されているとは言えないようです。
1-2. Resilience Scale(RS)
RSは、1993年に Wagnild & Youngらによって開発された尺度です。RSは、個人的コンピテンス(Personal Competence)と自己と人生の受容(Acceptance of Self and Life)の2因子を25項目の設問(7件法)で構成しています。様々な年代で使用することができ、高い内的整合性や妥当性が示されており、現在のところ最も信頼できるレジリエンス尺度であるようです。[2]
1-3. Adolescent Resilience Scale(ARS)
国内では、2002年にRSの尺度項目を参考に小塩らが作成した精神的回復力尺度(Adolescent Resilience Scale、ARS)があります。これは、21項目3 因子(新奇性追求、感情調整、肯定的な未来志向)から構成されています。[3]
また、全体得点を精神的回復力、3つの下位尺度(新奇性追求,感情調整,肯定的な未来志向)に焦点を当てた得点化も可能な尺度です。
1-4. Bidimensional Resilience Scale(BRS)
2010年に、平野らによって開発された尺度です。個人内のレジリエンス要因を、個人が持って生まれた生得的な要因と後天的に獲得可能な要因とに分けて捉える新たな視点を加え、両者を区別して測定可能な点が、二次元レジリエンス要因尺度 (Bidimensional Resilience Scale、BRS)と言われる理由です。
この尺度は、21項目2因子
資質的要因
獲得的要因
と7因子
楽観性
統御力
社交性
行動力
問題解決志向
自己理解
他者心理の理解
による二次元構造となっています。
医療関係の教育機関や病院等で学生やスタッフの学習ニーズ把握のための現状や教育的介入による学習効果の評価を行う上での有用性が高いとも考えられています。[3]
2. 生体データ編
生体データを利用した尺度は、「心の回復力」にフォーカスを合わせたものはないようです。そこで、一般的に利用されているのは、LF/HF比といった心拍変動の周波数のバランスを数値化された指標です。このLF/HF比に関しては、これだけで大トピックであるため、別記事で整理したいと思います。
また、「心の回復力」ではないですが、「身体的な回復力」は心拍データなどで計測することが可能です。この「心肺機能強度としての回復力」にフォーカスした話は、別記事にまとめているので、お時間よろしければどうぞ。
3. 今後の記事に関して
上記でも触れたように、
LF/HF比とは
(心拍変動に関する指標を体系的に整理する)
を整理したいと思います。
今後も、継続的にこの領域に関してキャッチアップした上で、発信をしていきたいと思います。ご興味を持っていただけたならば、「スキ」していただけると中の人が喜びます。
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参考文献
[1] Kathryn M Connor, "DEVELOPMENT OF A NEW RESILIENCE SCALE:THE CONNOR-DAVIDSON RESILIENCE SCALE (CD-RISC)", DEPRESSION AND ANXIETY 18:76–82 (2003)
[2] "レジリエンス(精神的回復力)とは?その促進方法と測定方法、システム化に向けた調査", URL: http://www.cc.aoyama.ac.jp/~well-being/resilience/index.html, アクセス日:2022年2月8日
[3] Satoko Kasahara, Chie Sugimoto, Kohei Oka, "看護学生および看護師における二次元レジリエンス 要因尺度の信頼性と妥当性の検証", 日本看護科学会誌, J. Jpn. Acad. Nurs. Sci., Vol. 38, pp. 160–168, 2018
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